50, ダンジョンで、………異種格闘戦? 終の八
久々に時間が掛かりました。お待たせしました。
弔い合戦が始まった……………、ハズだったのだが。
ダイマジョオウイカと天敵のキマイラとの間に張った盾はキマイラの猫パンチに軋みながらも、まだ機能している。
俺は、今のうちに戦いの布陣を変えようとして指示を考えていた。
「風の……」と、言いさした時、そこにストップが入った、入れたのはルナ。
「ねえ、セトラ。ダイマオウイカの敵って言ったっけ?」
再度、確認するようなルナの言葉に頷く俺。
「ああ、そうだが。」
「…………。」
その言葉に目頭を抑えて、揉んでいるルナ。
「アンタの後ろで揺れているのは……何? ダイマオウイカはそこにいるでしょうが!」
疲れたような表情で、俺の後ろに指を差す。
もちろん、そこにダイマオウイカに似た存在がいることは承知しているのだが。だが、しかし既にダイマオウイカでは無いのだ。
「俺の後ろにいる存在はダイマオウイカに似た存在だ……」
「ダイマオウイカに似た存在って、どこからどう見ても今まで闘っていたダイマオウイカでしょうが!」
激昂するルナに対して、俺は静かに問い掛ける。
「なあ、ルナ……、ダイマオウイカって普通は世界に何匹いると思う?」
「ハア? ダイマオウって言うんだから、普通はまぁ世界に一匹でしょうね。〇クション大魔王も一人だったし……。それがどうしたって言うの?」
〇クション大魔王の存在を知っているとは……。前世でジャパニメーションに、のめり込んだだけのことはある。
「そう、普通に世界に一匹のダイマオウイカだった。ついさっき取り返しの付かない事故が起きて、ダイマオウイカはダイマジョオウイカになった。」
「…………………、はぁ……。ええっ!」
「彼から彼女になったダイマジョオウイカに、次は無い。そういうことだ。」
「雌雄同体という事だと……。」
「本人(イカ?)の自覚は無かったようだから、片方が無くなってから自動で起動したのだと思う。さっき、鑑定をしてみたんだがダイマオウイカであった時よりも全体的に若干大きくふくよかになっているみたいでさ……。たぶん、もう性格も影響を受けているはずだよ。」
「……………マジで……」
「うん、マジで……」
ルナとの会話の最中、『………、主殿。それがしの見間違いで無ければ、あのキマイラにはとても足りないものがござるよ』という、コーネツからの想転移が入る。
「それとさー。ルナ……、今コーネツからの想転移が来たのだけど、あのキマイラに何か足りないものがあるらしいんだよね、何か分かるかい?」
そう言われてみれば、俺も何か物足りないような気もするのだが……。
「ええ、なにそれ。足りないものー?」
そういって、盾の向こうで対峙しているキマイラをじーっと見詰めはじめる、ルナ。
ルナが左に小首を傾げていると、キマイラの首も傾がる。それを見て、別の方向に傾けると、キマイラも傾ける、お前ら、何してんだ?
「なんか、見てて和むわねぇ…。」
と、感想を漏らしたのは、ジュウン・コイズパル。
ああ、モフモフ系が好きだったっけ。
と、イクヨとレイも頷いているという事は、どうも同じ心境らしい。
「………、ああっ! ヤギがいない……、知性を司るはずの獣……」
なるほど……、獅子の顔と虎の胴体にシッポに蛇、そして本来背中にヤギの首から上が乗っかっているはずなのだった。それがどういう訳か、無い。
「道理で、撒き餌に引っかかり、流砂に嵌まり、飲み込まれてここまで来たのも肯ける。そういうことだったのか、だが、どうする? ここには、あの獣を治せるほどの光魔術の使い手はいないぞ。…………………あっ。 一つだけあるには、あった………か。」
『気付いたでござるか、主殿? 助けるにはそれしか無いのではござるが………。弔い合戦の相手ではござるよ。』
たった一つだけ、あのキマイラという獣を助ける手立てがあった。助けるというのであればそれしか無いというものが。
「う~~~~~~~~~~~ん」
どちらにするかなんて、俺には選べない。選ぶとしたら一つしか無いからな、俺としては……。
密かに煩悶としていた俺に、ダイマジョオウイカが声を掛けてきた。
『あたしは生きているから~、そこは別にいいの~。でもぉ、彼女怪我しているみたいだし、お腹も膨らんでいるみたいーなの。治せな~いかしらぁ』
そう言われてよくよく見てみると、それなりに腹が膨らんでいた。子供のキマイラって言うのは知らないが、母親としての必死さは伝わる。
というか、新米の女性体のくせして、母性本能がハンパないな。
ま、いーか。
「悪りぃな。ダイマジョオウイカの許可が出たから、ダイマオウイカの弔い合戦は中止しま~す。」
俺の指示の急展開に、新たな戦いに緊張していた仲間たちがコケる。
「言うと思ったよ……。」
「やっぱり、転生しても性格って言うのは変わらないんですねぇ。」
そう、ヒリュキとユージュにツッコまれてしまってはいたがしょうがないだろう?
俺のその性格のお陰で、誰かさんの息子までやっぱり拾うことになったんだから……。
まぁ付き合いの長い連中は、納得しきりではあったのだが、まだ問題が残っていた。
それは……。
「後は、誰が養い親になるかだが、誰かいるか?」
契約することは簡単だ。名前を与えれば大体はオーケーしてくれる。
養い親には、魔物との経路が通り、お互いの魔力の受け渡しが可能になる。怪我をしている、もしくは魔力が少なくなっている魔物に対しての救済措置と言える。
意思の疎通も可能だった。
声を掛けてみるが、キマイラではさすがになるヤツがいないか? と思っていたら、予想外の人物から声が掛かった。
「赤ちゃん、いるの? ママ、パット、赤ちゃんと友達になりたいな」
そう言って、ヒリュキの影からおずおずと出てくるのはパトリシア。その言葉に頷くようにルナが歩み寄ってくる。
「ま、こうなったか? さっきのお見合いでなんかさー、あたしに近いモノを持っているコだなって思っていたんだよね……、あたしが養い親になるよ。」
「パットは、赤ちゃんのやしない親になるよー」
にこやかに微笑む親子の姿に、みながほこっとしていたが、ここで俺はやっと暗躍していた黒幕に気が付いた。
「これでキマイラの行き先は決まったな。じゃあダイマジョオウイカの養い親はお前がなれよ? 魔王?」
俺の言葉に思わず全員が目を剥く。
「は? はいいぃぃぃぃぃ…………。」
「どどどど、どゆこと?」
驚きすぎて、噛み噛みのルナに俺は裏側を推測して話してみる。
「つまり、このダンジョンはこの魔王様の支配下にあるわけだが、こちらの学院側には、冒険者が少ない。学業で成績の悪かった者の救済策としてのみの運営で有り、魔物たちは、活躍の場が無い。そのために、学院に潜入するつもりだったはずだが、俺がこちらに来たからな。ついでと言っちゃなんだが、学長との面識も出来たし、自分の魔王国にいる特殊な事情を持つ奴らに日の目が当たれば良いと思ったんだろう。ダイマオウグソクムシ五匹のうち三匹が雌なんて、そういう確率は本来有り得ないものな。しかも、卵を抱いている。人間の国の冒険者からしたら、喉から手が出るくらいには美味しい? 仕事だ。しかも俺はこちらでは本来、自然と気象の調停者だからな。そういう歪みには敏感に気付いちまう。このキマイラはお前の親の養いっ子か?」
魔王というのは世襲制がほとんど。シャイナーが魔王で権力も権威も持つのなら、シャイナーの親は既に亡い可能性もあるが。その世襲によって魔物たちの中の序列が変わったりするモノも多いと聞く。このダンジョンにいるのはその弾かれたモノたちという確率が高くなっていく。
「さすが、気象魔法士殿。展開を読むのが早いな。そのキマイラのキナコは私の親のモノだった。だが、親の隠居により移動手段としては使えなくなった、で、キマイラの牧場に放していたら身籠もっていた、という訳。雌だけの牧場なのに……と思っていたら、背中のヤギがいなくなっていた。ヤギがいなくなったから身籠もったのか、それは分からん。ただ、キナコはヤギがいないことも、身籠もっていることも楽しんでいる風がある。契約するなら呼び名をキナコにするのかどうかは聞いてくれ」
魔王様の説明と提案に、ルナは頷く。
『想転移、あー、キナコで良いのか? 俺たちの仲間の彼女と契約しないか? お前の子供ともども仲良くなりたいそうだ』
『うん! いーよー。あ、デモデモあの燻製肉はチョーダイ! 今までの話は聞いていたし、オーケーオーケーだよ。』
その条件をルナに伝えていたら、突然……。
『生まれるよ!』
『ええ?』
『生まれたよ!』
『はぁ?』
キマイラが突然『生まれる!』といった後に体をブルブルしたと思ったら、可愛らしい、キマイラの雌が生まれていました。ミーミー言っててパットがすぐさま、契約しにいきました。でも、背中にヤギがいません。ヤギが子供になったんでしょうか?
それは不明です。
ま、でもこれでこのダンジョンの三階は踏破したことになりました。
この調子でいくと、最終階に到達する頃には、何匹の魔物と契約していることかなぁ?
「さて、セーフティルームでひと休みしたら、接待か……。お前らは次の階に行っていてくれるか?」
その俺の言葉にヒリュキも魔王も全員が首を横にフルフルしてました。
はて、どうしたのでしょう?
「「「「「「「「「ギブミー、おやつ!」」」」」」」」」
大合唱でした。ああ、美味いものを食べに行くってバレていましたか?
仕方ないですね、接待する人たちとは別棟になりますが、鋭意を養いにひとっ風呂浴びにいきますか?
「「「「「「「「賛成!」」」」」」」
「総転移!」
ゴーレムハウスごと、転移しました。




