45, ダンジョンで、………異種格闘戦? 終の三
え~、争奪戦が始まりました、ハイ。
『あの辺の連中』からの、くれくれコールはいつも通りだったのですが……。
予想外のところから、手が伸びてきまして、ハイ。
手が伸びてきたその先はというと、「彼」と「彼と彼女ら」でございました。人間の食物などのどこに魔物が心? 惹かれたものか。
「彼」などは、ルナの食物に対する狂乱ぶりに中てられたのかも知れないけどな?
層庫からの目測による転移は、なかなか届かず、届いても途中で攫われてしまうようで対策を講じなければなりません。即ち、手渡しが一番良いみたいなんだけど、触手? から逃れた者、いまだ無しとか。何やっているんだよ? まさかと思うけど魔法を阻害されているのか? 俺も同じことやって全然大丈夫だったのに?
あ、ひょっとしてノコギリソウの種か? 何故か、あちこちに飛ばされている雄株の種があって、『あの辺の連中』の周りにも結構あるようだし…。
途中で狙っているのはノコギリソウで、彼らは地中のザルによって繁殖場所を確保したようで、雄株同士で縄張り争いを始めています。もっとも、ザルの範囲外にも種を飛ばして牽制の手段にしようとするが、砂の上では引っかかるものも生息に適した場所も無く、ただ彼らの種はそれが放つ振動で沈降していく。そこに土が有れば引っかかるという事なのだろうが。
それにしてもダンジョンの砂漠フロアというのはどういう仕組みなのかな?
ある意味、無駄撃ちみたいな感じだけど。
それなのになんで自分たちの大事な種を牽制に飛ばしてでも、こちらの食物を狙い撃つのか? という問いはノコギリソウの言葉が通じないため、いまだに不明である。
従魔契約でもすれば別かも知れないがね。ジョンと契約した直後はカタコトでなら意思が通じていた、でも今は結構流暢な会話が出来てる。
おそらくはダンジョンの中という不毛の大地での唯一の高エネルギー物質であるからかも知れない。そういう三者三様の理由で争奪戦が起きていたわけだろう。
「……というか、君たち、とっととそこから抜け出せよ。それくらいの力は有るだろう?」
大きい魔法が使えなくても生活魔法クラスになるとどんな状況であっても枯渇とか封印とか有り得ないものだ。魔法生物たる彼らが動けているのなら、何かの属性で動いているはずなのだから。その属性を探せば良いだけだと思う。
いま六十人の魔法士がいるなら、どんな属性でもどんな個性でもどんな種類でも良いから、それぞれの魔法を打っ放せば、判明するだろう?
後は全力で全員で打っ放せば良いだけだよ。その魔法の圧力は新しい扉を開いてくれるよ。
そう思っていたら、雪狼のジョン君がノコギリソウの雄株に撃ち落とされた瞬間に『風』を発動して、ホットヤーキを回収してくれていました。
……いましたが、「待て」も掛けていないのに律儀に待ち続け、さらには涎が垂れまくるのを見て、つい「よし!」と言ってしまいました。駄目だよ、そんな困ったような上目遣いをするなんて~。
可愛いヤツめ、よしよし、おかわりをあげよう。
だが、その情景はノコギリソウの雌株たちに衝撃をもたらしたようです。
折角、雄株たちが撃ち落としてくれたご馳走を目の前でかっさらわれた挙げ句、素直に待ち続けて俺の許しを得て雪狼が嬉々として食べまくっているという情景に。
しかも、おかわり自由ですか~? とか思ったみたいで……。
『あたし一抜けた~』とでも言っているかのように、雌株の一体が折角の場所から片足(根?)を抜き出した。ホットヤーキは相変わらず撃ち落とされ、ジョンが回収していたのだが『ジョン、放っておきなさい。それよりもいま目の前にあるのはどうする? 食べるかい、それとも仕舞っておくかい?』と、想転移で聞いておくと、『仲間にあげたい』という意思が伝わってきたので、層庫にジョン用として仕舞っておく。
さすがはボスだな、度量が違うわ。
さて、抜け出してきたノコギリソウの雌株の一体が、ふらふらでこちらに来るから、層庫から取り出したミスリルで魔道具を作ってみました。
サイズ調整できる小さな鉢仕様のもので、空中の水分を自分たちの必要な水分として確保できるという便利グッズです。移動用ですが必要な魔力は充填式です。
ゴーレムハウスの一角に基本的な花壇があり、そこで充填できますがそこ以外は危険地帯です。…って、誰に説明しているんだろう? 俺。
なんか、ノコギリソウの雌株たちがキーキー言っていたのでホットヤーキを出してやりました。『あの辺の人たち』と、ダイマオウイカの視線がなぜか痛かったです。




