42, ダンジョンで、………異種格闘戦? 弐
確か、あの日は深海生物の調査という名目の探査漁船に乗っての解説の仕事だったはず。
エル・ニーニョ現象の余波で深海の生物に影響がないかという趣旨だったと思う。
俺と、ヒリュキ、シャイナーは、それぞれが別々の仕事で同乗し、隠遁していたルナは鯨を見るという事で、生レポートするためのTVの仕事に来ていた。
女の盛りという艶のある年頃の女性でしたから、TVでも引っ張りだこでした。
突如、目の前に泡が盛り上がったかと思うと、マッコウクジラが海面から盛り上がり、激しい勢いのまま飛び上がった。
その鼻先にはボロボロのダイオウイカが、マッコウクジラの両目を吸盤で攻撃しており、そのどちらもが既に瀕死状態なのが判るくらいには、双方の体中に激戦の跡を残していた。
浮かび上がったものの鯨は既に波に揺られており、力なく漂い始めた。そこへダイオウイカが何を思ったか、鯨から離れ、三本の触腕を伸ばす。二本はルナのスカートに伸び、三本目は何かの袋を先端へと送り始めていた。
ある意味、何をする気かは判ったが、何で?という思いしか浮かばなかったな。
当時のその時点では……。
結果として、背後から捕まれたルナのスカートは真ん中から裂け、センスのいい白の下着とガーターベルトをした素晴らしく豊満な肢体をあらわにした。ダイオウイカの思いは不発に終わり、ショックだったのか腕をダラリとさせたまま波に揺られ出した。
そこに真っ赤な顔で振り向いたルナの手には銛が握られ、彼女が投げた先には………力なく漂うダイオウイカ。
一撃食らってそのまま深海へ…………、センスのいい白の下着とガーターベルトをした素晴らしく豊満な肢体を持つ聖母の手によって、彼……ダイオウイカは昇天しました。
現象的には沈下だけど、行為としては昇天というややこやしいことに。
TVにはスカートが裂けたところまでしか映っていませんでしたが、船上では、大騒動が……。女性は、その均整の取れた豊満な肢体に揃って溜息をつき、男性は全員がこぞって立ち上がれなくなりました。訳は聞かないでください。
本当に、いいモノを拝ませて頂きました。ごちそうさまです。
さすがに現在は、まだ四歳なので無理ですが、脳内のアルバムに仕舞っておこうと思います。
「余計なこと、思い出してんじゃないわよ!」
怒号とともに真っ赤な顔になったルナにライトニ〇グ・アッパーを食らいました。
ここのダンジョンの高さ一〇〇メルくらいの天井に跳ね返されて墜落したのは俺です。
ちなみに当時は、彼女と政情的にやり合ったことのあるヒリュキとシャイナーをも、ノックダウンしていました。
アレの破壊力は抜群ですよ、男だったら、しばらく立てません。
いや、本当に。
「アレって、ルナだったんだ……」「俺も見たけど、凄かった……何がって何かだよ。うん」
「うううううっ…………………、むぅぅぅぅ」
前世の記憶の有る連中の言葉に、すっかり涙目のルナ。
ところが、羞恥ゲージが振り切れたのか、とんでもない威圧が発せられて、周りで騒いでいた連中が地獄のように静かになった。
「あんたたちぃ、いい加減にしぃなさぁいよねぇ………、アンタ、やる気?」
言葉遣いが既に、どこかおかしい。ギヌロと睨みつけた先はダイマオウイカ。
少々ヤバそうな言動が………。
「ヒリュキ君、ヒリュキ君も見たの? お母様の……」
パトリシアさん、今はそれに触れないであげてー! と、声を大にして言いたかったのだが、そこには、怒れる一人の女性がヒリュキを見つめていた。ルナと同じ負のオーラを放ちながら、その存在感を大きくしていた。
「パ、パット………。確かに見たよ? ぜ、前世の俺だけど、しっかり覚えているよ。綺麗だった。圧倒されたのを覚えているよ。今のルナの未来で、パットの未来でもある彼女に俺はまた、会えるんだからね。嬉しいんだよ。たぶん、セトラが居なければ実現しなかったんだろうなぁ……。」
素直な感想にパットもルナも朱くなる。だって、ヒリュキは………本当に嬉しいんだよ。
君たちと再び会えたことがね。
「セトラが居なければ、前世なんて覚えていなくてルナにもパットにも全然気が付かないで過ごしていたかも知れないんだよなぁ………」
パットとは、前世ぶりではないからだろう。俺は、彼女とは前世では面識がないからな。
「「「そして、セトラ「君」「叔父様」も見たのね、ルナのそれを………」」」
俺の背後にも、面倒くさいオーラをかましている人たちが居ました。
「うん、見たよ。綺麗だったなぁ。でも、君たちだって可能性は非常に高いんだよ。お母さんたち、綺麗でしょう?」
そう言うと、「「「えへへ……」」」 テレテレと朱い顔で照れていました。
「もっとも、アレでルナの発言力の高さの源に気が付いたんだよな。」
「まあな、形のいいヒップに赤い熊のプリントが付いていればそりゃ誰だって気が付くよ」
そして、今のルナの魔法の根幹が分かった気がする。
トリガーを担うためには、把握をしなければならない。
何を把握するのか?
といえば、魔法の種類や威力、効果や範囲を。
感覚で把握していたものと思っていたのだが、よくよく考えればアレは生来の気質だったようだ。よく言われるように赤い熊は一度掴んだら、簡単には放さないというそういう気質の前に前世のシャイナーも、確かに心を掴まれてしまった。
一般的な間違いが起こって、彼らが結婚すると決意に至った時にはそこかしこで大騒動が勃発。この事件によって、地球連邦初代主席が誕生するきっかけになったのだから。
ソビエル連峰のエテルナ・マリア・フーテンと、アリエルハ・ズガ内国サンサイド・シャイナーの結婚。人類最大の驚きであり、人類最大の可能性の誕生でもあった。
そういった回想の連鎖の隙間を狙って、ダイマオウイカの砂の中に隠された器用な吸盤付きの足が攻撃を開始した。
「あぅっ、あ、あいつっ!」「いやぁ、変なとこ、さわるな!」
おい、俺のものに手を出しているんじゃねーー!




