41, ダンジョンで、………異種格闘戦? 壱
やや短いですが、次はもう少し長くが目標で書いていきます。
色々あった第二階層の攻略が終わり、途中のセーフティルームでの懇親会を終えて、今、第三階層? に上ってきたところだが、魔王様が…………挙動不審です。
ダンジョンマスターでもあるために、その階層に来て、存在する魔物に気が付くらしいのですが、嫌な笑顔でフルフルとしていました。
いったい何が居るのかと鑑定であちこち見ても判明せず、ステータス鑑定を発動。
あ…………………………、ルナの天敵が居ました。
たらたらたらたらたらたらたら。シャイナーの額からは止めどなく汗が流れている。
冷や汗の類いだろう。はっきり言って俺も怖い。
あれだけ上機嫌だったルナが、俺は怖い。
ステータス鑑定ではその天敵の数や作戦まで透けて見えるため、あえて、今までは使用しなかった。だが、あれだけ挙動不審な魔王様には、ついぞお目に掛かったことがなかったからだ。
後悔、先に立たず。好奇心は猫を殺す。
後ろから、声が聞こえてきた。しょうがない、覚悟を決めよう。
「どうしたの、そんなところで固まっているなんて珍しいわね」
ルナの不審の声がするが、俺とシャイナーはテンパっていた。あ。と、ヒリュキが何かに気付いたようで辺りを見回している気配がする。ああ、真実の瞳か。
「シュッキン、た、盾を早く…」
いかん、掠れた声しか出ない。
「?老師?……はい、今すぐ」「いかん、遅い!」そう言うや否や、ルナを引き倒す。
一瞬遅れて、ザスという何かが刺さる音がした。ルナが背をもたらせていた階段の扉に何かが刺さった音だった。
「痛ったぁ、何すんのよ」
そう言って顔を上げた瞬間に、ルナの頬を掠めてまた後ろの扉に刺さった。
その挑発行為にルナの目に火が点る。
たが、冷静な対応もそこまでだった。後ろに刺さったソレを見て、前に振り向いた時には、既に冷静さなんて欠片も残っていなかった。
ルナの天敵、それは………。
縦長の胴体、頭?の天辺には三角のひれが一対。地球だとしたら水の中にいるものだが、そいつは砂の中から姿を顕した。本来なら八本の脚と、二本の手だが、そいつの下半身?は砂の中にあり、概要は掴めない。
ダイマオウイカ、十六から十八メルくらいの全長を持ち、眷属であるヤリイカを投擲してくる。厄介なのは、その長い触腕と耐魔法能力。
「アイツ、こっちの世界に来ていたんだね。」
地獄の底から唸るようなルナの声にシャイナー、ヒリュキ、俺の三人が凍る。
個体差が分かるというのか? というより、本当にあの時のヤツなのか?
「え?」
「なんでそんなことが分かる?」 素朴な疑問が浮かぶ。
「判るよ。あの細長い胴体に付いた白点の並び方はマッコウの歯形だし、脚の付け根の目と目の間の♡マークは見間違えようも無いもの…」
言われてみて、なるほど実際の歯形じゃないが白く丸い点がマッコウクジラの歯並びにそっくりだ。
あちらでもそのことに気付いたのか、触腕を砂の中から出してゆらゆらと揺らし始めた。
ルナに対する威嚇なのか、ただ、ルナの体も揺れていることから考えていくと攻撃のようだ。
たらたらたらたら。ルナの顔から汗がしたたり落ちる。
ああ、そうか。トラウマと戦っているんだな。
前世で隠遁生活をニッポン州で送っていた時にベイ・スルガに鯨を見に行ったことがある。深海から上がってきた鯨の鼻先に絡みついていたのがダイオウイカである。どちらも、大格闘した痕があり、ほぼ瀕死で浮上してきたらしい。
当時も聖職者のシスター姿であった聖母ルナは、TV番組の生レポート中にこの場面に遭遇した。
頭には被り物、黒のドレススカートというシスター姿は、瀕死であった彼の目に幻想を与えた。彼の子孫を託そうとしたのだろう、『小柄な同族』に彼の生殖用の腕を受け入れて貰おうと、残る力を振り絞ってそのスカートを捕まえた。
そして、広げた。
映像的には、話をしているルナの背後から三十セチくらいの吸盤が迫り、スカートを握った。次の瞬間、シスター服が裂けて下着姿になってしまったところで、映像が切れた。
画面に映るのは少々お待ちくださいの文字。
現場では、騒然となりダイオウイカは『小柄な同族』ではなかったことに衝撃を受け、海面をただ漂うだけのものになったところにルナからの怒りの銛を受け、そのまま深海へと消えてしまった。
あの時の再戦が今、始まる。……………のか?




