39, ダンジョンで、………参加賞って必要か?
「えー、本当に不参加だったら、あんた、踏破のメンバーに入んないよ?」
「どうしても、お前たちが出来ないときの最後の詰めをやるのが俺なんだから、いいんだよ。」
ルナの言及に、肩を竦め答える。
「俺は最後までやるつもりだからな。もっとも、俺も何が出てくるのかは知らないよ。だいたい、一年次の殆どは生活魔法主体で、飛び級でもすれば別の高度な魔法を組み立てられるけど、飛び級して一度は卒業したお前たちがそれを言うのか? 俺たちはこれが初めてだけど、お前たちはこの攻略以外はほぼ経験済みだろう? それに今回のこれは、他の講師の注目の的なんだよ。どこまで行けるのかって賭けも始まっている。胴元は学院長だ。俺は自分にワイン一本賭けてきた。自分を信じることが最大の力になるんだからな。何なら、お前たちの分も賭けてくるか?」
このメンバーって、豪華すぎるんだよ。
ほぼ四十人の熟達者? と、初心者だけど前途有望? な、連中の合同パーティだぞ。
熟練の冒険者でも有り得ないほどのドリームチームだ。
「自分たちの今の立場を考えてみろよ。一度巣立った者が戻ってきているんだぞ。何をもたらすのか、学院でも本当に注目の的になっているんだからな。何をしに、お前たちはここに戻ってきたんだ? 今一度、初心に戻れよ。俺はお前たちを工事屋として連れてきたけど、今のところ何を成した? 工事に参加したか? 自分から動いたか? 本当におまえたちは、この学院に戻ってまで何をしに来たんだ? いいか俺は、お前らより年下だ、今はな。だけど言ったろ、ここに来る前に。『初等科から気象魔法士だよ』って。今のお前たちの気持ちを理解できないとか、イジメだとかそんなことは関係無い。俺は既にイジメも挫折も経験済みだ。」
『彼らは、一体何のために戻ってきたんだろうか? 一人でも多く工事を手伝っていたら、君ももう少しは楽になるのだろう?』
これも学院長から本当に言われたことだった。あまりに事実だったので言い返せなかった。誤魔化すように、賭けを申し出たのだから。
しかも賭け金にプリン基金を使うわけにはいかないから、ワインを一本賭けてきた。踏破できたら、卒業資格をという条件で。でも、その事実は内緒。
「さて、どうするんだ、ここ。進むのか戻るのか、早く決めろよ。」
そう、ここが大事な分水嶺(分かれ道)。俺とお前たちの、な。
ゴロゴロゴロゴロ。
ゴロゴロゴロゴロ。
ゴロゴロゴロゴロ。
ゴロゴロゴロゴロ。
「うっさい、あんたが何の魔物か知らないけど、私の邪魔はさせない!」
「落としなさい!」
ルナの眦が切れ上がっていた。普段はやや垂れ目気味の眼だが、何かを決断したときのその変化は前世から他人を魅了し続けてきた。
それは、確かに人を動かすに値するものだった。
彼女の頭脳は非凡だから、昔から追い詰められるほどに本領を発揮したものだった。
とくに今回のこれは一手、間違うだけでその後の人生設計は数年前に選択したものと同じことになる予定だったのだから。記憶を取り戻した上でその状態になることを選んでしまえば、前世の失敗を繰り返すだけだっただろう。
俺が掛けた言葉は、数年前と今の状況だけではなく、前世とも深く繋がっていたもの。
「ピット・フォール!」「トラップ・ザ・ピット!」「ロード・オン・アイス!」「凍れっ」「水」
ゴロゴロゴロゴロ。ゴトン。ゴロゴロゴロゴロ。ドポン。ゴロゴロゴロゴロ。カリカリカリカリ。ゴロゴロゴロゴロ。ゴロゴロゴロゴロ。
「二匹逃したわね。」
冷静に事態を観察し考察し解答する、マザー・ボードという前世での異名は伊達ではない。その異名の示す通りに、欧州での幾度もの政治不安となる案件を解決し、回避させた女傑だ。
「答えは出たようだな? 聖母ルナ・マリア」
教会の権威として、永くその地位にあり、人々の不安を取り除くべく各国へ足を運んだ聖職者としても有名だった……………。その地位に関係なく彼女を慕う者も多かったのだが、そのやや強引すぎる手腕で市井では良く思われていない一面もあった。
ある国で、その手腕が取り沙汰され、失脚。晩年はニッポン州に移り住み隠遁生活を送ったと、歴史書には書いてある。
実際は、あちこちの若者と遊び歩いていたらしい。
「出たわ、いえ出ていたことに気付いていなかっただけよ。これだけ生活魔法って強調するっていうことは、あなたの工事には欠かせない技術だっていう事なんでしょう? だったら、このダンジョンを攻略している合間に、まず、私を工事に参加させてちょうだい。その上で工事も担当も分割管理していきましょう。シャレーのことは心配だけど、時期が来たら会えるかも知れないし、今はいいわ。みんな、ごめんね。みんなの力を貸してちょうだい。私はこれ以上、連敗するのは嫌だから!」
「ここからは全力で、生活魔法よ!」
ルナが宣言する。……のはいいんですが、落とし穴に嵌まっているヤツを処理しないと、次の階に行けないんですが?
「あ、そういえばそうね。あら? 逃がした二匹が出てこないわよ?」
最後のところに落っこちていますから。出てくるわけがない。
「ひとまず一匹目の処理を済ませちゃいましょう? 背中にオイル成分を背負っていますから、火や雷は駄目ですね。水をただ入れていくだけだと、オイルによって浮いて出てきちゃいますねぇ。一工夫が大事です。残り二匹も、その後の二匹は既に処理済みです。」
「さぁ、ちゃっちゃと終わらせてしまいましょう。」




