38, ダンジョンで、………。
ゴロゴロゴロゴロという音ともに、それは転がっていた。
〇ンディ・ジョーンズを彷彿とさせるようなそれは、第一階層を降りた矢先に天井が徐に開いたかと思うと次の階層に向かう上り階段の手すりを転がり、そのまま壁際のレールのようになった溝にゴロゴロと移動しそれを周回して壁に沿ったその溝を降りてくる。
途中、平らなところや車止めみたいなところでは、起き上がってはノソノソと歩き出すソレを見て、鑑定を掛ける。
【ダイマオウグソクムシ】
ダンゴムシ系、節足を展開し歩くこともあるが、基本は転がる。捕食活動のためハサミを出すこともあり。大きな体を陸上で保持するために、発達した足は蟹のように美味。転がるのを止めようとして怪我をするものが多い。飢餓に強く、真面目。全長10メルに達する個体あり。深海にいたグソクムシの子孫。コラーゲン豊富、女性冒険者に集られること多し。背面の甲羅?部分は堅く、冒険者の鎧や盾の素材として扱われる。
直撃魔法は弾く確率高い。弱点は熱水と冷却系。
この鑑定結果は言わない方がいいのでは? そう思わせるものだった。
10メルもの大きさの個体に、コラーゲン豊富だの美味だのと、不穏な言葉の羅列。
おっと、想転移はレベルが上がっていたことに気付かず、自動送信になっていたことに夕べ気付いたので、都度発信の方に設定変更済みです。下手な携帯より繋がりやすいとかどうよ、だよ。
まあ、次々に落っこちてくるしいいかぁ………。あら? 魔王様は片手を開いて見せてくる。
どうやら、五匹で打ち止めのようだ。超巨大だけど……な。
「どーすんだ? あいつ倒さねーと次の階に行けそうに無いけど………。」
俺は呆れ顔で声を掛ける。昨日の反省会って、何話したんだ?
「わ、分かっているんだけど、虫系は………。」
女性陣代表のルナさんの言葉でした。
「虫だと思うから動けないだけだろ、ここは前の世界とは違うんだから鑑定結果を知ったら、たぶん目の色変わるぞ」
そう言った瞬間、ルナが驚く。あれ? 言ってなかったっけ?
「か、鑑定? あんた使えるって言ってなかったでしょうが!」
何を朱くなっている? ああ、人にも使えると思ってんのか?
「鑑定は普通モノとか魔物とか動物とか生産物とかに掛けるものだろ? 人になんて使ったことなんて無いぞ。というか使えないぞ」
ということにしておく。鑑定では無く、ステータス鑑定なら別物だからな。ただ、そちらは本当にステータス関連で、裏事情なんて見れません。
「むー、本当にー?」
じろりと睨んでくるルナは女性陣の要、ここで失敗するわけにはいかない。命に関わってくるからな。というより、何でこんなことをしている。
「本当だ。それより、アイツはどうするんだ。シッポ巻いて逃げ帰るか?」
シッポどころか、ここで煙に巻いておかないと、ヤバイヤバイ。
「帰るなら、俺は進ませて貰うぞ。学院長と約束してきたからな。生活魔法で踏破するって。まぁ、無理には勧めないよ。」
ルナの奥に居る連中にも、この先ずっと生活魔法で踏破することを伝えておく。
生活魔法はよく小手先の技術と言われることも多いが、ほとんどの連中は自身の属性だけで無く基本レベルなら生活魔法が使えるはずなのだが、そこまでの情報が無いために積極的に使おうとする連中が居ない。使っても、反応が遅いとか、量が少ないとか、その属性に対応する人が居ると頼ってしまうために熟達しない。
俺に言わせると、もったいないの一言。気象魔法だけだと、水が欲しくなると雨が降り、火が欲しくなると手近な木に落雷するといった方式しか出来ない。それこそ、大事になるのだ。水だったら少ない量でも溜めればいいし、火だとして小さくてもそこに燃えやすいモノを持って行けば火は大きく出来る。要は工夫次第なんだよ。
だから、学院長に生活魔法での踏破なら、評価できると言われて受けて立ったのだ。
みんなには内緒だが、踏破することが卒業試験でもある。
講師ジョナンにとっては、ランクアップの条件でもあった。
でも、それを伝える気は無いよ。
無理されても困るだけだし、踏破したけど生存者五名でしたとか本末転倒でしょう?
「あんた、本当にあれを生活魔法だけで倒せるというの?」
ルナの確認が来るが、俺は無言で頷くだけだ。何回も言ってきた話じゃないか、今更でしょう。工夫次第だって。
「えー、あれをかぁ…………。」
ヒリュキやユージュまでもが首を捻っている。
「大きさなんか、無視しろって言うのに………、本来の魔法で、まともに戦ったとしても生活魔法よりは余計に時間が掛かるんだよ。アイツに通用する魔法を持っている奴なんて何人いると思ってんだ? せいぜい、十人いるかいないかだぞ。生活魔法なら、みんなが使えるじゃないか。」
大きさにビビる奴、虫系だからというヤツ、まぁ基本的に、やりたくない奴もいるようだな。少しは情報公開するしかないかな? 魔王様もしぶしぶ頷く。あいつは参加不能だからな。
「しょうがない、情報その一は学院都市の冒険者ギルドにアレの討伐依頼が張られると確実に抽選になる。理由は「美味しい」のだそうだ。」
実際にそうなのだから仕方がない。この時点では、何が「美味しい」のかは教えない。
十分に想像してくれ給え。
「………………。えぇー。」
工事屋四十二名と、ヒリュキ、ユージュ、プのネコ耳姫様たち、パット、コヨミ姉ェ、ウェーキを含めた俺の同期二十名が色めき立った。
「何が「美味しい」んだろ。経験値? 味? 買い取り金額?」
お、惜しいところまで来たな、よく考えて挑戦するのか、しないのか決めてくれよ。
ダイマオウグソクムシは何が楽しいのかは知らないが、俺たちのいる中央部には降りてこずにそのまま下に向かうレールに運ばれて行ってしまう。アレを設置した魔王様によると下に行ってその回転力によって前に降りてきた奴を最上部まで押し上げるんだそうな。
「もし、アレの討伐に参加するなら……、五匹いるから五班に分けようか。俺と魔王様は基本不参加で。ということは一つの班が十二人になる。いろいろとやれるはずだ。」




