35, ダンジョン掃討戦、うなれ、生活魔法! 続々々
「そこっ!」「そこよ!」「そこだ!」「うん、そこ」
「「「「光よ、指し示し場所を示せ、ライト」」」」
リメ、リウ、ヒリュキ、パットの順で指さし確認と一セチのライトが四本集中する。
たまたま、リメの差したところに残り三人のライトが合わさったことで、ロックスライムの岩の殻を撃ち抜き、一匹がずるりと力なく落ちた。
ライトは本来十メルくらいの距離を一メル直径で照射する魔法だが、その先端の部分を一セチに縮めると指示棒のような使い方が出来る。先端の光る部分は百分の一になるが温度は逆に高くなる。俺は、それぞれに別の個体を狙うと思っていたのだが、一番最初で四人とも同じ個体を撃った。焦点がそこに纏まり超高温になり撃ち抜いたということだ、単純に考えれば、ソーラー・レイだな。
魔法のライトで一点照射か、魔法なんだか、科学なんだかどっちだろうかね?
だが、これは…………。
薄暗い中で撃たれた魔法は、やけに華やいだ感覚をみんなにもたらしたようだ。その証拠に生活魔法から、光魔法のライトに切り替えつつある。一本、また一本と増えていく。
もう既に、彼らの頭の中には、俺が話していた言葉は無いようだな。
「シュッキン、まだ、保ちそうか?」
小さな声で尋ねる。彼の額には汗が滲んでいた。
「もうしばらくは。ですが、そんなに長くは保たないかと。」
「分かった。」
周りがそんななのに、変わらない者たちもきちんと居た。
「コヨミ姉ェ、雨降らせて。セトラの道のところに、俺が水雷撃って仕掛けるからさ」
「あ、うん。分かった、雨クン、降っ………た? ありがとう」
ほとんど以心伝心だな、コヨミとあの雨の精霊。
「水雷!」
野球ボールのような水球の中にアメ玉のような雷玉を内包し、コヨミの雨の降った水たまりに沈む水雷は水蒸気爆発などを起こさずに広がる水の中で紫電を伸ばしていく。
「がうっ」
氷の礫で、一つ、また一つとコヨミ姉ェの雨の溜まった水面に落としていくジョン。
落ちた途端にウェーキの水雷に喰われる。
「風よ、強く薄い刃となりて敵を打ち砕かん。ウインド・ブレード!」
ユージュは前世での竜巻での失敗を学んでいたらしい、基本に忠実だ。
「風よ、強く薄い刃となりて敵を打ち砕かん。ウインド・ソード!」
同じ風を使用するのはイクヨ、安易にライトの魔法を使わないことは評価できる。だけど、何故かユージュの魔法に酷似している。それで成果を出しているならそれも良いか。
「あ~、忙しいわね」
レイは、そう言いながら二本に増やした第三の手でスライムの核を拾い上げていた。
そして、工事屋のほとんどの見下した視線に耐えていた者たち。風の民の風盾は、いまだに健在だ。さすがだな。
その彼らにも疲れが見えている。さて、どうするかな。
「ヤースォ、風の民の五人、風盾を解除せよ。そのまま、動くなよ? 送転移」
ライトを撃ちまくっているみんなには気付かれないように小声で指示をする。全パーティ合同でロックスライムに対峙しているのだ。風の民の五人にも経験値は入ってくるし、みんなと同じようにレベルも上がっている。
だけど今は、セーフティルームで一休みして貰おう。
見えているところへショートワープすると言ってもいい送転移を使用する。五人を連れて、セーフティルームへ跳ぶ。目的地には五人だけが残って、俺はヨーヨーのようにとんぼ返りする魔法だ。もちろんその際には、ワッホゥを人数分配ってくる。
シュッキンの結界を俺が引き継ぐ。タクラム・チューを覆った金剛胎蔵曼荼羅結界より数段落ちるものを実装していたとは言え、その消耗率はハンパではない。
シュッキンは、俺が結界を引き継いだ途端に力なく崩れ落ちた。彼の側には、フラレンチ・トゥスト、プリン、ワッホゥの三点セットを差し出して、回復に専念して貰う。
馬鹿どもが!
いい大人のジョナンでさえもライトを使っている。こうなることを見抜けなかった俺も悪いのだが、な。
「装転移、二重展開。」
そう、小声で呟くと。俺は一声吠えた。「ヒリュキ! 結界が……。」と。ヒリュキたち四人に確実に聞こえるように風に乗せて。
俺の鷹の目に声が聞こえたのかビクッとするヒリュキたちが映る。彼らの撃つライトが止まった。指し示すライトは無くなったが、まだそこら中に的がいるため無闇矢鱈と撃つ者たちが結構いた。
魔物は結界で阻まれているし、簡単に魔物を撃つことの出来る環境は前世での弾幕ゲームに近く、そこに有る可能性に気付いていなかったからなのだろう。目の前の結界に細かいヒビの走って行く様に、目を見開いて驚愕していた。
一人、また一人と気付いていきライトを撃てないまま、恐怖に染まる。何しろ、まだ、ロックスライムはたっぷりと結界の外を這いずり回っている。結界が無くなれば、どうなるかなんて一目瞭然だろう。ようやく、その時点で風の民がいないことと、シュッキンがへたり込んで休息していることに気付いた。
気付いたが、結界に走るヒビは止まらずにやがて全面が白くひび割れた。
その時点で、風の民たちがセーフティルームから顔を出して何かを叫んでいるが、こちらは既に阿鼻叫喚になり聞こえるものでも無い。
助かるにしろ、助からないにしろ、することはまだ残っているぞ、工事屋と同期たち。
そこまでを何もせずに静観していた魔王のシャイナーが近づいてきて、声を掛けてくる。
「ちょっと、やり過ぎじゃ無いか?」
「そう思うか? 風の民の風盾はしばらく無理だ。シュッキンの結界もな。だいたい、そういうお前も静観していたようだが?」
シャイナーの言葉に、質問を質問で返すと俺は手を差し出した。左手だ。
「仕方ないだろう? 誰かさんが力を借りたいというまでは、俺の出番は来ないんだから」
そう言って叩き付けるように俺に利き手を差し出す。
彼の魔力を少しずつ貰う形で、結界のヒビを消していく。
今にも割れそうだった結界が持ち直していることに何人かが気付いて辺りを見回す。
俺とシャイナーが手を繋いでいることに気付く。あ、という顔をしたヒリュキが手を繋ぐ。さらにヒビが消えていく。そこから先は一気だった。全員が手を繋ぎ、一つの輪を構築したときには、ヒビは一割ほどに減っていた。そして、ヒビが消える。
ハァァァァ………と、全員が脱力した瞬間に俺が疑問を投げかける。
「誰が、ライトで攻撃しろって言ったかな?」




