34, ダンジョン掃討戦、うなれ、生活魔法! 続々
ちょっと、戦いの前の気構えを。
「特別班を招集する。まずは俺、ユージュ、コヨミ、シュッキン、レイ、ウェーキ、ジョン、プのネコ耳姫様たち、ヒリュキと、パトリシア、以上だ。」
「あと、五人の風の民は継続して風盾を頼む。魔力の残量に気をつけてくれよ。辛くなったら、俺に声を掛けてよ。生活魔法を使っている者たちもだよ。手立てがあるうちに何とかしたいからね。魔法の発動体を持っていない片手をこちらに出しておいてくれ。これから長丁場になるから、配給を始めるからね。ゆっくり噛みしめておくれ。急ぐと喉に詰まるぞ。講師ジョナン、フォローをよろしく。」
「了解した。ジュウンが世話になっているみたいだしな。」
いや、そんな特別なことはしていないぞ、なにも。
だから、背後で冷たい視線を多数送らないでほしい。こんな大事な場面だというのに、あんたらの最優先は恋バナか?
「ジョナン兄様、な、何をおっしゃっているんですか! 今はそれどころではないでしょう。目の前のことに集中しないと……」
顔を朱くして、うがぁと噛みついているジュウンに皆の生暖かい視線が絡みつき、「あなたたちもです!」と、当たり散らしていた。
まだ恋バナの早い同期の子たちは、指示に従って地味にロックスライムに攻撃をしている。ロックスライムの表面のヒビや割れ目などに隠れているただのスライムに攻撃しているつもりなのだ。
生活魔法の「飲料水」で洗い流し、隣を狙った「雷」が余波を伸ばす。弱いながらも電撃によるダメージが連鎖して起きる。「風」が核を攫う。「土」は纏っている岩に直接働きかけようとする。そこがこの洞窟で一番土の多い場所だからだ。
その生活魔法の全ては魔力を消費して行われる、魔法現象。
微量の魔力を含んでいる訳で、ヒト族にそれが影響を及ぼさないのは、自身の魔法と近しいからに過ぎない。では、それが別の種になると、攻撃になってしまうことになる。
風邪のウィルスなどのように。ウィルスや細菌の攻撃も彼らが出す排泄物が、ヒト族の体の中で魔法現象を引き起こしているだけに過ぎない。
そして、彼らが生活魔法だけとはいえ、魔法攻撃を繰り返しているとその経験したことから導き出される答えが経験則となって、より効果的な生活魔法として活きてくる。
何と何を合わせたら、どうなる、というのが分かれば自分の魔法に自信が持てる。
周りを見る力が養われる。工夫できる。
たかが、生活魔法。されど、生活魔法。そして、新しい魔法構築のきっかけが生まれる。
それは、たいていの場合、自分にとって大きなアドバンテージになる。
「さて、ドタバタも終了したな。お前ら、何でこういう時に限って馬鹿騒ぎするんだ? 時間がないって言っていただろう? 特別班が抜けてもシュッキンの結界はそう簡単に崩れることはないし、足元だけは一応、セーフティ・ラインを用意した。セーフティ・ルームまでの一本道だ、今はちょっと狭いけど、な。走ればすぐだぞ。」
ドコン。
「あ痛た! ルナ、何をする!」
「平均台よか狭いじゃないの、どうやって走れって言うのよ!」
ルナの拳骨が俺の頭頂部に降ってきた。悶絶しました。
「さて、冗談はここまでにして、作戦を説明しよう。」
爆笑した疲れとともに、吹き飛んだ絶望。配給として、渡した包みはワッホゥ。
井げたの格子模様の綺麗なお菓子。
卵とミルクと砂糖と小麦粉の物体。その格子模様の一つ一つにミニプリンを挟み込み、格子合わせにしてある。ようは、格子は内側になるわけで、表面は格子の焦げ目だけになる。そのため、ワッフルではないのでワッホゥという名前にした。その方が中身がこぼれないで良いからな。工事屋にも同期のみんなにも初めて、出してみた。
え、俺? 俺は、ここ最近おやつとして、食べていたよ?
「ワッホゥ? ワッフルじゃなくて………う、美味っ!」という声が聞こえて、ホッとした。
「うわっ、中からクリーム? 甘っ………。あれ、体の怠さが取れたよ?」
「美味ッ! 美味美味美味」
「はぐはぐはぐはぐ」
なんか、似たようなヤツが増えたな………………。ま、いーか……。
「十分に空腹も力も回復したな? ああ、まだ食べたいヤツはこの作戦後にしろよ。作戦名は、【適当に撃ち抜く】だ。がっ……………」
こんどはアッパーか!
「それって、作戦名か?」
あ痛ぁ。レイ、凶暴さが増したな。
「あんたのせいでしょうが!」
「話はまだ途中だったんだが………、シュッキンの結界と、俺の装転移はこのまま連続して使用する。ヒリュキはその眼で、パトリシアとプのネコ耳姫様たちは音、つまりは耳でロックスライムのヒビを見つけてくれ。レイは第三の手で、核の回収とそのヒビの固定を、ユージュ、コヨミ、ウェーキとジョンはそれぞれの生活魔法か、それなりに弱い魔法というのを駆使してダメージを与えてくれ、それに余裕が出来れば俺も参加して撃つ。」
「大丈夫、適当に撃っても、そういうヒビだったら問題なくスライムを倒せるはずさ。かれらはまだ、あまりに堅すぎてそういうダメージを喰らったことがないからな。問題は火力だけだが、大丈夫だろ。やることは初等部の連中と変わらん。」
「では、パット、ヒリュキ、リウ、リメ…………ハズい。見つけたら指さし確認でライトを使え! サイズは一セチで、では、GO!」




