30, あ、朝チュンだとぉ
今回は、キリの良いところで。
前に説明した、設立されたプリン基金だが、学院長の審査と俺たち構成メンバー五人の賛成を受けた者二名に、半年ごとの成果とともに次の半年の支援をすることが決定した。
だが、ただ優秀なだけでは選ばない。そして、ただ貧乏なだけでも選ばない。
魔法力、行動や思考、達成ポイントなども勘案される。それは、俺たちだけで無く、この魔法学院を担当する火モグラたちからも報告が上げられる。彼らは音の選別に長けている。風貝を持たせ、気になる会話を片っ端から録音させていた。
「学院長、お話がありますが宜しいでしょうか? 「工事」の件ですが……。」
風に乗せて飛ばす。そういう魔法があるのだと、入学前の段階で教えていた。
同じ風の魔法使いだった彼は興味を持っていたようだが、再現が難しく今でも日々研鑽を積んでいる。
「ム、「工事」の件か……了解した。今晩、事務棟の応接室に来て頂きたい。」
「分かりました。」
「………では、学院長のお部屋から始めます。この部屋と同じ大きさならば、一部屋はほぼ二,三時間ほどで完了します。各国との直通通信をご希望であれば、お付けできますし、あと、「風呂」はどうします? それと、ダンジョンのある場所ですが、火モグラたちに言わせると近寄りたくないと、ですので俺が直接出向きます。」
そうやって工事概要を詰めていくと、学院長から質問が。
「あ~、済まないが「風呂」の概要はなんだね。シャワーなら有るし、必要ないのではないかな?」
言われるとは思ったが、既に俺と関係のあるメンバーの部屋には設置済みだ。魔晶石を提供して貰って動作は確認している。
「え、知らないんですか? 一応、スクーワトルア城、エドッコォ領、魔王城、タクラム・チュー城には設置済みですよ。あ、それとパレットリア新国は大々的にこれから設置する予定です。」
と、知ってはいるが一応確認する。メジャーどころへの設置は、影響力が大きいからな。
俺に言われて、そこそこの有名どころで設置されていると聞いた彼は、考え始めた。
何せ、「工事」の期間は有限だからな。その「風呂」というものがあっても無くても同じ期間なのだから。
最低限の投資で最大限の利益を、とは皆が思うことなのだから。
「ふ~む、どんなものか一度試してみたいものだな。宿泊施設とか有るところはあるかね?」
おお、乗り気になったね。ウチでいいだろ、ゴーレムハウスもあることだし。
「では、エドッコォ領の共同浴場を借ります。共同浴場とは言っても男性と女性では、入るところが違いますので。宿泊施設は結界完備のゴーレムハウスになります。料理は持ち込みでもかまいませんが……。いつにします? 五日後より先であればいつでも準備万端ですよ?」
俺の口からは営業口調で、立て板に水である。学院長があ然としてました。ちょっと、やり過ぎましたか。
「エドッコォ領か? 君の生誕地だったか。確か、ワインが絶品と聞いているが……。」
驚きから解放された学院長は、思わず俺の故郷のワインに思いを馳せている。
いつ、試飲させるの……? 今でしょ! とばかりに層庫からグラスとともにワインを一本取り出す。四年もの間、寝かせていた逸品である。
俺の生誕の年のワインは干魃に耐えていたブドウが、俺が降らせた恵みの雨を全てその身に蓄えたもので、甘みの強い実を生らせた。その甘みが濃厚なワインを造らせることとなった。
その年に造られたワインを百本、生誕の祝いとして貰ったのを取っといたのである。
取り出したワインの瓶の密封しているコルクを抜くと、芳醇な香りが漂う。思わず、俺と学院長の喉が鳴る。これは良い………ものだぁ。
ワインの香りに酔い、グラスに空けたら、二人とも一気に飲んでしまった。
気が付いたら、朝になっており…………となりのソファに学院長が。
学院長と朝チュンしてしまった………………、なんてこったぁ!
お酒は、ほどほどにしよう、こんな朝チュンは嫌だー。
学院長も起きて辺りを見回している。
「しまった。君と朝チュンしてしまうとは……………美女で無いのが本当に残念だ。だがまぁ、今日がこの魔法学院の創立記念日で休みであるということが、何よりだねぇ。」
朝だというのに、もうすでに 黄昏れてました。
「良いワインだと言うことは分かった、だが、これは当日は出さない方向で。皆で呑みまくったら勿体ないからな」
「ハハハ………、了解です」
「では、慰労会の件、五日後でよろしく頼む」
いつの間に慰労会にしたんですか? 学院長。ま、その方がこちらも気負いは必要無いってことかもね。
「了解しました。五日後に一泊で取っておきます。あ、それと。火モグラたちの言っていた学院内のダンジョンの調査を行いたいのですが、許可を頂けますか?」
気になる所は「工事」に入る前に確認しておかないと、まずエラいことへと発展してしまうのだから。
「うむぅ。君ほどのステータスがあれば大丈夫だろうが、他に同行するメンバーは決まっているのかね? ダンジョンの中は従魔を含めて六人のパーティになるから気をつけたまえ。冒険者ギルドのカードはあるかね。わたしの魔法印を押しておこう。では、気をつけて行ってきたまえ。」
「ありがとうございます。」
さぁ、ダンジョンです。だ~れっと行こうかなッと。




