240, ようこそ、ダンジョンへ?
パロアの微笑みを見た瞬間「ヤバい」と感じたのは、マリア。
「我らの一族に伝わる約定は、知っておろうな?」
ごくりと、誰かの喉が音を立てた。
無論、パロアが言いたいことはマリアには、伝わっている。
「聞きたいことは、“コレで聞け!”でしょう?」
お互いに拳を相手に突き出す。
無論、距離はあるから、当たりはしない。
睨みあったまま、その拳を腰の近くまで互いに引き戻す。
寸刻、刻が止まった。
そして、第一声。
「「最初はグー!」」
その言葉を聞いた周囲のモノたちは、安堵した。
鉄拳が、飛び交う理由ではないのだと。
そして、おのおのが懐かしさに微笑みを浮かべた。
もちろん、二人とも、グーだった。
「コレは、アレだな。平和なヤリ方だな。」
「血の雨は、回避した!」
「「アイコでしょ!」」
見事に周りが、ズッコケた。
二人とも、グーだった。
「「「「「「「「…え?」」」」」」」」
「「アイコでしょ!」」
ともにパー。
「「アイコでしょ!」」「「アイコでしょ!」」
ともにチョキ。
「「アイコでしょ!」」「「アイコでしょ!」」「「アイコでしょ!」」
ともにグー。
「「「「「「「「えぇー…。」」」」」」」」
アイコが数十回に、及ぶと周囲に諦めムードが漂い始める。
「コレは、アレだな。似た者同士と言う言葉が不必要なくらいのそっくりサンたちだな。」
その場で、審判よろしく見ていたアークがぽつりと、零す。
「…らしいな、途中から見ていた俺にも、よく分かるぜ。」
その男は、アザラシを背負っていた。こいつも上がってきたらしい。
「…アクィオだ。よろしくな。」
「…アークだ。ここではな。」
パロアは、マリアだったってことが分っただけでも、収穫はあったかな?
「納得いったか? パロア、ジルハマン様の言った通りだっただろう?」
そう言ったのはリュウと一緒に上がってきた少年のセトラだ。
「二人とも、不毛な戦いは終わらせて休憩しないか? ゴーレムボックスに新型ケーキが届いているぞ。魔力渡して、スイパしようぜ。」
その言葉に、レディアークへと上がってきていた女性陣たちにも、期待の熱が上がる。
「スイパ…、スイーツパーティーね。どんな新作メニューが、入っているのかしら?」
「期待が大きいわ。」
「でもさ、ウチラは、魔力渡すのは、最近慣れっこだけど。コッチのヒトたちはどうするのかしら?」
ミズヌゥムやイクヨ達が、期待の大きさに話を弾ませている。
期待もあるが、不安もある。
おやつポイントの不足を何とかしたい者も多いためだ
「セトラくんが何とかするでしょう?」
コヨミがアトリに話し掛ける。
「そうだなぁ、ちょっと古い手段だけど、ゲンブの外骨格装備の中に丁度良いマシンがあったハズ。それを使おう。お前たちも、やれるぞ。」
セトラが、良い事を思いついたとばかりに、ゴーレムボックスから大きな機械を引っ張り出して来た。
「え?」
懐かしきパンチングマシン。
その名も、“あなたが チャンピオン”だった。
「うおー、懐かしー。しかもミット型とボール型を選べるのかぁ。」
アクィオを含めたオレたちの遙か一万年以上は昔のアーケードゲーム機に、当時夢中になっていた者は、少なくない。
「おやつポイントの足りない人たちは、楽しんで貯めておくれ。魔力付与でないと、ポイントは無効になるから気をつけて、ね。さてさて、届いたおやつは、と。…はあ?」
意気揚々と説明していたセトラがゴーレムボックスの扉を開けて、中身を見て驚いている。
取り出したのは、変哲のないクリームソーダ。
あのメロンソーダの上にクリームが丸く乗っているもの。
何を驚く……、ソーダって宇宙空間だと、酔うんじゃなかったか。
続いて取り出したのは、見た目は白いパスタがぐるりと円錐状に盛られているホールサイズのケーキ。
…だと思われるナニか。
「やってくれるなぁ、くりームソーダとモンブランならぬくりブランだとぉ。いくら豊作だったとはいえ、再現度がハンパないなぁ。あむ……、美味ぁい!」
そんなことを言いながら、みんなの前で試食を始めたセトラを横目にショッツが挑む。
一口ごとに満面の笑顔になっていくセトラ。
「くぁ、美味そう。カロリーが気になるけど、今のボクには必需品。背に腹は変えられぬ。うおおおお!」
ボール型を選択したショッツもといノインが、左右のフック、左アッパー、右打ち下ろしを叩き込んだ。
『が…ぴー、吸収魔力の転送により、コピーゴーレム『ショッツα』、『ノインα』に続き、『ショッツβ』、『ノインβ』『ショッツγ』、『ノインγ』の起動を確認。…工房における作業を開始しました。』
「やり過ぎだよ、ノイン。どれだけ食べたかったんだか、はい、特号サイズ。」
「やったぁ、四〇セチ越え!」
これに触発されたレディアークの者たちも恐る恐るではあるものの、マリアとパロアの様にコツを教わりながら、チャンピオンに挑戦し、魔力を注いでおやつをゲットしていく。
ちなみに、従魔たち、使い魔たちもゴーレムボックスの手と握手して魔力を注ぎ、福焼きや、ガルタをゲットしている。
『おいしーね。』『ええ、おいしいです。』
ドータとレディアークの二人も、ゴーレムホテルのコントロールルーム内にあるコアの中で楽しんでいた。
すでに融合が始まっていた。




