234, ダンジョンで、……攻略は、二十九階へ ⑨ 処方
家族が元気で、居ることが最高なんですね。
「よく来たの。ギルドマスターのジルハマンじゃ。」
目の前にいる好々爺然としたジルハマンの放つ言葉に唖然とした。
「お久し振りと言っていいんでしょうか? なんか色々と催促されてましたケド。」
俺が呆れて、ツッコむ。
「久し振りじゃな。まぁ、仕方なかろう。この有り様ではな。」
そう言って苦笑するジルハマンのお姿には、失笑を禁じ得なかった。
「重そうですね。しかし…、|あなたのお力ならどうにでも為るのではないですかね。」
万能の神力を持ち、感知できる圧倒的な存在感の、その非っ常~に微妙な姿に、ガルバドスン魔法学院の学生一同の目は点になったままだった。
「あ、有り得ない~。」
大きなお胸を抱えた渋い表情のヒゲを生やした男性の姿がそこには有った。
「干渉出来うる相手が判明しなければ、わしとてどうにも出来ぬ事は存在すると、今回初めて気付かされたよ。」
その疲れた表情が、様々な対象に対して、アクセスしたらしいことが伝わってきた。
「ああ、『地平線女神の希望』が活性化したんですね。」
納得してしまった。
今までは同じ時間軸にノインと精霊の存在が無かったため、休眠していたのがダンジョンの階段が繋がった途端の出来事だったようである。
ジルハマンの困惑はショッツ、もといノインに憑いている風邪精霊がこの世界で顕在化した後に、長期の眠りに入ってしまったことが、最大要因だ。
「今はまだ、眠ったままだよ。彼女が起きてくれないと、ボクも、このままさ。」
ノインの言葉に、女性陣も男性陣も苦笑するばかりである。
「一時的に薬を服用することで、小さくできるけど、やってみますか?」
前世で、この病気に対処したことのあるレイが意見を述べる。
竜宮の島モーリでも、活躍した処方薬だった。
「小さくは出来ますが、その代わり体質によっては変わらないこともありますよ。あの精霊の意思が、今は感じられませんので。」
レイが処方の効用に対して、釘を刺してくる。
「それでも、頼むしかないじゃろうな。さすがは薬師レイラートと言うべきか。」
「え…、レイも関係者だったか。」
オレが脱力したのも無理は無かった。アトルとランティスの島だった頃からの縁だということだからだ。
「当たり前じゃろう。有能な魂こそ階梯を踏む回数が多くなるのだよ。セトラ、お主何回か憶えておるか?」
ジルハマンの問いに答えたのは、「憶えている限りで、4回です。」と。
「ハズレじゃ。アトルとランティスの島以降でも千回を超えておる。」
「せ、千? そんなに…。」
絶句した。
「自意識の育たぬままに、死を迎えることもあったのでな。」
ジルハマンの憂い顔が気になった。だが、オレには、問い質す勇気は無い。
今、それらを振り返ってもどうしようもないことだからだ。
「今のお主たちも、その時々で敵にも味方にもなって出会っている。そういう事じゃよ。」
「「「「グォォォ」」」」
そんな、しんみりした状況を吹き飛ばすかのような爆音が聞こえた。
「あるじさま~、お腹減った~。」
チビ竜たちが顕現していた。
「よ、よーし、久々の福焼き&ガルタ祭りだぁ!」




