230, ダンジョンで、……攻略は、二十九階へ ⑤ 小角
すいません。遅れました。
「え…、ふ、風呂…。有るの? 本当に?」
驚きの事態に、ユーコの目が点になっている。
「ふ、かつての誰かさんを彷彿とさせる光景だね。イクヨ?」
「セトラ、煩っさいよ!」
そう、かつての彼女たちも、風呂なんて知らなかった。
そういう世界に生まれていたからな。
今までのアトルとランティスの島だったリューグには無かった設備。
それは、風呂。
リューグにおいては、水属性の魔法を持つ者は飲料水の確保に当てられていた。
リューグの民にとっては当たり前のこと。
ユーコにとっても、当たり前のことだった。
物理的に風呂などの無いなかであっても、俺たちの仲間の女性陣の美に対する要求は留まる所を知らないもの。
「俺の嫁さんたちと一緒に入っていたよ、シャワーポッドに。」
「シャワーポッド? そんなのドコに……。って、ああ!」
ユーコが驚くのも無理はない。
たった今、ショッツの着ているゴーレムスーツが、拡張したためだ。
それこそシャワーブースが増設され、巨大な浴室へと変化した。
元々がホテルの為に、水もお湯も潤沢に使える。
当然だがショッツは毎度、防音で風呂付きのVIPルームに隔離されている。
ゴーレムスーツがゴーレムホテルに変化したことで、中に取り込まれたからだが。
アノ体で男湯は厳しいだろうし、後々のためにも女湯もマズイ。
ひとり長湯を楽しんで頂きましょう。
俺たち男湯の方で頭を洗っていた数人が、「あたっ」「いてて」とか指を引っ掛けては呻いている。
いままで無かったモノだから、戸惑ってしまうのだ、身体が。
「まさか、頭上のウズラの卵が、こう変化するなんてね。」
何かが出て来るのかと思っていたら、額の生え際に極小のツノ小指の爪大のモノが生えた。
九十九神化した付喪神たちからのプレゼントだから、何かあるとは思っていたけどね。
「これ、凄く小っちゃいけど凄く優秀だぜ。魔法が使い易くなっているからな。」
「特にこれから行く階層からは、この魔力タンクって重宝しそうだよな。」
「従魔たちも顕現させられるな。」
鑑定してみたところ、【縁の小角】となっていた。
角のレベルに応じた魔力タンクとなっていた。
みんなのはどうかは知らないが、俺の小角はインベントリの仕組みに近く、それぞれの個人に対応する区画が設けられていた。さっきのアイスの交換分の魔力も残っているから、尚更だ。
層転移の『層庫』とは、別だというのが面白い。
「時にジボ、あんたはいつまで付いてくるつもりかな? 俺たちは、これが学業の一環として行動しているぞ。」
そして、ユーコは、ガルバドスン魔法学院に編入し、その行動に対しての了解を得ていた。それに、ジボは疾うの昔にガルバドスン魔法学院を首席卒業していた。
「ズルイではないか。私を除いて、バトルロボの面子が揃っているから、これからも対戦可能なのだろう?」
「……マジか、こいつ…orz」
それにしても首席卒業したヤツも、飛び級で卒業していたヤツラも、揃ってポンコツなのは何故なんだろうか……。
「それに私は、今でも多額の出資をしている関係で、あの学院には顔が効くのだよ。それに、この事態は私も初めてだからな。少しでも情報は欲しいし、共有しておきたい。」
そう言って彼は自分の小角をコツコツと突く。
「それに、美味い飯があるんだろう? みんなの顔が違うからな。」
そう言ってむくれるジボ。
「ソーカコー・ジ・ヴォーって皇帝なんだろ、アンタ? 今までだって、グルメっていたんじゃないのか?」
雲の上の存在に、【美味い飯】とか言われても違和感有りまくりだぞ。
「温かく作られていても、私…、いやオレの口に入る頃には、すっかり冷めてしまっている。そんなものなど栄養補給のためのモノでしかない。かつての仲間たちと過ごす時間の中での、温かな食事など終ぞ経験したことなんて無かったからな。」
かつての地球での友の語りには、胸を突かれる。
「うん…、それは悲しい。」
毒味のためとはいえ、温かいものを温かいまま食事出来ないのは、辛いものだ。
「で、今日のメニューはどんなんのなんだ?」




