220, ダンジョンで、……攻略は、二十八階へ ⑩ 闘技場 ④
「こんなに熱戦になるとは思わなかったが…ときに、ジボよ。」
熱心に眼下の闘いを観察しては何かをメモしているジボに、俺は話し掛ける。
「むっ、なんだセトラ? 今わたしは忙しいのだが…。」
口はそう話し出すが、視線がこちらには来ない。
「皇帝は、セコセコせずに待ち構えているものではないのか?」
「おぬし、アレを見ていて動ぜすに居られる方がおかしいではないか? あの当時にここまでの技術があったら、わたしは皇帝などと落ち着いてはいられなかったくらいなのだぞ! 心柱に、逆回転、エアインテーク、とんでもない移動速度まで。」
そうジボは、当時自分の地位に肉迫したショッツの姿を思い出しているのか、心の裡を述懐するのだが、アイツの機体の構築に設計から関係していた俺はそうではなかった。
ただし、何を考え出すのかは、俺でも理解しにくいところは多数あったのだが。
組み込んでみると、意外に普通の機体に納まっていた。
「はぁ…、あの当時も今も無いよ。今も昔もアイツの機体はアレだけだ。あの機体の弱点なんて、とうの昔に調べ尽くしただろうに…。」
ただその言葉は、周りにいる者たちから驚きに満ちた感想が零れた。
「「「「「はあ……? あの当時とまったく同じ機体って……マジで?」」」」」
「うん、マジで。」
だから、二年目のランキング戦に出たときなんか、俺でも負けたし。
悩みから、解放された直後で有頂天だったらしい。対戦後に泣かれたし。
有頂天過ぎて、相手が俺だということに気付かなかったらしい。
「ウワー、セトラぁ、ごめん。ごめんね~、嬉し涙で目の前見えていなかったァ。」だと。
対戦相手見えていなくて、俺に勝てるヤツだぞ。
そんなヤツなのに、弱いワケあるかよorz。
涙を拭いて、臨んだ白キング戦は、相手に緊張し過ぎたらしい。
「だから、直後のジボ戦は、惨敗だっただろう?」
「「「「「確かに…」」」」」
納得したか…。
納得いかないのは、俺の方だというのに。
記録されていた映像も有ったから、俺も研究してみたのだが、不思議なことに敗因が今ひとつハッキリしていないのだ。
ベーゴマの進化系なのだから、相手を場外に弾き飛ばすのが主体の攻撃方法なのだ。
その時だけ、俺のバトルロボが回転を止めて、ゆっくりと倒れていった。
一緒に、機体を構築したはずの俺でも知らないような攻撃に、今でも納得出来ないでいた。ただ、今の闘いでアイツが発した言葉『はんてん』が、ナゾを解く鍵みたいだな。
「あの機体は一つだけ。アイツにとって、ひとつだけの機体だ。あの当時も今も同じ機体を使っている。」
その言葉に反応したジボの目に驚きが広がる。
「な…、まさか…、保管されていたというのか?」
「あの当時に、バトルロボ全盛の時期が終わったときに俺たちの機体がオークションで落とされたことが有っただろう?」
憶えているか? と。
「当たり前だろ。誰が落とすのかって賭けをしたくらいだからな。あのオークションに参加できるのは、バトルロボに一度でも参加した者たちばかりのハズ。それにあの落札価格は…。まさかショッツが?」
ジボが驚きに目を瞠る。
「桁の違う価格だったよな。でもあいつの職業では無理のない価格だったんだ。アイツ、あの後、自分の機体の技術をコロニーの設計に活かしたんだ。国際プロジェクトの一環として、あの資金を用意したんだよ。落札されたバトルロボは、しっかり梱包されたうえで、ゲンブの外装骨格の中でそのまま眠っていたよ。」
本当にゲンブの外装の中から出てきたモノは多岐に亘るが、俺のバトルロボを見つけたときの心境たるや如何ほどのものかわかるだろうか。
もっとも、当のの本人は資材調達のために地球に降りた直後に、衝撃波を浴びたらしい。
「おまえは、どっちで闘る?」
「わたしの機体を出してくれ。アイツの本気を試したい。」
ジボの顔が不敵に笑む。
「さすが、白の皇帝だな。」




