219, ダンジョンで、……攻略は、二十八階へ ⑩ 闘技場 ③
足りない部分を探していたら一ヶ月、経ちました。これでもまだ、足りない気がするなぁ。
バトルロボ十傑の白黒メンバーの両方に、ビショップがいない。
いや、いないという訳ではない。
不動のビショップが、存在するのだ。
ただ、ビショップが女性だということしか世界は知らない。
俺は知っていた。知っているとも、アイツだからな。
アイツが女性の間だけ、ポスト参戦したときに成した偉業がある。
ある年でのバトルロボのランキング戦で、当時はまだ無名だったため予選から出場した彼女は、元々がショッツで黒ポーンとしての実力を持っている。
当然の帰結として実力を余すことなく発揮し、予選を勝ち抜いた。
たった今、反転したカーラオーの姿で、迦楼羅モードを駆使して。
彼女が成したのは当時でも不敗と名高い白キングのジボ、黒キングのセトラと相対して引き分けた。
さらには白黒クイーンを含む、それぞれの陣営のナイト以下をショッツの不戦敗を含んで悉く打ち破った。
ショッツの不戦敗は仕方ないだろう、彼女は…、ショッツなのだから。
彼女の活躍は、二年間吹き荒れた。
一年目は予選から勝ち上がり、総合ポイントで黒ビショップの名を冠した。
二年目は、黒ビショップの地位から白ビショップヘと進んだ。
黒キングの俺に土を付けたことを考慮されたがゆえだ。
そして、翌年ショッツは復帰し、ビショップの彼女は消えた。
彼女の自機『零のクイーン』の名と、不動のビショップの実績を残して。
そして、相見えた、再び。
「知らない、逆回転なんて、こんなの知らない! こんなの…対処できない……orz」
ただ、『逆回転』という言葉に恐れをなし、臆してしまったユーコをショッツはなぜか優しい眼差しで見ている。
「あなたは知っているはずですよ。そう『順回転』なら、何回も。」
対戦相手に言われて初めてユーコが、そのバトルロボを直視したときにそれまで回っていた姿が変化した。
新たな装備がカーラオーの装いを変えた。
胴体中心部が左右に開くと|エアインテーク《ジャイロ兼用空気取入れ口》が…。
心柱構造の軸が回転数を上げる。
「なっ……。疾風迅雷のナリカーク!」
「ああっ、異端のビショップ!」
そこに居る関係者が、かつてのわたしの自機、零のクイーンの異名を叫んでいる。
「あ、あなたはいったい……、はっ、ビ、ビショップ? 零のクイーンなの?」
ユーコが答えに行き着いたようだ。
「ご名答! あの当時でも、同じくらいにモテモテでさ、ここで憂さを晴らすのは気持ち良かったよ。特におバカさんたち相手に握手会なんぞやった後には、ね。じゃあ、ここから、ボクのターンだね。行くよ、ゼロ。」
“キィィン、キィィィィン”
不意に金属音が高くなる。
不動だったその姿が、瞬間的な加速によって、掻き消えた。
「「「き、消えた?」」」
外野で見ていた他のメンバーや観衆たちがどよめく。
それだけの速さを持った行動だった。
「でも、指示するあなたには分かるでしょう? 今までも同じ加速攻撃をしていて、それが敗因になってきたのだもの。」
ユーコが話していることは、事実だった。
確実に、かつての地球の地上での世界戦で、起きた紛れもない事実だった。
なんといっても『はんてん』していなかったから。
衝撃を吸収出来ないままの闘いでは自壊することが多かった。
「そうだね、あの頃のボクは自分が何の為に生きているのか、それが分からなかったし見境いが付かなかったから。でもね、セトラが救ってくれたんだよ。自分が自分であれば、それで良いってこと、思い出させてくれた。だから、ボクはわたしを好きになれたんだ。」
そして、笑顔をユーコに向けるショッツ。
「身体が変調をきたしても、家族が最後には支えてくれるって信じられたのも、セトラのお蔭なんだ。それに、ここは異世界だし、わたしたちは転生した。バトルロボに使っている資材だって、半端ない耐久性があるだろう。これだけの闘いの中、結界魔法がどれだけ保つかどうかはわからないけど、ね。でも、キミのバトルロボだってこれで終わるわけではないよね、ねぇ黒のクイーン? いや、スピードマスターのゲンガー使いと呼ぼうか?」




