213, ダンジョンで、……攻略は、二十八階へ ⑩ 星の中 ①
いやいや、おひさしぶりです。
『「…浄化魔法が常備された浄化槽がある。」って、それは『風呂』とは全然引き替えにならないよ。大体、浄化槽って名前が良くない! あれって、トイレの設備や下水道の施設じゃない。』
そう考えたのは、レイ、イクヨ、ジュウン。
とは言え、その彼女たちにしたって今世での生活の中で、シャワーすら無い世界の常識に自身が囚われていた。自分たちの前世に気付くまでは…。
いまでこそ、風呂があって当たり前という状態になっていた。
だけどそれが、この地には無いという事実にある意味、極度に絶望していた。
「水は大事。水魔法を使える者は国家に従属する。見つけたら、捕獲。それが当たり前。」
しかも、ユーコ・E・イーシカは、断言する。
「な、なぁ、セトラ。風呂が無いなんて、本当にヤバそうな所に来ちまったようだな…。」
そう、囁くのはサッツシ。
マジでヤバいと言ってもいい。
というか状況判断の遅いヤツだ。
「今更だよ。仕掛けられていた罠や仕掛けで気付けよ。いったい幾つの罠や仕掛けがあそこに掛かっていたと思う?」
サッツシは、言われてみてようやく気付いた、その異常な数に。
指折り数えたら、その執拗なそして周到な、召喚者を確実に彼らの影響下に留め置くために設置された捕獲のための仕掛けは、およそ五十近い。
「なんか凄い周到だな…、なんとなくワルキューレを思い出すな。」
「あ? ああ。バトルロボの黒の女王のワルキューレか? だって、あいつだもの。」
「え…マジ? あいつって、あいつ? アレ?」
サッツシが絶句する。
「気持ちは分かるけど、アレと言うのはヤメといた方がいいと思うけど?」
「う…、う、わ、わかった。」
その場を取り繕うかのように、現状把握に努めるサッツシ。
「だけど、ここってコロニータイプのダンジョン? マジで?」
「マジ。しかも地下帝国もの。」
「うぁ…、マジもんのジェット・ゲンガーかぁ?」
「そういうことだねぇ…。」
ジャパニメにあった地下帝国との戦い。ジェット・ゲンガーは、そのジャパニメの主人公たちの愛機の名だ。
ちなみに、空中戦、水中戦、地中戦とそれぞれに特化した形態になる。
「ジェット・ゲンガー…、妙に心ざわめくもののような…。」
ボソッと、ユーコ・E・イーシカが呟いたことに俺は興味を惹かれ、とある事態に気付いた。
「サ、サッツシ…あいつのバトロボって、なにか名前付いていなかったっけ?」
「え、………あ。」
「やっぱりか?」
二人して、顔を青ざめさせた。
「「ドリル・ゲンガー……だ。」」
思い出したのは、ジャパニメの方だけじゃなく黒の女王イーシカのえげつない作戦の数々は、トラウマものだった。ひとつ躱しても隠された作戦に、倒された者は数知れず。
「ジャパニメの方でも分身攻撃とかあって、ドリルじゃなくてドッペルだっていう噂が流れていたもんな。」
ドッペル・ゲンガー【分身】って、怖すぎだろう-!
「バトロボっていうのはもともと、ベーゴマの進化系バトルだったんだからな。」
コマを廻すための長い軸に、パーツを付けだしたのが始まりといわれている。
俺たちの参戦した頃には、バトロボパーツは多種多彩。
コマというだけに、最下部には確実にコマがある。
そのコマの中心からの延びる回転軸にオプションパーツとして、腕やらドリルやら鎧やらを組み合わせることで闘いを勝ち抜く。
「今だったらゴーレムでコマ作ってみるかな…。少なくとも最強メンバーは居るからな。」
「そうだね。『最強の矛盾』と、『極寒の騎士団』の対戦は一進一退で決着は着いていない。百三十五戦百三十五分けというものだし。」
「いーわね、それ。」
と、ここで俺とサッツシとの会話に参戦してきた者が居た。
「おや? ユーコ・E・イーシカ様、何か御用で?」
俺たちを召喚したヌシが側に寄ってきていた。
興味津々の表情を隠しもしないで。
「うわ、他人行儀ぃ。あんたたち、面白い話してたじゃん。聞こえていたんだからね。今度こそ、白黒着けちゃるよ! オーケー?」
その口振りにサッツシと俺は首を捻る。
一体全体、このヒトは誰? 状態。
「セトラぁ、バトロボの話していたでしょう? だんだん声、大きくなってきたと思ったら、そのヒトいきなり駈け寄ったのよ。」
「「え? そんなに声大きかった?」」
二人して熱中していたせいだからだろうか。き、気付かなかった…。
「やっぱり、セトラじゃないのっ。………あれ? なんで居るの? あ♡ゴル♡…でもナンデ、ゴルも居るの?」
俺の名前に反応はしたが、それよりもバトロボに反応していたよな、こいつ。
でも、呼び付けたヤツがそれ…か?
「「「「「「おまえが召喚したんだろうが!」」」」」」
「あ? わりーわりー。」
「「「「姫さまっ。なぜ、この者たちにこうまで近付かれるのですっ?」」」」
お付きの者たちの言葉にも俺たちは頷いていた。
それもそうだなと。




