207, ダンジョンで、……攻略は、二十八階へ ⑧ 扉の外へ ①
ぽんこつ女神のアーカイブにまんまと嵌められてしまったグランマは、非常に渋い顔をしていました。
「やられましたね、工場長…、……いえ、何でもありません、はい。」
エレメンタルズの一員として、ともに宇宙を駆け回っていたティアとしては、その場を納めたかったという所でしょうが「グランマ」発言に鬼と化しているチヅルの逆鱗には、やはり触れたくはなかったようである。
この世界に転生してきているエレメンタルズの一員、かつての世界で搭乗していた第七特殊観測艦は、ディアーク級と呼ばれる強襲揚陸艦の三番艦として建造された。当時の名称は『レディアークⅡ』である。
最も艦歴が六〇年に至る古参で、人間で言うところの還暦間近であった。
頑丈な設計思想のためか、数多くの仲間の船が沈む中、七度もの大きな戦いを経験していた。七度の戦いの内、六度目まで戦いの後のドック入りが避けられないほどの損傷。
ただの無傷で済んだのは七度目だけ。
艦首に一番主砲、二番主砲を上下縦列に備えており、戦線突破力も高く、艦後部には、搭載機用に申し訳程度の飛行甲板も備えている
進水当時は姉妹艦を十二番艦まで数えたが、現在まで現役で残っているのはティアたちの操艦する十二番艦であった第七特殊観測艦『レディアークⅡ』だけだ。
だが、十二艦建造した時の弊害で、艦名の他に通称の「アーク・ア・イブ」が併記呼称されている。「アーク・ア・ダム」や、「アーク・エ・ロン」などが使用されていたものだ。
しかし、その艦の前方に上下二段に主砲が装備されているため、常に発砲する際には艦の機動が必要となる。敵のいる方へと、一々軌道変更しなければならない。
しかも、強襲揚陸艦という艦種のためか、副砲などの小火器類が装備されていなかった。
だが、その火力は一直線に横並びして発砲する単横陣、三列×三列のスクエア9の陣形では激烈な破壊力を保っていた。
それ故の仕様のため、混戦の際には機動の脆さを露呈した。
他の十一艦が失われたのは、七度もの戦いのさなかに、その弱点を突かれたためである。
だが彼らティアたちが搭乗して、七度目の戦いで生き延びてきたのには訳があった。
チヅルの工場長就任と、ティアの卓越した判断力によるものだった。
その最たるものは一番主砲はそのまま継続使用し、二番主砲の上下の隙間を利用してビーム衝角兼用の反射材ミラーを設置した。
普段は反射材が四分割して納められているが、衝角の形成時には二番主砲の前に展張、展開するシステムだった。ビーム衝角自体は通常の2/3になるが一部のエネルギーを防御に使えるのは画期的だった。
それは艦各部に設置した小型反射材によるビームの網を作ることで一種のビーム反射膜の役を持たせた。
それは『レディアークⅡ』だけで試験装備を始めた頃の話である。
さらにチヅルは改良を加え、それぞれの小型反射材の角度を微妙に変えることで弾幕としても使えたのだ。この制御のためにチヅルがAIを組んだ。ドータの誕生であった。
チヅルはこの『レディアークⅡ』の工場長として、ティアの前の艦長にも改造の是を打診していたが戦いの逼迫する中で、資材の無駄遣いは出来ぬと難色を示されていたが、その出航間際にティアの課長兼任の新艦長就任によって実行された経緯を持つ。ティアの英断により、出航までの二時間でシステムを立ち上げたチヅルもチヅルであった。用意周到に用意していたようであった。
相次ぐ実戦の中、防御の実績が上がるにつれ、艦隊内の艦艇にも早期の装備をと、望む声が高まっていた。そんな時代にドータはドータとして、生まれていた。
そのドータとしての意識が定まるか定まらないかの頃、エレメンタルズに一人のメンバーを加え、セヴンディズとなった後の乗艦となっていたが、『レディアークⅡ』は、廃艦となった。
最後の仕事は、農業用の小型試作コロニーの移動用エンジンだった。
打ち込まれていた座標は、コヨミやアトリの住む大地、ステアであった。
その座標を打ち込んだのは、漂着していた三つ子の少女たち。
「あれ、みんなの所まで届くかな?」「届けぇー!」「……お願い」
その思いに応えるべく、『レディアークⅡ』は、自身の数倍もの質量を持つコロニーを押し続けたのである。
『レディアークⅡ』が長い旅の末にステアに到着した時は、既に艦体もボロボロでそのまま静かにエンジンの火が落ちた。ドータの声が三人に届けとばかりに指向波の電波を遙か彼方に飛ばした。
『小さなレディたち……、確かにお届けしました……よ。これで私も眠れ…る。』
そして、ドータは眠りについたはずだった。
ドータは、一万年経過ののち、付喪神から、ぽんこつ女神として神化を果たすのであった。
『グランマ~。』
そして、グランマに取り憑こうとするのである。
元が付喪神だけに……。
『グランマ~。』
「ドータったら、くっつくんじゃない!」
『えへへ…、グランマ~。』
「……もう!」




