204, ダンジョンで、……攻略は、二十八階へ ⑥ 扉のこちら側
腹が減っては戦ができぬと申しますが……。
『勇者っ、召喚っ!』
ハスキーな声の波長が俺たちの心を揺さぶる。
既に、後ろの道は無くなりつつあり、いやが応にもそれぞれの心に不安が募り始める頃を見越して、俺はみんなに声を掛ける。
「たぶん、前方に有るはずの扉は一番関係の深い人物が開かなければならないと思う。かつて、この扉をくぐって行ってしまった彼のためにも、ね。今回この扉が開くのは不測の事態が有ったはず。旧城の記録によれば、あと三年は向こうだったのだから。」
俺の言葉に心当たりのあるルナが驚きに目を瞠る。
そのルナの反応にパットが何かに気付く。
「「まさか?」」
二人の声が重なる。
そうなのだ、ルナの旦那であり、パットの父親である彼が関係している。
鑑定の画面に出ている旧城の記録を見ながら話していると、気になる記述が……ありました。
「旧城の記録にある、『光の扉をくぐった』とある彼だね。七年前の失踪だ。その前は一〇年前、今からだと十七年前になるのか? え…ゴルディアの事だな。てか、二度目かゴルディアは! 向こうに伝説とか残していないだろうな?」
俺の知見(見解)に、ゴルディアがしばし考え込む。
「ム……、ないと思う。」
そう、ゴルディアは答えるが彼と、マリは一緒に召喚されていた。
というよりは俺たちも含めてルゥ、チャァー、フェニックたち、シャンマタ、トリケラ、ライトン、そしてマリは自身から派生した従魔だ。
次元を隔てるなどしなければ、そう簡単に分かれられる訳もない。
「だけどな、俺をお前に置き換えたら、そんなことは口が裂けても言えないと思うぞ。絶対になんかの大騒ぎは起こしていると思う。これは自信持って言えるな。」
そういう俺の言葉に、脱力したのはゴルディアばかりではなかった。
「セトラ……、お前なぁ、言い方っていうものがあるだろうが……はぁ。」
コヨミの弟のウェーキに盛大に溜め息を吐かれました。
中身がトモナーヤであることは理解しているのだが、ほぼほぼ生まれた時から一緒に居るせいか、ツッコまれると、即座に返せないのがツラいところか。
「まぁ、そういう事態もあり得るから、それぞれで対処しておくれよ。ちなみにランドセルは腕輪に収納できるから。ピクトグラムになっているから、ね。」
そう言った途端に周囲からジト目が。
「「「「「そういう大事なことは先に言えよ! バカ!」」」」」
「は~い……orz」
え~、怒られてから、しばらく歩くと最終地点の扉。
「この扉か……、誰だよ? 一番関係の深い人物って?」
扉に近づいても光らなかったサッツシが疑問を口にした途端、彼が触った部分が光り出しました。
「ええ? 俺か?」
「らしいね。」
投げやりです。
「俺が触ったところしか、光っていない……ってか、やっぱり、ルナか?」
超短絡的に答えを出そうとするサッツシに俺は待ったを掛ける。
「ちょっと待て。お前が触ったところは光ったままだぞ。ルナもそこで固まっていないで、ひとまず触れてみろよ。自分が動かないと、意味がないだろう?」
そういうと、おずおずと近付いてきて、そっと扉に触れるがそれでも一部分だけしか光らない。
「あれ?」
思っていたほどではなくて、キョトンとしている。
「な。やっぱりみんなで触れるしかないみたいだね。……あっ、業務連絡忘れてたぁ~。」
「「「「業務連絡?」」」」
「うん、きちんと帰るまでが遠足ですってことかな。」
「遠足っていうことは、オヤツありなんだよな?」
周りの期待に満ちた視線が集中しましたが、「え……。」と口を吐いて出た言葉は自分自身も思っていなかった言葉でした。
「「「「「え? えって何? って、えええーー! 何も無いの?」」」」」
悲しげに問いかける仲間たちに、俺は重々しく頷いた。
「ごめん、考えていなかった。でも、ポイントは貯まるはずだよ。こっちにも現役の旧城は有るんだし。ビッグデータとしては活きるはずだよ。」
「無理! データで腹は膨れない!」
「うううむむむむぅ。じゃあさ、扉開ける前に宴会しよう。」
「バーベキュー!」
「ケーキバイキング!」
「寿司ざんまい!」
「カニ無口!」
「………ふぅ、しゃあ無い……。一席設けるか…orz」
「「「「「「「「「ゴチになります!」」」」」」」」」
扉の向こうで痺れを切らしてなけりゃいいんですがね。
一応、釘を刺しておきますかね。
「足りないヤツは、後日、無料奉仕は覚悟しとけよ。」
何が足りないとかは明言しないでおきますが、確実に数名がギクッとしていた。
「じゃあ、宴会だぁ!」
「「「「「「「応!」」」」」」
満腹でも、厳しいのでは?




