不透明事案と、不透明な時間軸 続
竜宮の島モーリにある商業ギルドの重鎮たちとの話し合いは、何も生み出さない不毛の会談でもあった。終始、こちらのご機嫌伺いに徹している彼らとの提携って、なんぞやって感じで……。疲れてしまいました。
「ねぇねぇセトラ君、床暖房って何のこと?」
俺の嫁たちと話し合うことですっかり言葉が女子会風に変わってしまった天姫様……、くだけまくりで、商業ギルドの面々も形無しって所なのに……鴨ネギな言葉を発しないで下さらんか?
「「「ゆ、床暖房ですと? 大陸の商人たちが我が物顔に話している例のアレか? ……ぐぐぐ、我らにも、その恩恵あってもいいのでは?」」」
商業ギルドの面々の盛り上がり様は凄いのだけど、こちらにはする必要性が全く無いから……、悪ぃね。
「ああ、悪いが俺には此処で、それをする気は無いな。侮辱され、恫喝され、一言の謝罪も無いような無礼な輩に何を提供せよと? 大体において、商売という関係で片一方な恩恵とか有り得ないでしょうに。」
一蹴する。
「すでに袂を分かったのだ。新しく関係を構築せねばならないと言うことを、おぬしら甘く見ては居ないか? 今までのような傍若無人な契約など市井(一般人)の者たちにも既に通達済みゆえ、出来ぬことになっておる。大陸間通商条約の約款ゆえにな。」
天姫の介入により、商業ギルドが絡む案件などの面倒い事柄も無理矢理終わらせた。
終わったはずだったが、天の社に押しかけたことで天の社の注連縄が一部損傷した。
これが拙かった。
天の社のほかにも社はあるのだが、東西南北の社と天の社の注連縄の中にはドラゴンの鱗が入っている。ギンの鱗だ。贄の少女を連れてくる際に乗せた背中の鱗には、背中の羽の付け根にある鱗が赤くハートマークになっている。
その島に残す際にお守りとして欲しいと言われ、残してきた物。
ただし、その際には、
『これは、わたしの一部。滅多なことでは欠けることも無いが万が一、欠けた時にはわたしに痛みが来る。なぜかは知らないが繋がっているのだよ。痛みが来た時、鱗に残っているわたしの魔力が、溢れるだろうさ。多分な。』
そう言っていた物。
『ギャオオオオオオオオ!』
ギンが元の大きさに戻り、ドタドタと天の社の前で大暴れしていました。
守護竜の降臨に、それ以上の狼藉には至らなかったようで事態が収束に向かっていったのです。
「今回、魔物は居なかったみたいだけど、俺たちの通過後は気をつけてくれよ。活性化することもあるからな。」
ヒト族だけに特化した商業ギルドの今後に期待したいものだ。
「これで、こちらの懸案は解決したか。後は、ここの後継者の発掘だけだが、これに関しては時間が必要だ。こちらの学業の邪魔をすることなど、魔法学の名門である我がガルバドスン魔法学院に対する圧力に他ならない。」
と、ひとまずは学生であることを訴える。
「分かっております。此度の我らの同胞の不始末もございます故、今しばらくの猶予がございます。セトラ様のお眼鏡に叶いし御方を充分に吟味なされませ。」
天姫が正装正座にて礼を尽くし、さらには伏して願い出てくる。
「分かった。それではパトリシア、頼む。」
俺の後ろに控えていた仲間たちの中からパットが進み出てくると、俺の隣に控えてもらった。
「セトラ様、こちらは……。」
天姫の不審も分からないではないが、継承に必要なのだ。我慢して頂こう。
「天姫、済まないが手を貸してくれるか?」
俺はそう言って右手を、差し出す。左手はパットに繋げられた。
「天姫、称号を継承する。心して、受け取られよ。」
パットの称号の一つである音妃、これを天姫に継承した。
「称号の継承自体は、今までの世界の理の中でも珍しくないものだけど、天姫の称号に音妃を内在させられた。皆さん方も鑑定をお持ちであれば確認されてみると良いだろう。」
俺の鑑定の画面には天姫の中に音姫がある形の称号になっていた。
その呼称は、【天音姫姫】。
書き出してみると【天の(音姫)姫】となり、注釈には一部の天気の能力に目覚めようとしている。
と、あった。
詰まるところ俺たちほどに自由な改変ではないが、この島国であれば色々と使いでの有りそうな能力のようではあるらしい。
「何が与えられるのかは分からないが、切っ掛けだけはあげられる。」
俺、コヨミ、イクヨが、言葉を紡ぐ。俺はその時、宙に向かって供えられていた酒を振りまいた。
「「「雨よ、来よ。」」」
乾いた大地に、はじめは霧のようにサーッと来たかと思うとザアッと降り出した雨は、しばらくのあいだ続いて止んだ。
「これが出来るようになったら、連絡をくれ火もぐ通信でいいから。次の章が必要か、見定めに来るよ。」
そう、新しい称号を得た天姫に伝えた。
天の社を中心に東西南北の社には、ゴーレムボックスが設置され、いろいろなサイズの服が流れ込み始めていた。
そして、ようやく次の二十八回に向かう門が天の社に開いた。
『マショウ・ジカイ、推参でする! 我が兄ドア・モーンよりみな様のお供つかまつったでござる。』
何か格子の付いた紙とガラスの魔物がパタパタしていた。
「さて、次の回に行く前に、オヤツにしておくか……。気力を満タンにしておかないと何が起きても対処できないからな。おまえたちも食うか?」
期待の目で見ている連中がいるので聞いておきます。
「やったー!」「食い倒れるぞー!」「オヤツ! オヤツ!」
「オヤツって何ですか?」は、天姫。
従魔たちも期待の目で見ているので、こちらにも出しますか。
「オヤツ祭りだぁぁぁぁぁ!」
ゴーレムボックスを多数展開して、取り出したのは、ホット・ヤーキ、プリン、ドーナッテ、そして、新作のカスタ・クーヘン。バーム・クーヘンのど真ん中の穴にカスタードクリームを突っ込んだだけという変哲のないもの。イチゴを突っ込んだ土星バージョンなどもあったけど。
従魔たちにも、ガリントや福焼きが。こちらにも新作のガルタ。ちょっと分厚いセンベイという感じのもの。ゴーレムボックスからカタパルトで射出される。中身がちょっとはみ出していることもあり、従魔たちの性質にちょっかい掛けていた。
だけど、このときの俺は気づいていなかった。
このオヤツ祭りをしている時に流れ着いたものに。
でも、気づいていたとしても俺たちはたぶん踏み込んだだろうことは、確実なことだったと思う。




