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気象魔法士、ただいま参上 !  作者: 十二支背虎
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 不透明事案と、不透明な時間軸

やっと、胸部装甲から移動できそう。

 『地平線(ホライゾン)女神の(オーナーズ)希望(ホープ)』の騒動がようやく収まりを見せ始めたのが、つい昨日のことなのであるがその多くの罹患者を生み出した彼はすでに痩せ衰えていた。

 ……無理も無い。


 人づてよりは効果が高いと知らされれば、その効果を望む者は老若(ろうにゃく)男女(なんにょ)を問わずに彼に(タカ)る。

 集る人数が増えるにつれ、彼の睡眠時間は減り食事時間も減っていく。


 そして、これが一番重要なことなのだが、罹患した者たちは今までの服では対処しきれなくなってくる。

「も……、無理。」

 ショッツは、やがてそう言って倒れることが多くなっていた。


 喜ばれる者が居るのは(さいわ)いだが、そろそろショッツに関しては(ツラ)い時期になっているようである。

「セトラぁ、も、無理。」

 そう言って音を上げたショッツをゴーレムボックスにしまった。

 宿泊に使っていたゴーレムホテルのカプセル型のベッドに収容した。

 そして、俺は終息宣言を出す。


「『地平線(ホライゾン)女神の(オーナーズ)希望(ホープ)』は、その能力を封印した。これ以上の、無理は出来ないし、させない。それでも希望がある者は、彼の復帰後に願うことだ。現状を鑑みるに、当分起きることはない。」

「そ、そんな…。私たちの希望を隠したのか、おおお…おまえが!」

 俺たちの周りには、激高する希望者たちが溢れることとなった。


「わたしは、まだ足りない。」「足りていないわ!」

 そんな言葉が聞こえてくる。でも、ダメだ。これ以上は、やらせない。

「そうか、足りないか。そして、それ以上を望むのか?」

「そうよ! 望むわ!」

 勝ち誇ったように告げる者、頷く者など多数。

 そこに居るのは、権利を主張する者たち。その権利に何が付いて回っているのかを忘れてしまっている者たち。


「そうであるならば、彼に憑いている精霊に願うしかない。彼は精霊のお気に入り、だがその彼に無理をさせることに対しては精霊の報復があることを肝に銘じなければならない。現状に満足しない者たちよ、願ってみるか?」

 そう告げた俺に対して言いつのる者たち。

「「「(おど)し?」」」


「脅しではない。事実だし、精霊の義務だ。己の権利(チカラ)を主張するんだ。そこに生じるのは術者を守り抜く義務だ。仮にも風の精霊の一族、命など簡単に刈り取ってしまうぞ? 簡単なことさ、実際にあった話だ。風態(フーテイ)症候群(シンドローム)。心と体の離反(りはん)を引き起こす。心を裏切り、身体が破滅の道を行く。それでもいいというなら、願ってみるがいい。」

 淡々と告げるその言葉に周囲は、青醒(あおざ)めていく。

 いろいろと紛糾するも、仕方のない話。

 ショッツが死んでしまえば、二度と奇跡は起きない。

 俺も大事な友を失う。……そして、精霊が狂う。


 ……、そして奇跡は反転(・・・・・)する。……かつて起きた隕石衝突のように。


 ショッツに寄り添う精霊に、破滅の道を願う者が居なかったのは幸いであろう。

 今しばらくは、ゆっくりと休養させたいものだ。



 そして衣服の調達という、その対処の策としてゴーレムボックスを使用することでの異世界間交易が始まったのである。

 異質な空間を隔てた世界との交易はどちらにも多大な利益をもたらし、ある意味本当の異世界間交流が成功したといえた。


 新たな交易の市場は、新たな問題も巻き起こしたが……。



 その交易には俺のゴーレムボックスは不可欠であり、その使用権を巡っての抗争などとか面倒いことも増えていた。

「貴公だけが、莫大な利益を享受(きょうじゅ)しようとは(いささ)かその身分に対する責任を果たしていないようでござろう?」


 しかし、一部の強欲な貴族(バカ)たちの暴走に、俺が従うはずも無いだろう?


「…ほう、これは()な事をおっしゃる。身分に対する責任と言われるとは。あなたがたはどちらの国の方々なのでしょうかな?」

「もの知らずなのは学生だからか? 我々はこの国の商業ギルドの者だ。商業に関しての一切は我々を通してもらわねばらぬ。」

 本当に(もう)け話には(さと)い連中だな。あっという間に群がってくる。


 竜宮の島にある商業ギルドの重鎮たちは、大陸中の金の流れを熟知しているようだが、俺のヒト族の一個人としての力はご存知ないとみえる。

「は、……俺がもの知らずか。どうやら、そちらは怖いもの知らずとみえるな。」

「馬鹿にしているのかっ! その言葉を改めろっ!」

 恫喝すればいいとか、面倒な奴らだこと。



「天姫殿……、どうされるか? あれもこれもは、ね。それに、当のギンがヤバいんだ。」

 俺でもキレそうになるが、従魔たちのはそろそろ抑え切れんぞ。

『『『『あるじ様に向かって、なんということを言う!』』』』とばかりにグルグルガルガルと唸り声を上げているのだからな。

 天姫に仕えるようになって三年の神官長カヒコ・トゥ・サワダは、自身に降りかかっている問題とは別にこの度の商業ギルドの重鎮(バカ)どもの言動に頭を悩ませていた。


「天姫様、学生とはいえ彼は……。」

 その側近の発する言に、天姫は静かに頷く。

「良い。此度(こたび)の発言は彼らの(せき)。ならば、わたしの心も定まりました。」

 天姫殿はGカップになった胸を揺らしつつ、スクーリンに向かう。

「わたしは、商業ギルドと(たもと)を分かつ。レディアーク大陸との同盟を結ぶこととした。大陸の盟主殿より、是非にとの旨を了承した。」


「て、天姫様! 誠でござりまするか? 我らと袂を分かつなどと?」

 商業ギルドなくして、竜宮の島の経済は回らないとばかりに自負していた者たちの常識がひっくり返った。

「レディアーク大陸の盟主とは、いつ会談を? 我らにもご紹介くださりませ!」

 その物言いに天姫も呆れた。


「なるほどな己の利益には敏く動くとも、その目利きは到底出来ておらぬ。もう…紹介などと、どだい無理であろう。…のう、セトラ?」

 嘆息して、天を見上げた天姫の言葉に首を(かし)げた後、何かに思い至ったのか青醒めたというよりかは死人のように黙りこくってしまった者たち。

 錆び付いたロボットのように、ぎごちなく振り向いた。

「ま、まさか、あなた様が……。」


「今更だな。情報に疎いからそうなる。ついでに自己紹介だけしておくか。俺は、エト・セトラ・エドッコォ・パレットリア。パレットリア新国の王にして、あそこのレディアーク大陸の盟主である。」

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