等価交換と、等価時間
もう何度目かになる交易のリストの交換は、シュガー達のコロニーと、俺セトラの把握する地域の国々と、そして、チヅルたちを筆頭にした地球との交易に発展していた。
ちょっとしたアクシデントが原因で双方向通信がなぜか繋がっていたからだ。
『父さま、この鉱石類はこちらで請け負います。その代わり、こちらに対しても雨を追加でお願いします。精製するためにも必要としています。』
顔の見えない位置でフレームが固定されている。
なぜか時間差のない映像が届いていた。
本来であればコロニーとの時間差は相当にあるはずなのだが。
扉を管理するドア・モーン達、同期を調整するエムルーチェ、小窓を形成しているライトンのそれぞれの力の結集があってこそ、初めて成るものであった。
『へえ、もう子供が居るの? 賑やかで、いいわねぇ。こちらからは衣類に対しては予定通りの数と種類、送れそうよ。Nスーツに関しては、少し時間が欲しいわ。現在、わたしたちはそれを調整できる場所に居ないのよ。少し乱暴な手段で、地球に来ちゃったからね。』
俺たちの中の人たちは、それを思い出しているのか、苦笑いの感情を伝えてきていた。
確かにあんな乱暴な大気圏突入なんて聞いたことも無いよ………orz
「しょうがないな……、Nスーツの調節のための機械って言うのは一つだけなのかい? 取り寄せとか出来ないのかな? 艦内工場じゃない所とか? それによってこちらもそのリストにあるほとんどを何とか出来そうとは思うんだけど。」
それになんと言っても自然素材とはいえ、こちらのは魔物産だからな……。
どれだけ、似ているのかって事だよな。シルクだって、蚕じゃなくてアラクネ産だし。
いま現在の俺たちの場所は、竜宮の島の天の社に居る。
いや、社の中では無い。
島の中心部に居る。もっとも島の中心部が天の社の場所なのだから、天の社に居るというのも間違いでは無い。
天の社の中心部に尖塔が建っている。高さ十八メル、塔の直径が十五メル。どっかで見たような形のそれは、古城と呼ばれている脱出艇とも戦闘艇とも言われていたそれだった。俺たちは、今その中に居る。
ここを貸して貰う代償は新しい女王を探して欲しいという、とんでもないものだった。
ずっと、生け贄にされていた女性を持ってきては置き去りにしていた竜たちが、現在俺の従魔になっていることが判明したからだ。
従魔の為したことの責任として、了承せざるを得なかったのである。
ただし、現女王としてある天姫を除いて、新たに幾人かの留学生がガルバドスン魔法学院に向かうことも決定したのだが。
『Nスーツのデータ変更の機械はそう大きくないわ。そうではなくて、Nスーツが弾けた原因を掴んでおかないと、同じ事があってもそんな簡単には、こんなテレビ会議は開けないものよ。どんな通信機だって時間差は出来るのに、今のわたしたちにはそれが存在していないんだもの、そんな確率の悪い冗談のような奇跡なんて、本当にあり得ないわ。』
窓の向こうのチヅルが言うや否や、『はい、これ』とばかりに三着のNスーツが窓を潜り抜けた。
『データが破損して着られないの、だから仕方ないから渡すわね。』
ということだった。
三着のNスーツ。三人分と聞いていたチヅルは首を傾げることになった。
サクッと、データをスキャンさせて眉をひそめることになった。
『三人分と聞いていたのに、全員サイズが同じなの? それとも一人の分?』
『三人分ですよ。三つ子なんです、わたしたち。頭文字も入っていると思いますけど、色もそれぞれ微妙に違いますから。Jは、姉で。Sはわたし。Cが妹です。それと、それぞれにちょっとした注文書が付いているはずです。』
そう窓越しに言われたチヅルが確かめてみると、それぞれのNスーツに付随したデータケースの裏側に、メモが貼られていた。『可愛い服も増やしてください。』とか、『スパッツも』とか、アンダースーツに対してもNスーツ並みにして欲しいとか、チヅルにしても考えさせられる事しきりであった。
『ああ、付いているわね……。さすがに三つ子ってところかしら。同じ事書いてあるわ。』
感心したというか呆れたというかといった風情のチヅルであった。
『こちらとしてもリストの中にある木材や米、小麦、などの穀物類に関しての供給は可能だ。だが、それ以外は動物ではなく、魔物原産の物となるが良いかな? 絹にしてもスパイダーシルクという、こちらではポピュラーな物になるし、牛肉にしてもカウエルという牛カエルの物になる。ただ、俺たちもダンジョンの攻略中であり、鶏、牛と豚に似た魔物は確認しているが、羊がまだだ。それに関してはゴーレムボックス経由になる。魚は、その種類にもよるが概ねオーケーだ。』
守護者権限だな、そう呟く。
『それで良いわ。こちらの地球も異世界化しているもの……。出来ることから始めましょう。』
「分かった。物々交換を始めるとしよう。………三ヶ所を結ぶのは俺たちにとってもメリットが大きいが、時間帯がバラバラなのはどうしようもないな。ああ…、腹減った。」
「そうね、夕食の用意を始めますわ。ドラゴン・ステーキでいい?」
これまで、会話に入ってこなかったアトリ=ティアが声を掛けてくる。
「ドラゴン・ステーキ? いいね、ミディアムで頼むよ。結構、この通信に俺の力も関係しているみたいだから。補給しておくよ。あと、ご飯も大盛りで。」
『ドラゴン・ステーキ? ご飯? 父さま、わたしたちも出前したい。母さまの手料理なんて、そうそう味わえないもの! って言うか、人生初? ジェル姉ェもキー坊も要るでしょう?』『『もちろん!』』
シュガー達からの出前、入りました。ってか、三人とも居たんだね………orz
あちらのチヅルの前でそんな情報公開して後悔しないか、お前たち………orz
『ドラゴン・ステーキ? わたしたちにも出前頼んでもいいかしら? 同じ大きさでいいから、二十人分くらいかしら。なんだったら、こちらのドラゴン肉と、交換しましょう?』
「分かった。その様子だと、かなり食糧確保に難儀しているみたいだな……。」
いま思い出した、その時のことを。そういえば、ワタルがほとんど作っていたっけ……。ジェリィにしてみてもまだ幼いから、味付けが物足りなかったっけ。
「それも今後は物々交換の一つにしよう。」
アトリ=ティアの肯定の頷きを確認して、ドラゴン・ステーキ祭りで交易が始まった。




