195, ダンジョンで、……攻略は、二十七階へ ⑧ 南風の社 続々
お久し振りです。病名に悩んでいました。
「あの病気の原因となったのは……。風態症候群。心と体の離反を引き起こす流行性感冒、つまりは風邪の一種だと言われたはず。だって、若年者がインフルエンザを発症した時に起こす異常行動は、主に“それ”だったんだからな。」
ショッツが懐かしそうに語る。
レイが当時の様子を思い出して、感慨深げに続けた。
「当時のショッツはよく医療大学の内科に掛かっていたのよね。なんであんなにカルテが分厚いのかと思ったのが最初の疑問だったわ。電子カルテが普及していて、データは圧縮できているのにおかしいって思ったの。データを開いてみて納得したわ。まるで風邪の見本市だったもの。」
「俺は、キャリアーだったんだよ。本人は軽い症状しか出ないのに、他の人間に移すと大惨事を引き起こしていた。」
それは、特殊な状態を伴うもので本人にとっては精神疾患ともいえるものだった。
こちらでは、ごく幼少の頃からその状態に晒されているために逆に発症率は少ないはずだ。今、目の前に居る彼らにもそれは、すでに憑いていた。
というか、レイ、君たちにもそれは憑いているよ?
「風の元締めである精霊がキャリアーの本体だったんだからな。気付くまでに相当の時間が必要だったよ。セトラが居なけりゃ今でも分からないことだったんだから。」
「「「「セトラが?」」」」
「「セトラ様が?」」
「あるじ様が?」
「「その方はいったい?」」
そう問われて気が付いたショッツだが、そこに居たヒト族全員の興味津々の視線が彼に向いていた。
「え、えーと。……あいつとは長い付き合いでさ。一番なんでも言える仲間と言うべき存在なんだ。俺に憑いているものに気が付いたのも同じ苦労をしていたからだよ。……二人とも風の精霊というものが憑いていた。」
そこで茶々を入れたのはレイ。
「ショッツの場合は風邪の精霊の方でしょ?」
それが図星だったのは否めないのだが、元は、同じなのだ。
「確かに俺のは風邪の精霊が主体だけど、その本質は代わらないんだぜ? 風が少し形を変えたものなのだから。君たちだって似たような風の精霊が憑いているもの。」
「えー、そんなぁ……。」
などと、そう言った途端に、焦った顔になる彼女たち。
「さすがにセトラの仲間に変なことをしようとするものは居ないみたい。でも、イタズラ好きなのは精霊王の性質を受け継いでいるせいかも。セトラですら、完璧に把握してはいないみたいだし……。」
「で、あの病気は今も持っているの?」
レイの言葉にトゲが含まれた。本題に入っていかないとヤバイレベル。
「意外に気が短いところは、やっぱり治ってないんだな、レイ……。」
気を逸らす目的でつぶやいたショッツだったが、目の前の存在から流れてくる寒気に鳥肌を立たせた。
「ショッツ~、余計なことは憶えていなくて良いの! それよりも、持っているの? 持っていないの、どっち?」
「…………も、持ってます…orz」
その火を噴きそうな迫力に、圧倒されました。
「ほ、本当? マジで?」
満面の笑みが眩しすぎたショッツ。項垂れていました。
「……ハイ。そうでないとこの状況が説明付かないし……。また、カタツムリ扱いかなぁ………orz」
前世のパニックにすでに悩まされています。
「………え~と、いったい全体どういう事なんだい?」
水竜で爆乳のホシィク様は、さて前世に何があったじゃろかと頭を捻っております。
「世界三大奇病の一つ、『地平線女神の希望』って聞いたことある? ショッツがキャリアーだったの。」
レイの言葉に、ジョウンが反応した。
「えっ……、ホライゾン・オーナーズ・ホープって、わたしも罹ったことあるよ。あれ、罹る前と後では最小でも2カップ、最大だったら3カップは差が付いた人も居たはずよ。わたしは2カップギリギリだったけど………はっ! やぁ~ん。ショッツ、聞かないで!」
突然のジョウンの暴露話に一同唖然。
そんな事をいきなり言われたショッツに至っては凍りついていた。
ショッツの持つ病原菌による特殊な風邪は、正式名称としては、『大胸筋肥大インフルエンザ』と呼ばれるそれは男女を問わず、地平線から隆起することが判明した。
特に、罹患した女性に、その変化を歓迎された。
しかし、罹患した当時の男性たちには………想像にお任せします。
「ああ、思い出したよ。そりゃあ、持たざる者の希望を叶えてしまうのだからね。だけど、それってモテるとは言わないだろう?」
爆乳のホシィク様は茶化すが、ショッツにとって当時のことはトラウマになっていた。
「いや、モテ期だったよ。全人類を含め、医者からもヤの人たちからもモテまくったから……雌雄同体のカタツムリとしてね……orz」
「で、逃げ込んだ先がセトラのところさ。……だから助かった。だから、あいつを助けたいんだ。」
「パロアもお願いするですぅ。」
「「わたしたちもお願いするです。」」
「わたしも……。」
治癒を命題とする社で、水と光の治癒術士が整理する中、突如として、握手会が始まった。ソレは飛沫感染ではなく、特殊な接触感染だったからだ。
閉ざされた大地への握手が、始まった。




