179, ダンジョンで、……攻略は、二十六階へ ⑪ 目覚め
「俺だけじゃないさ。みんな居る。そして、彼らも。」
その会話は、夢現で聞いていた。
なんか懐かしい話し方で、聞いててホッとする。
でも、声は幼いから、無理して大人の会話にしているみたいで笑える。
あ、あのメイド服着た人、すごかったなぁ……。
ティアママと別れてしまったあとも修練を続けていたのに、全然敵わなかった……。クッキィとの連携校撃も……。
なんか…、こっちの一手先、二手先を読むような感じ…で…。
…って、あり得ない! だって、わたし…モンライ流師範代の免状あるのよ!
そのわたしを凌駕するなんて……、誰?
『エムル、階段はどこにあるか知っているか?』
また聞こえてきた、この声。でも、エムル? 誰?
『エティルの艦内に障壁に包まれています、マスター。』
これが、エムルという人?の声?
わたしたちの船アフロディーテの管理AIメルの声に似てる。
でも、メルよりも流暢で遙かに大人な声。
『マスター、管理AIメルへの再教育完了しました。最優先命令権を取得できますが?』
え? メルへの再教育? 最優先命令権を取得? ダメ! 駄目! だめ! 絶対、やだ!
『『『やめてっ!』』』
『…って、言ってるからそれは止めておくよ。オレには、エムルが居るからね。』
『……はい、ありがとうございます。マスター。』
このエムルって、人? マスターのこと、好きなんだ。
そこまで考えて、フフフと微笑んでいたら、クギを刺されました。
『あなた方のほうが余程、マスターのことをお好きでしょうに……。』
って。
無い無い。それは無いと思う。
『そうですか?』
というナニカを含んだ声に。
『お、おい、エムル?』
慌てたようなマスターという人の声。声は幼いんだけど…、こう話し方というか雰囲気というかが、身近な誰かに似てる。
って『身近? 誰?』、ソルトたちじゃないことは明白。
『……ねぇ? ジェル姉ェ?』
クッキィの戸惑いの声が伝わってきた。
『…そうね、そうかも?』
ジェル姉ェもナニカに戸惑っている。
『二人して、どうしたの?』
戸惑うシュガーに指摘が飛ぶ。
『『わたしたちの好きな人って、誰だったっけ?』』
『え………………………、まさか?』
『『わたしたちやソルトたちを、軽くあしらうような人たちってそう居ないってことよ。』』
そんな会話をしている時に恐怖の大魔王様、降臨しました。
『あんな無様を晒して、いつまでぐっすり眠っているのかしら? 仔猫ちゃんたち?』
カキン。ムカムカムカムカムカ。なんか、その物言い、ムカつく。
『そう? セトラ様は七歳だけど、対人戦闘は、あなたたちよりも遙かにレベルが上よ。』
『そう言うなよ。あ、コヨミ水ちょうだい。アトリは野菜刻んで。お腹減っているからそんなにピリピリしているんだよ。シクロー、あ、シクロ起きた? ちょっと手伝って。うん、これの熟成の時間少し進めて。おし、いま絞めたばかりの肉がベストな熟成になったな。リウスー、リメラと一緒に一セチ角のさいの目にカットしてー。』
何を作る気なんだろう?
そう言えば、父さまも料理好きだったな。また、食べたいな…、あの頃のカレー。
『今、作ってるよ。今日はカウエルだからな!』
うわぁ、嬉しい! 大好きだよ、父さま。
『……………え?』
『『『思い出しちゃったね……。わたしたちの一番大好きな人。』』』
『『『うん……、ティアママとサンパパだ。 夢でもいいから会いたいな。』』』
しんみりとするジェリィ、シュガー、クッキィではあったが、そこに茶々を入れる人物あり。言わずと知れたソルトであった。
「おまえら、この凄く旨そうな匂い嗅いでもまだ、夢の中か? 根性あるな!」
「そうだよ。食べちゃうぞ?」
「早く起きないと、おまえらの分も……」
「「「だめぇ! わたし達の分はあげないもん!」」」
さっきから、本当に美味しそうなカレーの香りが漂っていました。
匂いの元を辿ると、まだ身長の伸びていない少年が石で出来た台に乗ってカレーを混ぜていました。
こちらの気配を敏感に察すると、振り向いて言った。
「おや、起きたね? 俺は、エト・セトラ・エドッコォ・パレットリアという名前でこの近くの国の王だ。もうすぐ美味しいカレーが出来上がるからな、待っててくれ。」
その少年の周りに、女性たちが集まって手伝っている。あのメイド服の女性もだ。
目が合ったので睨んでみると、屈託のない笑顔で返され、こちらがドギマギしてしまった。




