178, ダンジョンで、……攻略は、二十六階へ ⑩ マスター
「サ…ン…パパ? サンパパ…、……サンパパぁ~!」
信じられないという顔から、俺の胸に飛び込んできた。
………って、やめろ!
オレは今はセトラだし、だいたい背丈が足りないって言ってんだろぉ。
あいつの目には、成人していた時のオレの姿しか見えていなかったようで。
オレは立ち止まったまま、彼の股間を通り抜けてしまった。
ミントは、「あ…? わぁ?」という言葉とともに、足を揃えてすっ転んだ。
通りすぎがてらに、服の左右のポケットからにゅ~と伸びてきたのは、プルンとポヨンの手か足か。アダマンスライムの手足をぶっちぎることが出来なかった彼は、そこを支点にして、顔面から地面とキスを行ったようで現在は伸びている。
ケガは無さそうなので、まっいっか。
介抱するのも面倒臭かったので、ジェリィ、シュガー、クッキィの少女組はアトリが付いていたし、ソルト、ミント、ハーヴの青年組と、シクロの面倒はコヨミに任せておいた。 それに、彼らの使い魔たちはそれぞれのあるじから離れない。
なので、シクロの頭にはライトンが齧り付いている。
『あるじ様ぁ、ごめんなさいでするぅ~。』
などと、謝意を伝えてくるのは、ドアモーンだが。
彼? にしてみても魅力的な階段との契りを目の前にして、居ても立ってもいられなかったという事なのだが。
だが、現実に迷惑を被ったのだ……。ここは、少し反省していて貰おう。
『お前たちには、守秘義務というモノについて話しておかないとならんようだな。』
曰く、関係者のみが居る場合と関係者以外が居る場合に、開示できる要素を切り替えることを徹底するように、こんこんと説明していたら、妙な気配に気が付いた。知っているような、そうでもないようなそんな気配だった。
その妙~な気配を辿ってみると、デフォルメされた葉巻みたいなモノがオレにロック・オンしていた。
『あなた方は、わたしのあるじたちの敵ですか?』
その葉巻から聞こえてきた苛立たしそうな想転移に驚かされた。
『え~と、違うよ。どちらかと言えば知り合いなのだが、彼らにとっては誤解する状況だったということかな。』
『そうですか…?』
『ところで、キミはどなたなのかな?』
『ああ、失礼しました。わたしは、そこに寝転がっている少女たちの持ち船アフロディーテの管理AI『メル』と申します。これは浮遊端末に映像を被せているだけですので、攻撃方法も微細な網しか持ち合わせていませんし。ご安心ください。』
そう想転移があった時点でヒリュキからハンドサインが飛んできた。
チラ見した俺が、電導レベルをマックスにして、広域型想転移にする。
『電磁ネットのレベルが最大だ。気を付けろ? って、仲間から連絡が来ているが。それでもお前は実行するのか?』
ピクッと『メル』の浮遊端末が動いたが、既に空間走査は完了している。
『わたしは…。わたしは…。』
混乱する管理AIの言葉を聞きながら、パスワードを口にする。
『A-frd、t0エムル、覚醒せよ。』
こんな時のために設定したものでは無かったはずなのだが……。仕方あるまい。
『な、何? そのパスワード…は、いったい?』
当惑する彼女を尻目に、パスワードを繰り返す。
『A-frd、t0エムル、覚醒せよ。』
『ぱすわーどを確認。グッドモーニング、私の製造者。空間展開物質の走査完了。圧搾完了。管理AIへの再教育完了。』
『ご苦労さん、久し振りだなエムル。ン? ひょっとして……、A-trn、t0エティルも一緒か?』
『エティル……。まだ寝てる。エムルーチェも、まだ寝てる。』
『……ま、マジか……。』




