175, ダンジョンで、……攻略は、二十六階へ ⑦ 圧倒 ③
少々、短いです。が、つながり的に次に行きます。
「ソルト!」
目の前に居る彼の兄弟を心配する声が聞こえる。
もう一人の彼と対峙するのは彼。
近づこうと、苦労しているようだが、彼の相手はセトラ。
以前は親友で、今は婚約者。人生って不思議なモノだと思う。
前世では、魔法なんて当たり前では無かったから、その概念を自分のモノにする前にことが起こってしまった。
だから、今生では、その概念の真っ只中に生を受けたのだろうか?
そんな事に意識を割かれながらも目の前の彼の剣捌きを凌いでいく。
「不思議な剣ね。でも、まだまだ成長途中。それはキミもだな。」
「ふっ……。あなたも不思議な方だ。全然本気になっていない……、何か余力を感じる僕が居る。あなたの名は?」
洒落者のハーヴだが、女性を口説くにはまだまだ経験が足りない。これがアーシィなら、私でも堕ちたかもしれないが……。
「女性に名前を聞くなら、自分から名乗るようで無ければダメよ?」
言っててなんか恥ずい。
「ああ、そうでしたね。アーシィ叔父さんに言われたことが有りました。僕の名は、ハーヴ。ハーヴ・エト・メルヴァンです。」
彼の口からメルヴァンの名が出た時、不覚にも泣きそうになった。
彼らだけがメルヴァンの名を受け継ぐ者であるのだから。
資産凍結された広大な領地もある。
今はまだ、公表など出来ないのだけれど。
「私の名は、アガサ・シクロ・ミナモト。彼らの仲間でもあるけど、たぶんヒト族。それにしても、この世界の理というものは面白いのね。ふふっ。」
微笑むシクロに対して、ハーヴは戸惑っていた。
それもそのはず、アーシィという人物は、このコロニーの墓所にも名を刻まれているが遙かな昔に生きていた人なのだ。
ハーヴたちの親として遺伝子的に認められた人たちの仲間。
『アーシィ叔父さん』と言った瞬間、そう遠くではないところからクシャミが聞こえたのだ。そのことに戸惑ったのは確かなのだが、今、目の前で鍔迫り合いをしている人物は何故そんな事を知っているというのか。
マサカ……。そんな事は、あり得ない。
だが、宇宙は広い。今まで降りかかってきた事柄を精査するだけでも、あり得ないことは、あり得ないと言うことを僕たちは知ってる。
この宇宙に居る者に、絶対に降りかかる事態は既に諺として残っていると言うこと。
「何を考え込んでいるのかは想像つくけど、下手な考えは休みに似たり、よ。」
シクロがそう言った瞬間、ハーヴの顔から、血の気が引いた。
ハーヴの読みではこの人はどちらかと言うことまで絞られていた。
「あなたはまた、そう言うのですね。」
カマを掛けてきた。
「ふふっ、この決着の後でも、憶えていられたらね。」
さらっと、掛けられていたカマを外した。……はずだった。




