174, ダンジョンで、……攻略は、二十六階へ ⑥ 圧倒 ②
『あなたたちは……!』
ソルトの目の前に現れた少女から放たれたナニカに、言いようもない悪寒に後ずさると、彼の足元に細い串みたいのが突き立った。
キラキラと輝く串で、突き立つと同時にシャラシャラと崩れた。
「……氷の串? あっぶなー!」
正体の判明しない魔法らしきモノは、足元に突き立った後に崩れつつも周囲を円形に凍らせていた。
だが、ソルトの知る氷の串は、刺さったところを中心に、直径三セチほどが凍る。だが今、彼女が放ったものは三〇セチほどの大きさで凍った。
「リリース!」
だが、彼の使い魔であるメビュースが反転のチカラを使う。その本質は鏡。起こったすべての事象現象をひっくり返す力を持つ。氷は溶けた。
だが、加速した水滴が質量を伴ってソルトの周りで弾ける。
それもまた、力の無いモノに還る。
その力のせめぎ合いの中、言葉を交わす。それが中のヒトの狙い。
「あなたたちは、わたしたちの何を知ってわたしたちの何に、そのチカラを放ったのかしら?」
新たな水滴を宙に浮かしたまま、タイミングを見計らって問い掛けるコヨミ。
浮いているそれは、ソルトが、宇宙での無重力世界の状態だが、纏っている雰囲気はだいぶ違う。
コヨミの持つ力の発露。彼女の意思で、彼女の『雨』が自動的に発動しているもの。
そこにさらに補正を掛けるのは、中のヒト。自分の中に融けている従魔の力である熱を操る。
「絶滅危惧種の違法所持だ。この宇宙の法を知らぬとは言わせない。」
端的にソルトが言い放つ。
「知らないわ。この宇宙? 宇宙って何のこと? どこなの?」
「な、なにぃ?」
即答したコヨミの言動にソルトが狼狽える。
コヨミがそこにつけいる隙を見出す。
「わたしたちがお友達と一緒に居て、何が悪いの? それとも彼女たちが、あなたたちに保護でも頼んだって言うの? あなたたちは、どこまでの情報を掴んでいるのかしら?」
まくし立てるコヨミの疑問にソルトは、「あ…う…」としか言葉を紡げない。
彼女たちが法を知らないということに、気が回っていなかった自分に今あらためて気付いたからだ。
「前提条件次第でそれは罪にもなるのでしょうけど、それを知らない人たちにとっては特別な意味は無いわ。それでも、それを強制するというのなら、あなたたちは植民地の王と言う存在なのかしら? でも、わたしたちにも王族は居るわ。どう説明するのかしら?」
コヨミと中のヒトが、まくし立てた言葉の中に自分たちがいま生きている世界では一度も使われたことの無い言葉が有ったことに、気付いていなかった。
「……え?」
ソルトが驚く。
「え? じゃないわ。あなたたちは、理論的にどうすればいいと思っているの?」
ソルトが驚いたことをコヨミと中のヒトもまた、勘違いした。
つい口走ってしまった事に気付かなかった。
『チカラ?って実行力の証明。植民地?は実行した結果。理論的?は実行した後の結論。』
……母さまの必須条件が、全部入っている。
「か…ぁ…さま。」
我知らず呟いたソルトの言葉は、コヨミの両手突きによって掻き消された。
「え…ち、違うもん!」
全体重を受けたソルトは足元の氷に滑り、バランスを崩し、仰向けで倒れたところに頭上から襲われた。
急襲したのはシュガーで、身動きできないままエルボーを腹に喰らった。
「ぐふっ?」
ソルトは悶絶し、意識を失うまでの数瞬、目はコヨミを追っていた。
「はぁはぁ、違うもん!」
肩で息をするコヨミを見ながら、静かに頷いてソルトは満足そうに意識を手放した。
『ふふっ、かあさま……。』
その人、その人の言い回しって結構あるものです。
知らず知らずのうちに……使っていたりします。
小さなかぁさま、見つけました。
by ソルト




