173, ダンジョンで、……攻略は、二十六階へ ⑤ 圧倒 ①
な、なんとか。……やっている事って盛大な親子ゲンカでしょうか? さてさて。
突く、打つ、払う、蹴る。
バリエーションは、そんなものだが体の各部署でのそれは、関節の可動域や裏を使うことで、多種多彩になる。
「ふっ!」「はぁッ!」「はっ!」
彼女たちの身動きのたびに、発する息継ぎは鋭さを増していく。
彼女たちは超高速の世界で、超高度な技術を繰り出し、防ぎ、交わし、また繰り出すことを行っており、空を切り裂く音が続く。
シュガーとクッキィの二人を相手にしたアトリは、それを舞うような形で一連の動作を行っていた。
自分に向かってくる拳を払いのけて、そのままシュガーの懐に入ろうとするアトリ。
それを横合いから、シュガーが動く軌道を計算と言うよりは、阿吽の呼吸でつかみ取ったクッキィの親指、人差し指、中指をクチバシの形にした三尖打突が、アトリの目を狙う。
アトリは、同じ形の指でその攻撃を払う。
『くっ、強い! 初動の速さには驚いたけど、でも、クッキィと二人で同時に攻めているのに……。全部受け流されている? っくぅ。……違う、なんだろうこれ……。』
シュガーの思考が、クッキィに流れて来ていた。
結構、以心伝心って普段使いしていたけど、この場所では、伝わってくるそれはなぜか非常に鮮明だった。
しかもシュガーの心の内がダダ漏れで、少し……恥ずい。
『でも、これって。シュガーとやっている乱取りに似ているかも……。わたしは、ティアママに教わったことって数えるほどだったけど、シュガーとの実戦訓練に雰囲気似てる。』
辺境区での仕事は、問題を起こしている双方の懸案を解決するためのもの。
トラブルは山ほど起きる。
自衛するためのチカラとして対人訓練を、シュガーの地獄訓練で身に付けていた。
そのクッキィの思考もまた、シュガーに流れる。
『実戦訓練? ………確かに、彼女の方が腕は立つわ。わたしたち二人を相手にしていても揺るがない。………違う! 崩そうとしているんじゃ無いんだ! むしろ、矯正……?』
クッキィにそれが伝わったのか、相手の顔を改めて見つめた途端、顔に驚きが走る。
『ガァ姉ェ、この人、目ェつぶってる!』
『ガァ姉ェは止めなさいって……えっ? マジ?』
こんな超高速な技の応酬の世界で、目をつむる……。
そんなことそうそう、出来るものじゃ無い。
このヒト、本当に人類?
「だけど、ティアママなら、この人にも勝てるのかな?」
シュガーがポツリと漏らした。
「いいえ、よくて相打ちよ。」
こんな超高速な乱戦の最中に思わず漏らした、ひとり言に答えが返って来るとは思っていなかったシュガーは、虚を突かれて体勢を崩した。
その一瞬に足払いを受け、アゴへの掌底を躱そうとして、仰向けに倒れ込んでしまったのである。
足払いの支点は相手の足に拘束されている自分の足、逃げられなかった。
「ぐふっ?」
「えっ?」
倒れたところには先客が。ソルトがみぞおちを抱えて悶絶していた。
どうやら肘が直撃したようだ。驚いて振り返ったシュガーだったが……。
「あらあら、その子にトドメを刺したのは、どうやらあなたみたいね。」
そういう言葉とともに、シュガーの後頭部に手刀が降ってきた。
彼女が憶えているのは、そこまでだった。
「ガァ姉ェ!」
クッキィが背中を向けている少女に追撃を入れようとして、ふと気付く。
シュガ姉ェとの戦いの最中に話していた言葉の持つ意味に……である。
『「だけど、ティアママなら、この人にも勝てるのかな?」
「いいえ、よくて相打ちよ。」』
この言葉は、相手のことをよく知っていなければ、出てこない言葉でもある。
「……もしかして、ティアママを知ってるの?」
クッキィの呟きが漏れたが、アトリの動きは止まらない。
彼女に自衛の術を教えたシュガーでさえ、瞬く間に倒した相手。
「……ティアママ……。」
クッキィが意識を奪われるまでは、そう時間も掛からなかった。
倒れている少女たちを見つめて、「………」何事かを呟いたアトリだったが、仲間の戦況を見守ることにした。
「色々飛んできていて危ないから、ね。」ということらしい。




