169, ダンジョンで、……攻略は、二十六階へ ① 遭遇
「ああ、よろしく頼む。」
そうアーサが応えた。
ずっとコロニー内に雨を降らせている間に、ダンジョン二十五階の魔物であるトリケラの従魔化により制圧は完了した。
このダンジョンで残る魔物は意鑑獅子たち。
その処遇ではあったのだが、彼らは既にサイボーグ化されており、コロニー内の巡回監視を主な任務としていると聞いていた。
去就の是非を聞いていた時に返された言葉が、コレ。
『我ら、残されしこの大地『エデン』を管理するモノなり。新たなあるじたちの着任を歓迎する。我ら個にして全、全にして個。ゆえに守護者たる貴方様への着任を望まず。ただ、幼き子らを託したく思う。我が子らよ、永き時の果てに再び、見えんことを。我が子らを頼みます、ゲンブ殿のあるじよ。』
そう想転移での会話を終えると、また、石像のようにこちらを見て佇んでいた。彼らが託してきた五頭もの幼き子意鑑獅子を残して。
『お前たちの新たなあるじも、もうそこに来ているさ。』
そう、返しておく。彼女たちなら否応なく変化をもたらすだろうからな。
オレは信じている。
『リュウ……。』
ちょっとしんみりとしてしまった空間に突如として響き渡る声? がありました。
もうちょっと空気読めよ! とは思えるくらいに脳天気な声では、ありました。
『ドアモーンでする! 二十五階のボスを手なづけた事を確認したでする。ポイントゲットだぜ! でする!』
ダンジョンフロアの魔物門扉の査定が始まった。
『二十一階から二十五階に到るまでの魔物の服従を確認でする。レベル換算にポイントを移行でする。絶滅種無しのため、三〇〇万ポイントを加算するでする。ボス生存換算で各階層ごとにそれぞれ五〇ポイントを加算するでする。踏破階が五階分なのはラス前ボーナスでする! まずは、登場順に紹介するでする。白堀鼠のシロウ、その眷属数百匹。門扉のアポルツ、マク・モーン。銀狼のイロミィ・ホージマ、黒真珠虫のパロア、岩サソリ、キラーアント、フェアリー種………もとい、妖精種。同様にダークフェアリー種ではなく、黒妖精種。ともに七名をゲッ『ストップ、ドアモーン!』……何でする?』
査定に対しての誠実な対応に一定以上の評価を常に受けるドア・モーンの声が不服そうな響きを持つ。
だが、守秘義務がそこには無かった。評価して良いことと悪いことの区別も無かった。当然だ。
評価するには良いことも悪いことも必要だからだ。
『いまは時間が必要な時だ。それに、次の階への階段が出ないまま話を進めるのは筋が立たない。それに、手の内を明かしたくない者たちが居る。お前の仕事を止めるのだ、代償は必要だろう……、何を望む?』
そう告げると不思議そうな調子を含んだ声で、問い掛けてきた。
『『望む』でする? ドア・モーンの一族はあるじ様に従うと、従魔になったはずでする…。あるじ様はドア・モーンたちを正当に評価してくださるのでするか? くくぅ…でするっ!』
ドア・モーンがその大きな扉をバタバタさせて言う呟きは……、なんとなく不思議な言葉で途切れた。
『……ドア・モーンは告げますでする。あるじ様、ドラゴンステーキを望みますでする。』
意外な一言にちょっと絶句してしまった。
『なぜ、それを……。』
『あるじ様のために我らも変革の時が来たのでする。これから現れるはずの階段に対応するためでもありますでする。』
何か不思議なニュアンスがあったような気もするが、リクエストを聞いたのはこちらなのだ。用意しなければなるまい。
もちろん、彼らの要求に応えるのだが、彼らだけが食して終わりではない。
ましてやドラゴンステーキ。欲しがる者は、ヒト族も魔物たちの区別無く魅了していたのだから。
だって美味いし、経験値はウナギ昇りだったし(ドラゴンだけど)、食後に来る驚きは果てしないものである事だけは確かなことなのだから。
『こ……、これが……ドラゴンステーキでする? はむ? でする! ……美味しっ! …でする!』
ドア・モーンの扉の所に五十セチもの草履のようなドラゴンステーキを置いたところ、大きな扉の下の方から鍵の形を模したフォークとナイフが現れ、少しずつ切っては大きな扉の中に納めていった。その度に『美味し! …でする!』とか叫ぶのは、止めて欲しいところなのだが……。
そのドラゴンステーキも無くなった頃に、『デザートは、ドラゴンフルーツのシャベッタをお願いするでする!』ですと。
『シャベッタだと……。なぜお前がそれを知っている?』
新作のお菓子として、今回風呂上がり用に用意したものではあったのだが、未発表だったはず。
『すべての道がローマに続くように、すべてのドアは我ら一族に繋がるでする!』
それを聞いて俺は危機感を募らせた。
『秘め事』をする時には、そのドアに『脅し』を入れておかないと……。
何が漏れるか、分からないからな………orz




