168, ダンジョンで、……攻略は、二十五階へ ⑭ 仲間
仲間って、いいですよねぇ。
「われの言葉に答えよ。雨よ、われの放つ先触れとともにこの閉ざされた大地に潤いを与えよ! ………われに従いし子らよ、虹の橋を渡りて飛翔べ!」
俺は、ただ願う。
『雨よ、降れ。』と。
そして、放った俺の言葉に呼応して、俺の背中から力強い羽ばたきとともに、鳳凰のルゥが発進。アトリの背中から、鳳凰のチャァーが発進。
コヨミの背中からはスズメ並の大きさだが、真っ赤に燃え盛っているような朱雀のフェニックたちが発進。
それぞれが持つ魔力特性を好きな色に変換して光の尾を曳いて飛び立った。
雨上がりに付きものの虹のように。
ザアッという羽ばたきの音が、トリケラの注意を引いた。
生まれた時は、ほぼ一緒でそれからもずっと一緒だった仲間たちの姿。
自分の残していた思いが結実した幻かと、思わず唖然としてしまっていた。
「ウソ………。……ルゥ、……チャァー、フェニックたち……、ライトンまで………。こんな光景が見られるなんて……。あ……れ?」
頭上を旋回して戻ってきてはまた飛び去る者たちの下で、トリケラはふと気付いた。
いま自分に抱きついている者に対して、あのセトラという人物が何か言っていなかったかと。
しばし、脳内でリフレインする。そして、愕然とした。
「では、トリケラお前の望むだけの雨で応えよう。良かったな……、アーシィ。」
という言葉がヒットした。と同時に、三つの頭が一斉に不可思議な思考に凍りついた。
目の前にいる人物はアーサ、そう言ったはずだった。
『だが……、アーシィとこの人は呼び掛けた。』…………………って、まさか?
だけど、本当に……………あるじ様?
そんな取り留めの無い事を考えている間に、かつての神獣の仲間たちが舞い降りてくる。
鳳凰という種族に変わったルゥとチャァー、フェニックたちはまんま朱雀か……、ライトンの種族は相変わらず『不思議なブタさん』となるとは?
変だ!
彼らが、あのあるじたちと離れられる訳が無い!
トリケラ自身がそうなのだ。ならば彼らもそうなのだから。
だとしたら……、とそこまで考えて気付いた。
彼らのあるじがいるというのなら、自分も同じなのではないかと。
まさか……、まさかマサカまさかマサカまさか……。
堂々巡りの思考の輪の中に嵌まり込んだトリケラに声が掛けられる。
目の前のアーサといった人物に。
「久し振りだな、トリケラ。」と。
顔つきは違う。声も深みが無い。
でも……、そうだ、きっとそうなのだ、この方は……!
「お久し振りですね、我があるじ。アーシィ様。」
だが、その言葉にアーシィ自身が難色を示した。
「すまねぇな、そう呼んでくれるのは嬉しい限りなんだが。今の俺はアーサの中だ。アーサ・リドロ・ヴォーが正式名称だ。いわゆる生まれ変わり……なのか。おう、おめぇも何か言わねぇか?」
顕在化したアーシィが潜在化しているアーサに声を掛ける。
「トリケラさんですか? あのご先祖様の神獣と言われた? よ、よろしくお願いします。」
ご先祖様だったアーシィとその神獣のトリケラに対して、アーサは敬語だった。
自分の口から出る自分ではない話し方にアーシィは頭を抱える。
「アーサ……。セトラ、あとは任せる!」
アーシィは打開策を見つけられずにアーサの奥へと、引っ込んでしまった。
「あ…、アーシィも無責任な……。アーサ、契約した魔物にさん付けってアリかよ…orz」
呆れ果てた口調で呟くがアーサには聞こえていたらしく、ビクッとか背中が跳ねていた。
「あ、でもスキルは生えたみたいだな。アレ? 魔物誑しの弟子の弟子? むぅぅ、面妖な! アーサは努力してスキルを磨いていかないとダメってことだな。でも、コレで確認した従魔としての神獣は六体。あと一体だな……、どこに居るのかな? あと、意鑑獅子のキミ達はどうするの? あ、階段は? 階段がいまだに感じられないんだけど?」
一番面倒くさい神獣の従魔化という難局を乗り切った俺はちょっと油断していた。
だって、このコロニーには、俺の意を汲まない者たちは居なかったから。
だから、予想外の疑問の噴出にドギマギしてしまった。
「神獣が六体? ……一体どういうことです? 確かに、ルゥ、チャァー、フェニック、ライトンの飛翔はわれ……わたしも確認しました。それに神獣には、わたしも入るのでしょうが……。あと一体はどこに……『みゃあ』……。…って、あぁー? シャ、シャンマタぁ?」
やはり、魔物誑しの弟子の弟子では神獣のスキルには対抗できないのか?
まだ、このコロニーとの接続は解かれていないから、本当に今後次第なのだろうな。
しばらくは動けないのかな。
「あー、コホン。トリケラ…、アーシィが出ることはしばらく無い。アーサのスキルの成長次第だ。そして、お前の望むスキルもな。」
俺の言葉に落胆を隠せないトリケラではあるが、何かに気が付いたのか、つと顔を上げる。
「ここにわたしを含めた六体の神獣。わたしのあるじはアーサそして、アーシィ様では、彼らのあるじは?」
確かに不思議に思うのではあろうが、トリケラの言葉にアーサが崩れ落ちていた。
途端に、トリケラとの繋がりが細くなる。
その影響はトリケラにもフィードバックされた。
「む? わたしの力が抜ける? これは、魔力の経路の不具合か?」
トリケラの姿が人型を保持できないで三つ首の魔物の姿へと移行していく。俺の懸念していた通りの現象で、驚くにも値しないものだった。
「トリケラ…、アーシィに出て来て欲しければ、アイツの想いを無にするものじゃない。アーサ! お前もだ、お前が望んだ従魔が苦しんで居るぞ。お前は何を望んだ? 何を望む? 何が欲しかったんだ? もう一度、よく考えろっ!」
俺が放つ言葉は強い電撃のような効果を伴って、アーサとトリケラの二人に向かった。
階段が見つからなかったので、俺もイライラしていたようではある。
「セトラ……。僕が欲しかったもの? …………ああ、そうだ。そうだったんだ。」
俺の言葉に、アーサが考え込む。答えなんてそんなに深いところにはないから。
思い出すのも、時間はそう掛からなかった。
あとはぶつけるだけさ、思いの丈を、ね。
『ガ、ガウゥゥゥ……。』
三つの首で項垂れるトリケラの姿に、ルゥたちは遠巻きに視線を送っている。
『『『『『……トリケラ。』』』』』
想いは一つ。
早く気付けよ、バカ! だった。
同じ思いをしているものは、ここに居るのだから。
「トリケラ。」
静かにアーサがトリケラに声を掛ける。
『ガウ?』
三つ首で何? という感じで首を捻る。
「わたし…、いや僕の従魔になってくれてありがとう。キミの望むアーシィ様には、僕は全然届いていないけど、でも……、僕にも決めたことがあるから、僕に力を貸して欲しい。僕はキミの力を、助力を、そして、その存在そのものを欲している。」
アーサの声に力が籠もる。
『ガヴ?』
トリケラは、アーサの発する言葉に引き込まれていた。
自分を欲しているその存在の言葉に。その言葉の力に。
そして、感じる湧き上がる力。
『この方はあるじ様ではない。だが、あるじ様なのだ。』
そこに思い至った時、仲間たちの視線にも気付いた。
『ああ、同じなのだ。』と。
アーサの力を感じて人型へと変化したトリケラが紡いだ言葉は。
「あるじアーサ様、わたしの力を捧げましょう。」
この時初めて、トリケラが本当にアーサの従魔になり、アーサは魔物誑しの弟子にスキルアップした。
「ああ、よろしく頼む。」




