22, 結界士と、結界破壊魔法の対抗戦 1-老師
今回は、ちょっと短め。早めに続き書きますよ。
「シャッカン・ポゥ皇帝、委譲してくれた領土はすぐに俺が行ってもいいのか?」
何せ、たかだか二歳でブラック企業による「床暖房」工事しまくり状態にある俺としては、エドッコォ領ですら、地図的な位置やら広さやら殆ど何も把握できていない。
スクーワトルア国の中のエドッコォ領でさえ把握できていないヤツが、魔王の国やタクラム・チューなどの国の位置関係を把握できるわけがない。特に二〇年も前に滅びたタクラム・ガン国の場所など分かるはずもない。
「父上、私がセトラ老師とともに行動するというお言葉でしたが、只今を以てそのお言葉の効力を効かせて頂いて宜しいでしょうか?」
シュッキン・ポゥが、父親にお伺いを立てる。
………、いくら何でも変わりすぎだろう? お前。
今までの、鼻についていた態度が変わったせいで、サラリと流れる肩には届かないくらいの金砂の髪やすっきりとした顔立ち、さらには何かをいつも探していたような目つきが無くなり、深い海のような落ち着いた瞳とその眼差しは、見る人を惹き付けずにはいられない。
あからさまに人相の変わってしまった息子の放つ言葉に対して、思わず息を呑んだ父親が言葉に詰まるのも、まぁ仕方ないわな。
「な………、あ……あぁ……、よ、良かろう。只今を以てその効力を発しよう。今までのお前が今のお前だったらと、思ってしまうが、私も今までと今とでは違っている。良くも悪くも、な。ハハハ………はぁ。」
こ、こら、ひとの顔を見て溜息をつくな! 幸せが逃げるだろ!
「ハハハ、私もそう思いますよ。では、旧タクラム・ガン国の領地まで老師をお連れいたします。あ、それとエテルナ夫人。今までの私の側にいてくださってありがとうございました。私は、やっぱりあの結界破壊魔法を放つときの輝きに魅せられていたのだと思います。あの輝きを取り戻した暁に、また再挑戦させて頂きます。レシャードなる人物も、その輝きが………。いえ、そういうことにしておきます。」
シュッキン・ポゥ、前もそのくらい素直だったらって、そう思うよ。成長していく国を見ているのは楽しいものだが、諌言を受け止めるだけの器量があって欲しかったものだよな。あの時のお前の目に国民一人一人の命は見えていなかったのだから。
「あ……、え……。本当に? というか、あんた、本当に本人?」
豹変したシュッキン・ポゥに驚きよりも疑念が募ったルナも当たり前の反応ではあるな。
「あぁ、そういえば。あの土地に住んでいる者などは把握しているか? 地下の鉱山から産出している物が何かは聞いてなかったが、鉱夫とかそんなのはどうなっている?」
下手すると、そのまま住んでしまう者がいるかも知れないからな。把握だけでもしておかないと、魔王様やら魔人様やら訪問しかねない国になるだろうから。
「あぁ、あの国には、いえ、国だったところには、ですね。定住しているものはおりません。いま存在するのは、自動化された鉱夫のいる鉱山なのです。」
一種の工場と言って差し支えないかと、という説明に目が点になる。
タクラム・ガンという国のあった場所はCの字の形をした湖のあったところで、すぐ側に古い城が建っているところだったが、何代か前の王族が手狭になったという事で、湖のほとりに新しい城を建立したという事だった。
そして、その時に採石した場所に出来たのが自動化された鉱山だった。鉄や銅がインゴットに精製されて出てくる。採石場のところにある一枚岩に項目が出てきて選択し、スタートボタンを押すだけだ。押した瞬間に必要分の魔力が強制的に引かれるのだが、ステータス上で、魔力の数値が五十未満の者には、そのボタンが押せないようになっている。奴隷などの魔力を使用してという裏技が使えない。
その国を攻め落とした者たちは、その国の片隅であっても徹底的に人類という者を排除した。理由は簡単。神の牙が怖ろしかっだけだ。
かつて、美しかったその古い城は、扉を閉め切ったまま、朝日に輝いているという事だった。シュッキン・ポゥも扉の前に立って開くかどうかの検証に参加したと話した。
扉はこの二十年間、一度も開いていない。そういうことである。
「一種の結界かな?」
「かも知れません」
「そうか」
「鉱山が自動化されているため、近くには魔物の出る森もあるので、冒険者以外では、滞在が許されていないのが実情です。」
「じゃあ、ルナ。そこに同期の人たちを呼んでくれる?」
「なんで?」
俺の提案に?マークを浮かべるルナに、
「だって、今まで二十年間も開かなかった扉だよ? 結界破壊魔法の出番じゃ無いか?」
「だって、あたしたちは………」
「ご褒美だって、あるよ? フラレンチ・トゥストやプリン、秘密の隠し球も、ね。あ、それとも素材の方がいいかな? 魔金や魔銀なんかの掘り出し物が結構揃っているよ。それに火モグラたちも居るから、これから掘るっていうのもありかな? どうする?」
「えっ、ええーー何それ、聞いてないよ?そんな美味しそうなご褒美って………、あ……、さっきから皇帝や皇族の人たちに何かあげているのは気が付いていたけど、それだったんだ。いいなぁ。」
「ほい、味見」
そう言って、一口タイプのプリンを渡す。あ、もちろん、パトリシアにもね。ヒリュキに二つ渡して、一緒に美味しそうに食べてる。こちらは普通サイズ。ルナがそれを横目で見ているが今は、ちょっと返事待ちかな?
「むーーーー、分かったわよ。どうせ、みんな暇なんだし、呼びかけてみるわよ。だから、あたしにもそれちょーだい!」
さてさて、どんな奴らなのやら。
「さすが、老師。アメと鞭の使い方が上手い。しかし、結界破壊ですか? それにしてもなにか私に対しての挑戦状のような気がしますな」
シュッキン・ポゥの言葉にほくそ笑む俺がいた。
「そうだな。お前も挑んでみるか、そいつらの魔法に……」
「やります。やらせてください!」
細工は流々、あとはご覧じろか? さてさて、どうなるかな?
ある国のある魔法士は、その手紙が届いた時、魔晶体に火の魔法を充填していた。手紙の主を見て、思わず発動した魔法でやけどをするところだった。
久し振りどころでは無い、飾り文字で囲まれた名はルナとだけ書いてあった。
その飾り文字に隠された意味は、召集令状。
その日、各国に戻っていた彼らに学院の偶像が、再び降臨した。




