その名は、『かいだん』というもの
「なぁ……。」
歯切れが悪い言葉だな、何を悩んでいるんだ、コイツ? ああ、コイツの名はミント。
仕事仲間で弟だ。
「はぁぁぁぁぁぁ。」
コイツもか! ってコイツはハーヴ。ミントと同様だ。
とは言え、俺もなんだよなー。
そして、俺はソルト。ハーヴとミントの一応は兄になる。年は同じ二十一歳。
三つ子なんだよ、俺たち。
「また……、出たのかよ?」
「「うん、出た。」」
そうなのだ、いま俺たちを悩ませる怪奇現象があった。この宇宙を駆け巡るような科学万能の世界で、『何を』とか思うだろ……、事実『出る』のだから俺たちも手に負えないんだ。
その現象は『かいだん』。
ン、何だいその目は……。
あ……、ああ『かいだん』か?
『かいだん』と言うのはな、姉妹船と接続するための引き込み型のタラップがあるのだが、それこそその姉妹船とドッキングしない限りは使用しない物なのだけど。
タラップの方は、キチンと作動するよ? そうでないと、彼女たちとの交際も続けられないからね。
その姉妹船に乗ってこの辺境星系での問題解決屋として鎬を削ってきた宿敵と書いてライバルと読む!みたいな関係?だった。
そう……、だった。
今度の帰省で、俺たちの故郷にあるコロニーの中の親父たちの墓前で報告したらそのまま暮らすつもりさ。
俺たち……、結婚するんだ。
会長と総帥たちの粋な計らいで、コロニー公社の駐在員に指定されたんだ。あそこはチヅル母さんの技術が眠っているという事で、他の技術屋からも垂涎の的だったんだけど、生体認証で弾かれるんだよ。
俺たち? 俺たちはあそこ出身者だもの。
だけど、前に帰省した後に気が付いたのだが、船内に『階段』が出没するのだ。
船内の移動に使うだろうだって……、使わないよ。
だって、俺たちの船って、宇宙戦闘艦なんだよ。
俺たちの職業は、辺境での問題解決屋。
結構、物騒な遣り取りも多いんだよ。
で、加速する時にも、停止する時にも常に1Gの加重になるように設計されているんだぜ。ただ、艦内の移動の時なんかには〇.八G位から〇Gまで変動させられる。
まぁ、設計者は俺たちのお袋のチヅル母さんで、過去から今現在に至るまでその設計や思考をトレースして、修理や改修を行える者は、キィ坊ただ一人なんだよな。
……ってくらいの難物。
「ソルト、キィ坊って言ったら殴られ……いや、また踵落としだな。」
「ソルトに対してだけ、キツいんだよ……アイツ。」
俺の弟たちのミントとハーヴ。
『シュガーがキィ坊のお気に入りだったからな。』
シュガーと付き合いだしてから、キィ坊の苛烈さの度合いが変化したのは事実だ。
とは言え、キィ坊はハーヴと、ジェリィはミントと、それぞれ上手くやっている。
ジュール、シューガ、クーキィという名の同い年だった三つ子の三姉妹。
俺たちの惑星からの脱出時に受けたタイムラグによって以降、アイツらと俺たちの間には三年もの時間が横たわっていた。
その三年という時間は、俺たちとアイツらとの差をハッキリとさせるには十分すぎる時間で……。同じ艦内に配属されたにも関わらず、会いに行けるようになるまで、相当の時間が掛かった。
だって、こっちは既に艦隊で実績を上げていたし、彼女たちが後で出現した時はパニックになっていたからな、俺たち。
とはいえ、故郷のコロニーに近付くと確実に出てくる『かいだん』、表面には二十三個もの入力マスが明滅する。
『何なんだよ、コレはぁ?』
という絶叫が響き渡る。クイズマニアのミントが何度もチャレンジしてはいるが、今のところ攻略は出来ていない。
『何なんだよ、あれ。二十三個ものマスなんてパスワードにするなよ? 性質の悪い落語みたいだ!』
ほら、またインカム越しにミントの声が聞こえる。ラクゴ……、………ラクゴって何だ?
『ミント、ラクゴって何なんだ?』
『え…、あー…、ってソルトか?』
『ああ、気になったんだよ。』
『前に帰省した時にチヅル母さんの膨大なライブラリが見つかっただろ?』
『あの二百四十五枚に亘るヤツか?』
『そう、それ。それの中の二百四十四枚目のライブラリの参照文献の一覧になぜか、古典落語という、一文があって気にしていたんだ。そしたら、二百四十五枚目のサブフォルダに古典落語全集というのが隠されていたんだ。バカバカしい会話の中に輝くオチ。落としどころの上手いものが多かったんだ。で、特にその中の『寿限無』『ポピッ!』ってヤツが面白くって………え?反応したぁ? マジかぁ!』
さんざん試したようで、ミントが疲れて帰ってきました。
「ダメだー。」
二話書き出して、早くも十日あまり。こんなん出来ました!




