162,ダンジョンで、……攻略は、二十五階へ⑧
他国の王を侮るだけでは無く、連れている従魔を置いていくようにと強制したその事実は重く受け止めなければならないものであった。
仮にも、竜騎士を目指す者として有ってはならないこと。
「確かに、俺たちのしたことはそれなりの重さがあります。でも、俺たちにも夢があったんです。竜騎士として一時代を築きたいとするという夢が。でも、今は何故か騎竜として育成する竜たちが少なくなってしまっていて歯がゆい思いをしていたんです。そんな鬱憤が溜まっていた時にちょうど通りかかった少年。何頭ものチビ……、幼生体の竜たちを連れているのを見て矢も盾もたまらずってなってしまったんです……。」
それは、彼らの弁明ではあるものの、その論理自体には、入った筋など皆無の歪なモノ。
あの時、俺たちに対して放たれた言葉がこれを軸にしていたのかは、真実分からないことだ。ただ、俺が見た彼らのステータスには重要なファクターが欠けていた。
「君たちの持つ悩みは分からないでもないが、ただその行為は仮にも竜の守護者たるものに対しての態度では無かったことは明確なところだな…。」
そう、マーサヒが告げると、俺に強請を掛けてきた彼らの顔と他に二人……、テツロォと王であるイヨッシィ・ミャウ・サトゥーの顔が固まった。
「しゅ、しゅごしゃ……?」
「おや、王もご存知では無かったですか? 彼は守護者として、竜の幼生体を率いる行動が有名ですし、竜たちからも従魔契約を望まれてしまうほどには凄く有名ですよ。」
「りゅうのしゅごしゃ……、う、嘘だろ……。」
すでに、彼らの頭でも理解に及んでいなかったようだが……。
「最近の観光資料の中にあったアレ……、「パレットリア新国のバラマキ福焼きドラゴン珍走」という月末の行事。たしか観光による人員の派遣を薦めるにはということで、この間軍議の間で詳細を説明しましたよね。その珍妙な行事を行っているのが、彼の国です。」
「「「「何ですと?」」」」
その言葉は、古き常識に囚われていたシュリンダイ帝国の長命種族たる代名詞を関するエルフたちの常識限界を軽く突破していた。
彼らとて、この星に根ざす者たちである事だけはオレたちと何ら変わりないからだ。
さてさて、俺たちに強請を行った結果として、彼らの処遇は非常に厳しいものになったと伝える他は無い。
それは、一奴隷として奉仕する道へと進むのみであった。
パレットリア新国にある魔獣お世話係の一員として、初歩の初歩から始めている。
だが、それこそが…彼らに残されたチャンス。
いずれ彼らは知るであろう…竜騎士へのただ一つの道だったのだと。
などと、なんやかんや有った事後処理を終わらせて、ダンジョンへの階段を下ったのだが……。
今までのような五段から十段ほどの短いものでは無く、延々と仄かな明かりの付いた階段を下ってまいりました。
……もう、上階へと戻るのが嫌になるほどです。
振り返ってみても入ってくる時にあった上階の明かり自体が見えませんでした。
真っ直ぐ降りてきているというのに……。
「なあ、だいぶ降りてきたよな、俺たち。」
仲間たちの不安な言葉が溢れ出したその時、俺たちが降りていく下の階の扉が淡く暖かみのある橙系の色の光を灯しました。
「お、出口か?」
隣を歩くルゥと俺の肩に止まっているギンが、風を捉えたようで俺に頷きを返してきます。
ようやく出口のようで、やれやれ一安心。
一安心などと、浮かれていた少し前の自分を殴り倒してしまいそうな光景が、その扉の開いた先に展開されていました。
「わ…ぁっ、なんだここ?」とか、「凄い広い……。」とか、口々に話し出す仲間たちに気付かず、俺はオレたちとともにその異常な光景に固まっておりました。
「おい……、ここって……。」とは、アーシィ。
「ま、まさか……。」とは、ルゥとチャァーのつぶやき。
見渡して分かったことは、はるか遠くにある大地の果ては収束し一点に集約されていた。
そのことで判明したことは、ここは途轍もない大きさの円筒形の中だという事だけだった。
そして、意鑑獅子の途轍もない存在感の反応は右仰角六十度に有り、見上げるほどの高みに居るようであった。
「山か崖かは分からないが高さがあるという事だけは分かったな。」
魔王シャイナーのその言葉にオレたちは硬い表情で頷きつつも、ただその方向を静かに見上げていた。
「……そうだね。また、とんでもないところに繋げたな。」
溜息まじりに俺は、そう呟いた。
古城がここにも有るようで、俺の鑑定のステータス画面が小さく起動していた。
この学園ダンジョンの地下二十五階であるはずのココに、近寄ってくる何かを捕捉えたようだった。




