160, ダンジョンで、……攻略は、二十五階へ ⑥
「では、アーサ殿。約束の地へ行くとしようか?」
アーサに声を掛けて二十五階への階段を降りることにした仲間たち。
目指すは、シュリンダイ帝国領。
『あるじ様、あの者たちにはお気を付けを。先ほどより、こちらを伺っている様子。』
地面の中で、発したコーネツの念話が想転移に反応した。
地面を伝わってくる彼らの話すことに何か不穏なことを感じた様子だった。
『ああ、気を付けよう。』
そうは言ったものの、その言葉を聞いた時には血が逆流するかと思いました。
「ここから先は通行止めだよ、チビ助!」
「そこに連れているドラゴンの幼生体は、俺たちで没収する。即座に引き渡せよ!」
目が点でした。
なんと、俺のことをチビ助呼ばわりしてくるとは……。
邪魔にならないようにチビ龍に変化しているドラゴンたちを見るや否やの言葉にも、開いた口が塞がりませんでした。
「はぁ? ……あれ、従魔ですよ?」
「はぁ、じゃねーよ。とっとと、出すもん出して行けよ。従魔ぁ? いいから置いて行けや、俺たちで可愛がってやるからよ。」
騎士団の騎士たちが屯って居るからどうしたのかと思いきや、ダンジョンへ行く階段への通行封鎖。
そこで大人な風体の人化したルゥが俺の代わりに、どういう状況なのかを問い掛けます。
「これが通過許可証ですが。通っても構いませんよね。」
マーサヒの署名入りの許可証です。いつ貰ったかですか……、前回、餃子パーティーをした時ですね。国内の通過を許可すると。
「……ふん、うちの副騎士団長の名が入っているが、あの人は障壁の向こうから帰ってきていない。……おまえら、偽造したな?」
「なっ……!」
あまりな言葉にルゥが絶句しました。
そりゃ、そうでしょう。あまりにとんでもない発言に、言い返せる人など居ませんて。
ただ、その絶句した様子を満足げに眺めて、独断的な結論を導き出したようですよ。
「よし、偽造したようだな。おまえらを捕らえる。呼び子を鳴らせ!」
マーサヒ君、末端への指示伝達及び報告・連絡・相談の三原則が全然、行き渡っていないようですよ。マジで、どういうことなの?
ちなみに風貝へは、大絶賛で録音中です。
仮にも一国の王をチビ助呼ばわりしたうえに、公文書偽造だとか、従魔の没収だとかの、やりたい放題ですから、確実な証拠だけは残しておきませんと。
しかし、これでは残してきたゴーレムハウスの例の場所に何人のお馬鹿さんが入っているのかしら?
不安になってきたな。
二十五階への階段は、大陸の壁を抜けた先にあるマーサヒの騎士団が護る障壁のある庫炉里を擁するシュリンダイという帝国にある。
グリンダイ大陸へと総転移した俺たちに、マーサヒの手の者たちが立ち塞がった。
聞けば、マーサヒの命令だという。
押し問答をしていてもしょうがないので、想転移でマーサヒを呼び出しました。最近便利すぎる感じのする想転移ではある。
『マーサヒ君? ちょっとダンジョンへの道まで来て貰えるかな。君の命令でダンジョンへの道が塞がれているんだ。大至急、現場に来てくれないか? 君の国への表敬訪問をする上でも必要性の高いことだし、一応の土産もある事だしね……。』
俺からの想転移に、マーサヒのビクッとした反応が返ってきた。
『……セトラか、置いていったゴーレムハウス内に何人もの人が閉じ込められているようなのだが、何か知らないか?』
疲れ果てた声のマーサヒに、『やっぱりか』と、嘆息した。
『何か知っているのか?』
『ああ、食糧を平等に分けるために、ゴーレム交番の付いた入り口から行列で並ぶようになっていたはずだ。ゴーレム鉄板で饗される食物に関心の有るうちは、途中にある金塊に見えるモノには手を出さないと思っていたんだけど、どっかで気付いた人が居たみたいだね。ゴーレムハウスの動力源だよって札が付いていたはずなんだけど。』
『金塊に見えるモノ? ゴーレムハウスの動力源? いったい何だったんだい、それは?』
『岩サソリの幼生体の排泄物さ。ある程度の大きさまで岩サソリは、金属の塊をエサにするんだ。いつも背中に、その金属の塊を乗せているんだよ。で、彼らのフンがゴーレムの動力源へと吸い込まれていくんだ。で、そのフンの見た目が金塊にそっくりなんだよ。』
『岩サソリのフンだってぇ……。』
マーサヒ君、絶句しておりました。
『俺がそっちに行って、ゴーレムハウスを帰還させれば中に居る人たちは解放されるよ。』
そう、俺が言うと、喰い気味に答えが返ってくる。
『は、早く来てくれ!』
『う~ん、そうしたいのは山々なんだけど。ダンジョンの階段に進む道が塞がっていて通れないんだよ。まずは、君が来てくれないか?』
そう告げた俺にマーサヒの答えが返ってくる。
『ええっ、そこは俺の命令で確保してあるぞ。騎士団の連中が居ただろう?』
そうなんだよねぇ。
『うん、居るよ! 許可証も見せたよ。』
素直に伝える。
『だったら……。』
『いやあ、「チビ助は、通さない。そのチビドラゴンを置いていけ」「偽造したな」とか言われてしまってね。今ちょっと、揉めているんだよ。このままだと、ギンたちどころか、他の連中も遠吠えとかしそうなんで、俺とみんなで抑えているところさ。』
現状をそのまま伝える。
『…………はい?』
『だからさ、『一人言を言ってないで、さっさと、寄越さないか! チビ助!』………。聞こえたかい? まぁ、そういう訳なんで、来てくれると嬉しいかな……。』
『…………。』
音声が途切れたあと、どこかでプチッとかという音が聞こえたような気がしました。
『竜騎士全軍、非常事態だ! 騎竜が騒ぐ前に事態を収める! 全騎、我に続けぇ!』
マーサヒの声。そんなに焦らなくても……。
『王子マァス、これは一体何事か?』
王子の親、つまりは王の問い掛け。
『ダンジョンの入り口を護りし者に、あのセトラ王を蔑み、且つ、強請を掛けている者がおります。ここで、対応を間違えると、我が国の竜を始めとする神獣が消えてしまいます。』
マーサヒの放った言葉に、王の顔から血の気が引いたような気がする。
『し、神獣が消える……だと。竜カゴを着けよ! 私も行く! 一大事じゃ!』
漏れ聞こえるだけで、このあとの面倒が増えていく気がするなぁ………。
「「「何をしているか!」」」
竜騎士最速の第一陣が到着です。
テツロォ、イオリとマーサヒ、オットーのの竜と騎士コンビ。
そして、オットーに着けられた竜カゴにこの国の帝王、イヨッシィ・ミャウ・サトゥーが乗っていた。
その重なった声に、その場にいた全員がそちらを見上げた。
ダンジョン前の騎士たちは硬直し、動けないでいる。
それとは別の理由で俺たちも動きを止めていた。
「おい、あれ……。」
そこに居た、仲間たちが一斉に頭を抱えました。南無ぅ。




