いろいろな到着!
「ふふふ、ミレリーをこの船に乗せられるとは思わなかった、セトラとは色々あったがある意味感謝しなければなるまい。」
お気に入りの船の操舵を淡々とこなしながらも、サッツシの顔には笑みが浮かんでいた。
自分の操船技術で、安定した姿勢を保ちながらもその速度はウナギ登りに上昇中である。
船の隣の海上には、今までには幾度となく繰り返してきた最速の名を持つ海竜が競走相手としてその能力を全開にしていた。
ご先祖様たちの船に対する思いは熱く、故郷に建つ古城の備品をこの船に移植しようと考えた者が居たことによって、今代のガーディアルドであるサッツシがその船の能力を十全に引き出したこと、それがカソルに認められる原因になったことにサッツシは気が付いていた。
だから、レディアン皇国の王になれたのだということにも。
ティーニアの港に向けて疾駆する船の上でミレリーが思った感想は、ある意味ミーハーなものだった。
サッツシが……じゃなかったわね、この船に乗っている時にはガーディアルドって言っていたっけ……。
じいやに幼い頃の寝物語の本としてよくせがんだ、いや読んで貰っていた話の中で特にお気に入りだった『龍の船のガー』という絵本で、その主人公の名がガーディアルド様。
絵本で活躍していたガーは、サッツシのご先祖様だったようだけれどミレリーにとってはそんな些細なことは関係なかった。
だって、絵本の中の人が操船するよりもスムーズで、すごい速いんだもの。
おまけに海竜と競っているし……。というか、この船の方が速いみたい。
あの虫の侵略の時に見せた魔法の収束率の凄さを、今も船を動かす時に発揮しているのだけど本当に凄いよ。前世の時ならお風呂のジェット水流みたいな感じ……?
もっとも爆発的なパワーを制御するのは簡単なことじゃないと思うんだけどな。
「ミレリー、俺の横にあるシートに座ってくれ。次の波で滑空に入るぞ!」
サッツシの言葉に、慌てて座って安全索を巻き付ける。
「ゾルド、両弦に凧を張れ! 次の大波で飛ぶぞ!」
そう指示を出すと、ゾルドたちが両弦にあった背丈の低い簡易マストを巻き上げ機を緩めることで、海側に倒し始めた。
やがて倒して固定されたマストの溝に導かれるようにして、船の舷側に蓋付きで畳まれていた帆が、巻き上げ機に通っているガイドロープが蓋を押し上げつつ、展帳し始めた。
直角三角形の形に、広げられ固定されたそれは、すでに翼と言ってよかった。
「あ……、これって。ジャパニメの『宙艦ダイワ』の大気圏用の翼ってヤツじゃない……マジ?…orz」
発想の原典を正確に把握したのは流石アニオタのミレリー。
「ああっ! 本当だ?」
ミレリーに言われて、今更ながらにその事実に気付いたサッツシは腰砕けになりながらもそれでも懸命に操船していました………南無南無。
「タツ雄、よく見ていろよ!」
そういったサッツシは艦首を持ち上げつつ船尾を残す形で、盛り上がりだした波の背へと滑走するように姿勢制御する。
いつもと違う操船は同じ船の仲間たちに緊張を強いるのだが、彼らはうまく自分たちの動きを合わせて船の挙動を安定させていた。
やがて事前に告げた言葉のように、小さな波と大きな波の合間に小さくジャンプしては滑空を始めだしていた。あとはタイミングだけ。
タツ雄はその動きを見て自身の小さな翼に風を呼び始める。
『あるじ様の船には自由に羽ばたける翼は無い。なのに、あの飛び方………凄い!風をうまく掴んでいる……ああ、これが風が『視える』という事なんだ……。』
タツ雄の角にくっつけたのは、従魔の中でも最速との呼び声の高い朱雀雲丹のクァットロ。その窓転移で、サッツシたちの様子を確認していた俺は、タイミングを計り直ぐに風を飛ばした。
飛び上がったサッツシの船が少しでも安定するように、そして飛んだサッツシを追い掛けて空中へと追従するはずのタツ雄のために……。
「風よ! 我が願いのまま、疾く行け!」
背中に背負ったルゥがいきなり俺が叫んだことにビックリしていたのだが、自身の強化した目で確認したのか、「さすが、あるじ様。」とか呟いていた。
しかし、俺たちの周りに飛ぶ連中の羽ばたきやら、ジェット機のような音やらの中で正確に、俺の言葉を聞き分けているとか。やるな……ルゥ。
周りに飛んでいる者たちも風の恩恵は受けている訳で、それを邪魔する訳にも行かないので、タツ雄たちの後ろに横から集って前へと圧力を流すようにイメージして『風』に頼んだ。
サッツシとタツ雄が頑張っている最中、衝撃波を撒き散らしながら俺たちは付いていき、そして目的地に着いた。
アーサ・リドロ・ヴォーの待つティーニアの港へと。
色々と抱えて……到着したのである。
「……増えた。………増えてしまった。……マジですか…orz」
到着して直ぐに俺は、そう呟いて頭を抱えていた。




