位置について、用意、ドン!
コロッセオのような島に船を横付けにしたサッツシたちが中に入ると何か絶句している。不思議に思って続いて中に入ってみると、コロッセオのど真ん中に生け簀っぽいのがあってそこから、海の魔物たちが顔を出していた。
しばらくフリーズしていたのだが、ディノからの念話で理解した。
『今回は彼らも参加するそうです。』
と、いうことだった。
そういうことなのであれば、アレをやるしかない。すでに気付いて体勢を整えている奴らも多い。期待を込めて俺を見てくる連中の目の前に竜頭を積んでいく。
「うーりゃあ! 取って来ーぉい!」
ジローも真っ青になるほどの勢いで広角打法を披露した。
続けて、ガリントや福焼きの乱打(一分間に百個くらいをバラ撒いた。)し、海の魔物たちにも新型の福焼きを提供しておいた。
浮き袋代わりに福焼きにカウエルの卵から取れたジェリーで全面を覆っている。
プルプルとサクサク感の後に出てくるハチミツは海の魔物共々従魔たちを虜にしていた。
ヒト族には、サッツシ麾下の船員からの献上品として、得られた海産物の燻製を貰い、代わりにそれを調理することで彼らも含めて、やんごとなき方たちが転移してくる中で食事として提供していく。
それにしても……、やんごとなき方々は、何故こんなにも集まりたがるのであろうか?
「シノブ母様……、なんでこんなに集まりたがるのです……?」
ジト目で問い掛けると、驚くべき答えが返ってきた。
「セトラ……、今あなたが中心になっていることはどのくらいあるのか知っていますか?新しい国を打ち立て、砂漠のど真ん中というのにその歩みは止まらない。そんな国がどのくらいあるか? あなたの所だけですよ、そんな無茶な国は。 だからこそ、その脅威はこの大陸中に広がってしまうのです。かつてのタクラム・ガン国のように……。知らないから……、分からないから……、それだけ脅威を募らせてしまう。あなたの周りには強いものもいますが、弱いものも多くいます。美味しいものを食べる機会を造って、あなたを、そして、あなたの国を分かって貰うだけでもいいのです。それが未来へと続く道なのですから……。」
その答えに秘められたシノブ母様の心の声が聞こえてくるようだ。
かつて母さまは、知らずに父さまの国を………、滅ぼすことになったのだから。
「ありがとうございます、シノブ母様…。」
だが、俺のその言葉を蹴飛ばすかのようにシノブ母様の話は、続けられた。
「速く食べないと、出し物が始まらないでしょう?」
「はあ? ……出し物ってなんですか?」
「海竜とガーディアルド様の船の競争なんて、みんな久し振りだもの。楽しみにしているの。魔王様のお城からも撮影隊が来ているのよ。スクーリン用の水晶片に入れてくれるのよ。大画面で再生すると凄いのよぉ。」
ガーディアルド様ってなんなんです? 撮影隊に再生ですか……。魔国ってどんなインフラ持っているんだろう、疑問だ……?
シノブ母様の話で、気力がガリガリと削られたが、その一方で海竜のタツ雄とサッツシはすでにスタート地点にいて、俺の号令を待っている。
「お腹は満タン、気力も満タン、こんな航海日和は年に何回もないし、さぁ行くぞ、タツ雄! 野郎どもも良いな!」
ガーディアルド様ことサッツシくんの啖呵が、バシッと決まる。
創ナンディアーク大陸の統一国ティーニアに向けて、海竜の飛翔訓練が開始する。
数百キルはあるが、速度に乗った彼らならそんなに時間は掛からないで到着するかも知れない。
「On Your Mark…、 Ready… 、GO!」
俺が振り下ろした右手とともに、どちらもダッシュを掛ける。
盛大な水煙を上げて飛び出した双方は、すでに前しか見ていない。
「シュッキン、助かった。」
俺の左手は船と竜に向けられていて、海面すれすれの風を制御していた。
だから、もうちょっとで、ずぶ濡れになるところだった。
シュッキンの張った障壁で護られたのである。




