それぞれの……想い
『ガオガゥ、ギャオギャウガオガウ……ガゥガウ、ガオガゥギャオゥガ、ギャゴウガウゥガオガォガゥウガ。手伝うてはくれまいか……?』
風竜の長ギンの言葉と念話が届く。
最近、俺と行動しているせいか、考え方が似てきたな。
いや、金魚であった時から変わったヤツだったギンも、その飼い主であった俺も変わり者という点では一緒なのかも知れない。
『そうだな…。本来であれば、あっちの島に着いている時点で飛んでいたはずだからな。あるじが変わってアイツ本来の小っちゃな翼になったから、本人は気楽には挑戦できないとか思っているんだろうな。』
俺があるじになったことで得たスキルの翼の大型化を一番喜んでいたのは、他ならぬ海竜のタツ雄だったのだから。
だが、因縁の相手を見つけた時にはそんな事など、頭の片隅にでも存在していなかったのだろう。
サッツシとの従魔契約したあとにタツ雄のヒゲが萎れていたのを見てしまったのだ。
だが、風竜の長殿の見解は少々異なっていた。
『あやつよりも小さい翼で飛ぶものは数多く居ます……。我があるじ様とて、そうでありましょう?』
ギンの言う事は分かる。
あの姿で応援してやれというのだろう。
だが、今はあの姿になるにはリスクが多すぎる。
なんと言っても、狙うは嫁たちであり、狙われるのは俺なのだから。
「なぁ、タツ雄。お前には小さくとも羽があるじゃないか……。俺の船にはそんな便利なもの、付いていないぞ? お前と競った時の、あの速度を利用して飛び上がっているだけだ。だったら、逆も然りだろう? 俺と競ったお前の速度で勢いつけて飛び立てばいいじゃないかよ? すぐに落ちるかも知れないがそこは海面だし、お前の領域だろう? 固い地面でそんな事やっていたら、すぐに傷だらけだろう? お前の綺麗な藍色の鱗が傷つくじゃないかよ? 俺は、それがイヤなんだよ!」
『ギャオウ……。』
タツ雄が目を見張って感動していました。
「おお、いい事言うなぁサッツシ…。」
と、俺が感動したのもつかの間。
「だって、生え替わりの時に売れなくなっちゃうだろう?」
「は……?」
『ギャウ?』
感動を返して欲しいと思ったことだけは確実である。
でも、そうなのだ。
海竜の特徴として、従魔として登録した時にステータス鑑定をして分かったことなのだが(おそらくサッツシもそれで気付いたようである。)、地中、地上、空中に棲み分ける竜たちの鱗は、基本的に脱皮が主流である。
鱗と鱗の間が広くなって、鱗の間の皮が剥がれ、鱗の下の躰が膨張すると同時に脱皮は完了する。
だが、海竜は海中での生態に適してしまったのであろう。
彼らの鱗は柔らかく硬いという構造を持っている。
外皮に近い部分の硬さは地竜などよりも硬く、内側に近い部分は水圧の圧力によって動けなくなるという事の無いようにしなやかに本体を護っているのだ。
内側に近い部分が傷つくとある一定の深度まで浮かび上がり、自らの意思で傷ついた部分を剥落させるのである。
もちろん剥落したものはその重さによって海中……いや海溝深くへと、誘われる。定められた場所まで残留した魔力で沈降していくのである。
『さ、流石にあるじセトラの友人だけのことはある………orz』
う、うるさい。ギンの漏らした感想に俺としても何も言えなかった………orz
だって、俺もそう考えていたからな。
『ギュオンギュウィ………orz』
サッツシの船の横にふて腐れた海竜が、海面に漂っていました。
タツ雄を漸く宥めたサッツシが、少し真顔になって俺たちに船員たちの拘束の解除を申し込んできた。
「コイツらに、非がある事は重々承知している。だが、タツ雄と競るくらいの速さを出すには、必要なんだ。コイツらにももう分かっているはずさ。今のおまえらには敵うはずがないって事くらいはな。」
俺は周りの連中にアイコンタクトをして確認してから答えた。
「分かった。今はサッツシに下駄を預けよう。だが、お前もタツ雄もそいつらもこれからハードな仕事をしなきゃならんと言うのに、空きっ腹で始める気か?」
わずかに半日前にドンパチやっていたとはいえ、その間どちらの陣営も食事を取る余裕なんて無かった。
そろそろ俺たちの腹の虫たちの大合唱が始まりそうな時間に突入していた。
それに俺の呼び掛けに集まってくれたものたちへの褒美にも関係していたからな。
「ディノ、壮行会の会場を作ってくれ。」
そう言って、港を少し出たところの海上にコロッセオのような壁付きの円形の島が出来上がっていた。相変わらず、仕事が速いな。
「では、ひとまず休戦にして、宴会だ!」
「「「「「「「おおっ!」」」」」」」




