海のあるじ、陸に立つ! ~⑨~
「あ~、サッツシ? ……ガーディアルド様って、なんだ?」
海に意気揚々と進み出る船を逆風で強制的に制止させて手鏡通信で問い掛ける。
まるで船員たちからの言葉から逃げるような形での出港だったものだから、気になっていたのだ。
「………知らない。」
その言葉に目を剥いたのは別の船に満載されている者たち。
「……えっ、ガーディアルド様でございましょう? 貴方様の御祖父様より子守として任ぜられたゾルドでございます!」
船員たちの中で指揮を執っていた者がひとり声高に叫んでいた。
「俺は……、サッツシだ。ガーディアルドなる名を持つ者ではない。」
その頑なな彼の言葉に俺は肩を竦めた。
前世でも、意地っ張りなところを隠し持っていたヤツだったからだ。
「分かった、サッツシ。ところで一番先に飛び出したけど、行く場所は知っているのか? ……その、ガー何とかでないサッツシが。」
俺のその言葉に、サッツシがしまったという顔をしたのを俺は見逃さなかった。
「あ……、いや、その……。この船にルートが記憶されていたから、大丈夫だ。」
今頃それに気付いたサッツシは気まずい顔をしている。
「フーム、『ルートの記憶』……ねえ。それにしても、随分と扱い慣れているよな。まるで自分の持ち船でもあるかのように。……ねえ、ガー何とかでないサッツシ? ルゥ? パスワードの変更は効く?」
俺はトドメを刺した。
「あるじの命により、パスワードの詳細を確認しました。……変更を実行することは可能です。」
「じゃあ、操舵系に……。この辺で周回っていて貰うか?」
「ま、待て待て待て待て! ………はぁ、しょうがない。……俺は、ここから北西方向にある…ガルデア大陸を実効支配しているゴルディン宗主国の出身だ。ガーディアルドという名はオヤジから受け継いだこの船を動かすためのものだよ。この船に乗っていない時には、必要の無いものだよ。」
ようやく認めたと思ったら、そんな理由とは……思わなかった…orz。
「でもまあ……、ガー何とかなんだよな、今は。」
ミレリーのためにも確認しておく。
「ああ……、この船に乗っているし……、まぁそうなるな。」
サッツシが観念した様子で、頷く。
「じゃあ、ミレリーはファーストレディ待遇になるな。良かったな、ミレリー。」
「えっ、……うんそうだね。嬉しいな、サッツシ。」
俺の放った言葉に瞬間、身を堅くしたもののサッツシにいい雰囲気でもたれかかったミレリーを突き放すようなことはしなかった。
サッツシが船に乗って飛び出した時に、海中から驚きの念が感じられた。
『あるじ様、お願いが……。』
と、そう想転移ってきたのは海竜のタツ雄。
『あの乗り手を我があるじに所望する。』と、言われた時に溢れていた海竜のタツ雄の思い出に触れてしまった。
遙かな昔から幾度となく繰り返された競走と、空への渇望の意味、その後の空白の日々、などなど俺たちにも関係のある事が流れて来て少々困った。
困るだろう?
タツ雄は、まだ空を飛んでいない。どうやって飛ばすよ………orz
しょうがない。
「サッツシ、話がある………。お前に預けたい魔物がいる。」
サッツシに向かって話しかけた時に、サッツシに言われた言葉に俺も驚いた。
「あの海竜は俺のひいじいさんたちが、相手していたヤツだ。俺もここに来る前に良く一緒に海で走らせていたんだ。だから、アイツを俺に譲ってくれ。」
という言葉に唖然とした。
何だよ、おまえら………orz
相思相愛じゃないかよ………。
「お前が、空を飛ぶから自分も飛びたくなったってよ。先に飛んだ者からの言葉なら聞くのかも知れねーな。……しゃーねぇ、飛ばせてやれよ、サッツシ。」
「え? 魔物ってアイツのことだったのか? マジで? なあ、セトラ。マジで!」
「………マジ。アイツって……、タツ雄だからな。ほら、呼んでやれよ。」
「タツ雄、俺の従魔になってくれ!」
周回している船の操舵を「船」に任せて海に向かって、求婚していた。
しかし、あの船って……『カソルの先端部が船底に着いている。』って、リュウ? なるほど、だから賢いのかあの船、納得した。
サッツシよ、隣でミレリーがふくれっ面をしているが大丈夫なのか?
あの様子だと、ミレリーにはまだ言っていないんじゃ………。
あとで起きるはずの修羅場を想像して俺は怖気を振るっていた………南無南無。




