因縁の相手
この話が出来上がったので、お送りします。
ドラ吉とドラ子とともに、東の島に着いた途端、我のあるじ様が西の島に向かうという……、我の楽しみにしていた飛行訓練が済まないうちでの決断に少々唖然としてしまったのを覚えている。
だが本来、我は西の海を拠点にしている。ここで残される訳にはいかない。
なぜなら、あの海には、我の因縁の相手が居るからだ。
いつの頃からだったかは我も覚えては居ないが、物心ついた時にはすでにあの海には因縁の船と競争していました。
速いから追い掛けていたのか、追い掛けていたから速くなったのかは我にも分からない……。何故あんなに速いんだ、あの船……。
他の船を置き去りにして、我でさえ手こずるような潮の流れもあっさりと越えていくような船はそうそう居ないというよりもたったの一つだけ。
……そう、此奴だけなのだ。
我は海竜の仲間たちからも呆られるほどに、海中での最高速度を追い求めていた。
ゆえに、空を飛ぶことを憶えもしなかったし、飛ぶ気も無かった。
因縁の相手が居たからだ。
我の力の全てとも言える最高速度を、その相手と比べるのが楽しかったのだ。
だが、数年前に代替わりした因縁の相手を操るヤツは、桁が違っていた。
その乗り手は、その高い移動速度を保って故意と高波に突っ込んで行っては………、空に浮かび滑空するのだ。
『……? な、何だと。船が………………………飛んだ!』
その時にはすでに因縁の相手が船と呼ばれる存在であり、小さな種族が寄って集って操っているという事には気付いていた。
我の聴覚を強化すれば簡単に、聞こえるほどの会話をしていたからな。
それを見た時の驚きたるや、いかほどのものであったか分かるまい。
その乗り手の前まで、そんな事に挑戦するヤツらは居なかったのだから。
『それからだ、我が空を渇望するようになったのは……。』
あの因縁の相手が空を飛ぶというのなら、我もまた飛ぶ。
どんな手段でも……。
だが、我が空を飛ぶ手立てを求めているうちに、因縁の相手は我の庭に出てこなくなった。小さな種族たちの話す言葉によれば、砂漠の海へと修行に行ったというのだ。
だが、あれほどの使い手はそうそう居ないため、我は忸怩たる思いを噛みしめていた。
たまに出会うその『船』も、肝心要のヤツでは無かった。
我も、気が抜けていたのだろう。大ケガを負う出来事があった。
いつものように波間にたゆたいながら、ボケーと海中を泳いでいた時のこと。
超深海から急浮上する寝ぼけたままのゲンブ殿に撥ねられたのである。
我の数倍の大きさのある大亀殿とぶつかった衝撃の威力はハンパない上に魔力溜まりにも相当な距離を飛行しなければならず、自然治癒しか期待できない事になってしまった。
仕方なく、ここより東にある砂漠を抱えた島の南東方向にある弓のようにそれなりの大きさの島が連なった所へと移動した。
あの島に居る小さい種族たちは、我に供え物をくれるのだ。
小さい種族たちは、我の好物であるハチミツや肉、穀物などを我の居る場所まで小さな乗り物に乗せては沈めてくれるのだ。
我は、傷が癒えるまで、その海にて微睡んでいた。
我らの長の『声』が聞こえるまでの短くも長い時の中で……。
そして、我は再び出会った。
あの船と、その乗り手に……。
今度は絶対に離れないと決心して、そして、当時のあるじ殿に我は願ったのである。
『あの乗り手を我があるじに所望する。』と。
因縁の、そして、最高の相手。
もう絶対に逃がさない。




