海のあるじ、陸に立つ!~⑥~
風邪が治ったと思ったら、食あたりというダブルパンチ。今度は筆が進まない。
ようやく、出来ました。
「あなた方の国の神殿に引きこもっている神が、こちらまで来られるというので? 露払いには、どんな神獣が来るのでしょうか? 非常に会ってみたいものです。……いいですねぇ、連れて来て貰えますかね?」
興味津々という体で、彼らに聞いてみると奇妙な返答が返ってきた。
「我らの大陸に遙かな過去から伝わる王家の歴史書があり、その中の初期の段階からその古竜の名が記されている。その銀の鱗を持ちしお方は、我らの願いに縛られる事無くこの世界を飛翔しておられる。ただ、年に一度の竜神殿祭という祭典にそのお姿を見せて頂けるのだ。ヒト族の贄を含む供物を捧げて我らの安寧を祈願している存在でもある。」
年に一度ですか? ……もしかして、その供物の中にハチミツが入っているのでは?
ヒト族の祭りには大地へ感謝を捧げ、更なる豊穣を願うものが大半である。
であるならば、ハチミツはヒト族にとっても、得がたいものである事は確かな事であり、採取するのも難しい贅沢品のはず。高貴な立場とその力ある姿を誇示する上でも重要な式典となっていたのではないだろうか。
たまたま、ギンが通りかかっただけでは無さそうな?
『ギン、聞こえるか?』
想転移ってみました。こういうのは本人に聞くのが一番手っ取り早いですから。
『ギン、ここから北西方向にある大陸というか、大きな島というか、行った事あるのか?』
『ああ、ありますよ。あるじ殿に言われるまで忘れていましたが、ここ二、三年は行っていませんね。確か一〇〇〇年くらい前に飛んでいた時に見つけて、それからちょくちょく行っていましたが、それが何か?』
あるのか……………orz
『年に一度とか言っているが、何か理由があったのか?』
そう聞いた俺に返ってきた言葉は、予想通りのものでした。
『ああ、あるじ様もご存知のアレ。私の好きなハチミツが山盛りあったからです。』
『それと一緒に置いてあったモノはどうしたんだ? お前がいなくなった後には、何も残っていなかったって言っているぞ。』
『ハチミツと一緒のもの? ああ、だからハチミツの樽などを抱えていたのか……。』
ギンの話すところによると、確かに魔力の多そうなヒト族がハチミツの樽に繋がれていたりしたというのである。いくら魔力が多いと言ってもギンたちに比べれば高の知れているもの。おまけにヒト族に対して何故か苦手意識があったようで、抱えて移動したものの巣に持っていく事も出来ずに、レディアーク大陸の南東方向にある弓のようにそれなりの大きさの島が連なった所に、その時々の気分で置いてきたという。
『それに、最近行かないのは、あるじ様のおやつのせいです。ハチミツだって普通に高品質だし、食事はもちろんのこと、食後のおやつは美味しい上に今まで食べた事の無いものがちょくちょく出てくる。わざわざ、あの島まで行く意味ないですよ。』
ギンの回答を受けて少し脱力しながらも、目の前の馬鹿者たちに言うことだけは言っておかないとならない。
「……竜ですか? ………魔物ですよねorz」
ツッコみたくなったので、スパッと! ツッコみました。
「単なる魔物ではない。あの独特の気高さと聡明さが同居している。そして、我らが神殿の守り神として古来より信仰の対象となっている。」
あのぅ……隊長さんでいいのかな。言っている事、食い違ってません?
「えーと、ハッキリさせましょうか……。そちらの神獣は竜で、銀竜さんで宜しいですか?ちなみに属性は何なんですか?」
と、ここでギンに想転移しておく。
『ギン、羽を昔のに戻して飛んできてくれ。こいつらに引導を渡してしまうとしよう。』
『なるほど、了解しました。』
「銀竜様は、風の属性を持たれている。」
「何か特徴とかありますかな? 全然別の竜が来ても分からないとかないんですか?」
「まずは白銀の鱗を持っている。そして、背中の羽の付け根にある鱗が赤くハートマークになっているのだ。それを見ることの出来た者は、その年一年の幸運を得ることになる。」
「えっ、そんなものが。それは是非に見てみたいものです。」
知らなかったよ。ギンに乗った時には、羽は天使の羽のようなものだったし、背中は騎乗しやすいように羽毛で埋まっていたからな。
「だが、我らの国であと四ヶ月後に行われる祭りでしか見られない上に、ここ二、三年ほどお見かけしていない。冒険者による狩りでの死亡説が有力になっているくらいにはな。」
彼らの中でもその祭りの時のことを思い出したのか、気持ちが高ぶっている者も見受けられた。
「「「「おうっ! おうっ!」」」」
拳を高く突き上げる者たちも出た。
さあ、ギン出番だ!
「『ゲンブ、外装起動。ギン、来い。ルゥ、お前も来るか?』」
突如、俺が言い放った言葉に目の前で拘束されている面々の頭上に、?マークが浮かんだようだった。
「君はいったい、何を言っている?」
「なに、君たちにも教えておこうと思ってね。この大陸にいる神獣の一部を紹介しよう。」
その言葉も終わらぬうちに目の前の海に半分沈んでいる巨大な亀の甲羅が隆起、起きた波によって俺の目の前で拘束されている者たちの船が沖へと流されていった。
「ああっ、俺たちの船が………。」
そう言い終わらぬうちに船ごと海底が隆起し、係留された。
「ディノも来たか……、確かにこれはポイントになるな。」
そう呟いた瞬間、空にはギンが目立たないくらいの途轍もない数の竜たちが乱舞し、海からも海竜を筆頭に海獣や魚類たちまでもがそこかしこに顔を出した。
「こ、これは……一体……。」
彼らが竜の乱舞に気を取られた瞬間を狙って、ルゥが俺から分離し、跪く。雪狼や剣虎たちも眷属の能力を使って集まり来る。
ギンが降りてきた。
風の魔力を纏ったまま、ふわりと地上に着地した。
そして、驚くべき行動に出た。
目の前の彼らがギョッとする中、ギンの頭が俺に向けて下げられる。
『我があるじの命により、推参した。』
その言葉は頭に響いて聞こえ、辺りは地獄のような静けさに包まれた。
「あ、あれは………。」
なぜなら、ギンの背中に赤いハートマークが存在している事に気付いた彼らの一人が指を指していたからだった。
「「「「「「「あるじの命?」」」」」」」
振り返った彼らの顔には畏怖が見てとれた。
「風竜の長ギンのあるじ、エト・セトラ・エドッコォ・パレットリアである。この大陸中央部にある国の王をしている。そして、いまひとつ。この大陸の盟主でもある。」
そう名乗りを上げている中にあっても、竜たちや狼たち、海獣たちも続々集まってきた。
場所を取らないのはギンを除いて全てが小型化スキルを発動して、俺を囲んでいるからだ。
「そして、彼らのあるじだ。」
「まさか、これら全てのあるじ?」
「イヤイヤ……。」
そう言って手を顔の前でひらひらさせる。
「そうであろうな。」
まだ他にも仲間が居ると思ったのか、得心が行ったという顔をする彼らに。
「あと昆虫種、植物種、精霊種が来てない。」
その言葉に項垂れてしまった彼らが居ました………南無南無~。




