海のあるじ、陸に立つ!~④~
サッツシからの緊急連絡に後の事をひとまずアトリとコヨミに任せて転移をしようと思ったのだが、止めた。この際だから、この大陸のヒト族たちにも脅威というものを見せ付けておこうと考えたからだった。
今日以降で、確実に表敬訪問させるための最高のデモンストレーションになるはずの出来事だった。
「『ピー助、聞こえるか? 北東方向にある大陸の中央に雲を突き抜けている山がある。その山の裾野にいる。……来てくれるか?』」
『ダイジョーブゥ、あるじ様の居場所は……分かるよ。いま行くね。』
ピー助の返事を受けてゴーレムハウスの屋上に昇った俺は、アーサに注意しておく。
「アーサ、ちょっと野暮用が出来たみたいだから、一日ここを開けるからよろしく。君に一つだけ頼みがある。アクィオの従魔たちの世話を頼む。大事な事だから、二回言うけどアクィオの従魔たちを世話してやってくれ。アイツだけではたぶん手が回らないはずだ。それをクリアできればアーサにも何かのバックがあるかも知れない。よろしく頼む。」
そう伝えたものの、何がバックされるのかは俺にも確たるものは無い。ただ、そんな気がするだけだ。
さて、想転移でピー助に繋ぎを付けると、ゴーレムハウスの屋上に舞い降りてもらった。ゴーレムハウスは今回オットトドたちのハーレムを呼ぶ事を想定していたため、菜園を作っていない。
それに加えてディノによる壁の伸張を容易にする事で下から仰ぎ見ても、何が起きているのかは見えないようにした。
実は、それが一番重要な事だったのである。
そう、魔物誑しの弟子……、その芽を開花させるための条件の一つとされているが、それだけとも限らないからだ。
ただ、魔物に対しての感情の起伏、それらに対する愛情や喜びなどは、他人に言われて持つものでは意味が無い。魔物から、返されるものの大きさはハンパないものだった。
アクィオとオットトドたちの触れあいが、それを培うには本当にいいタイミングでもあった。
そんな事を画策しながら、俺はピー助に飛び乗った。
眼下では、数千人もの騎士たちが跪いて、頭を垂れ祈りを捧げていた。
ピー助にのちに確認したのだが、彼らの祈りは自分たちのものである事から、ほとんどピー助に影響を及ぼしてはいなかったらしい。
さて、ピー助に飛び乗って、定位置に俺が着くとピー助の離昇が始まる。
ピー助にとってはそんなに長い距離では無かったが、その巨体はティーニアの王都でまで確認できるほどには巨大だったのである。
「アレは、神獣?」
という声が国中で聞こえたとか……。
急速に高度を上げる事で、魔法士の拘束魔法からも逃れたピー助の飛翔は弾道飛行を可能にし、何分もしないで目的地上空へと到着した。
だが、そこからでも見える帆船の砲撃などの侵略行為は、捨て置けるものではなかった。
かつての地球で起こっていたような火薬のように誰でも攻撃の意思を見せつけられるほどのものでは無かったが、風の魔法士による同様の行為は、許せる範囲を超えていた。
重力に逆らって飛んだ石や鉄の塊が、飛んでいった先にある建造物や魔物たちを蹴散らしていた。
「ピー助、エア・ブレーキ展開準備。敵対船団に向かって急速落下するぞ。」
そして、俺とピー助は逆落としになって海上で猛威を振るっている船団に向けて、加速した。
衝撃波という刃を伴って……。
レディアン皇国において、俺の設置していた障壁によってなんとか砲撃から身を守っていたのだが、頭上から聞こえた落下音にゴーレムハウスの腕を防御の形へと変化させた。
ドグラスを参考にした形態の変化に、障壁を纏って落ちる俺の目が丸くなった。
腕に付けた盾の材質が変化していたからだ。
アダマンタイトをネット状に加工し、その編み目にスライム……のようなものがびっしりと詰め込まれているものが、翳されていたからであった。
とんでもない堅さと全てを反射させるような柔らかさを詰め込んだ盾であった。
そして、ピー助と俺は落ちた。
………レディアン製のその盾は、衝撃波の全てを受け止めていた。
受け止めた衝撃を外に逃がす事で、実現していた。
だが、その余波をモロに喰らったのは襲撃してきていた者たちであった。
手を出すならば、反撃がある事も考慮しておくものだな、……南無南無~。




