海のあるじ、陸に立つ! ~③~
「アルクトア様? アーサ様にも似ておられるがアルクトア様にそっくりのあの方はどなたなのだ?」
と、ざわめきが立ったのはアクィオが俺に向かって怒鳴った時だった。
騎獣に乗っていた騎士が騎獣たちが小型化のスキルを得て発動させたために鞍ごと落ちたのだが、その彼らが立ち上がって見た初めての光景がその時の光景。
そして、アルクトアという人物はまだ存命していた。
なんと言っても彼の者アルクトアは皇帝を退位したのち、騎獣隊の組織の構築に当たっていた。自らも海獣を数頭騎獣にしていた。
そして、彼らが思い出したのは、その厳粛な態度の多いアルクトアが、欣喜雀躍していた事を知っていたからでもある。
それだけアルクトアの喜びようは信じられないくらいには、はっちゃけていた。
「遠き地で血筋を引く者が、どうやら海の加護を得たらしい」という事を喜んでいたのである。
創ディアーク大陸の統一国ティーニア第七八代皇帝のアルクトア・タルワン・ヴォーは、その地位を息子に譲ったのちもご意見番として帝国内に明確な力を持って存在していた。
だからなのかもしれないが、遠く離れた大陸で自分の血筋が海獣系で最大の大きさの従魔を得た事を知った時、大望を抱いたのかも知れない。
二つの大陸の統一という夢を……。
ただ、アクィオもアーサもその気はサラサラ無さそうだけどね。
騎獣騎士たちの目の前で、そのアルクトアにそっくりの若者がオットトドの家族とともに召喚されたことは衝撃ではあったのだが、その関連性に気付かない者など居なかった。
だが、騎獣という足のない彼らにとって皇城までの道のりは遙か遠く感じられていたようであった。
「アーサ、表敬訪問するにしてもこれでは埒があかないな。今日のところはゴーレムハウスに入って俺たちは休むわ。……アクィオ、言いたい事もあるのは分かっているが、ひとまずゴーレムハウスで出番待ちという事だ。今回のハウスは半分海上に迫り出しているからな。オットトドのトッタのハーレムも全部呼ぶか? アーサに紹介してやれよ。いとこなんだろう?」
「いとこ?」
寝返った騎士たちもそうでない者も、青天の霹靂といった顔でこちらに振り向いた。
アチャーという顔でこちらを睨んだアクィオに俺は失言に気が付いた。
「あ……、言っちまった。スマン。」
そうは言ったものの、顔は売っておいて損はない。
だが……、呆れた顔でアクィオが俺に言った言葉は予想外のものだった。
「セトラ、アーサにあいつらを紹介するのはいいんだけど、………コイツ例のスキルって持っているのか?」
その言葉にドキリとして失礼を承知でアーサを緊急鑑定。
…………なんで持っていないんだよ、魔物誑しの弟子…orz
って、当たり前か。俺と一緒に行動していた訳じゃないからな。
この国の従魔は、調教契約が主体。
個々に気に入ったとかそういうレベルでの契約だから、それぞれの騎獣になった魔獣の判断で契約が破棄される事もしばしば有る。
もちろんそこに介在するのが、調教師であり、契約の魔法士だったりする。
その点、魔物誑しの弟子や魔物誑しというスキルに関しては、従魔になるのも解除するのも相互に同意が必要となる。
その代わり、絆の深さは超一級品。
魔力の経路も相互補完にされるくらいには。
いまのアーサに必要な事は、そういうことなんだとは思う。
後はアーシィの顕在化かな。
いままでにも何度も彼らの前でアーシィが無意識下から、顕在化しては目の前の難問を解決してきたりしていたのだと思う。
そうでなけりゃあんなベランメェ口調にヒトは付いてこない。
だけど、今のトリケラを従えようと思ったら、それでは足りないという事なのだがな。
この星の魔獣と化していて、尚且つ聖獣としての要素を持っているという事。下手すると神獣だったりするかも……。
あの時の邂逅で判明した、その要素のどれか一つでも該当してしまうと、余程の奇跡がなければ従魔になる確率が無い。
ここの皇帝に表敬訪問できなくても、トリケラに対しての手立ては多い方がいいからな。
最悪、アーサを攫っていくのもアリかも?
物事が進まない時に限って、余計なところが進んでしまうものなんですかねぇ……orz
ゴーレムハウスに入るかどうかのギリギリのところで、サッツシの方から緊急連絡がありました………orz
ゲンブの甲羅を乗り越えられそうだという事でした。
しょうがないから、ちょっと行ってきます。
「アトリ、コヨミ、最悪の時には、連絡してくれよ。」
「「分かったよ、セトラくん!」」




