海のあるじ、立つ! ~⑨~
そんなこんなで、アクィオの目の前で繰り広げられた超絶バトルに、彼はすでに遠い目をしていました。ヒトって自分の届く世界しか見たがらないものなんですねぇ。
「アクィオ、ちょっと長くなりそうだからトッタのところ行って飯でも食べて来なよ。嵐が通り過ぎ次第、呼び戻す所存だから。」
そう、伝えると素直に応じてくれました。
「お、おう。ちょっと行って来ら。」
「じゃあ、飛ばすね。」
「えっ、……ちょ、ちょっと待……」
きちんとトッタの居るところに飛ばしました。
「覚えてろぉ………。」
そんなこんなな状況でも、アーシィに対するティアの「蹴り」攻撃は続き、しかも途中でエネルギー(プリン・アラ・モットォ)を補給している始末。
お陰でアーシィは、みるみる窮地に追い込まれていく。
「おやつ食いながら、強くなっていくなんてズルいぞ!」
「食べている時に呼ぶ方が悪いでしょう?」
だんだん加速していくティアの「蹴り」が、アーシィの身体能力でも躱しきれなくなって来たのを見て、不安に駆られました。
「ティア、その方は他国の皇帝の子息で…「ぐはっ!」……遅かった……orz」
ここらで止めさせないとと声を掛けたのですが、時すでに遅く………、アーサことアーシィの生命活動が停止していました。
「ティアもアトリも少し考えて行動してよぉ。そんなんだからアレディア救済教議会の聖典に乱暴も…の……って、待て待て! 俺が言っているんじゃないよ。全世界的に認識されているんだよ。」
気に食わないフレーズがあったようで、彼女たちの発している雰囲気のヤバさは、格別のもので一睨みで数年寿命が縮みました。
『あるじ殿の寿命は、今のところジュゲムでござるよ。多少減ったほうが……。』
そう、呟いた火モグラが居たとか……。
そうなんだ。
…………ちょっと待てぃ!
なんだ、そのジュゲムとか怪しさ大爆発だろ!
『あるじ殿? 守護者になったでござるよね? ドラゴン、狼、草木と虫たちの三種でござったはず。守護者はなかなか現れないでござるよ。現れると、その種族のモノたちは守護して貰うために全力を挙げてフォローに回るのでござる。経路が繋がるのでござる。今までにも何人か一つの守護者になった者は居るでござるが、一つでも長命でござったよ。七種を完全制覇したものはそれこそ神と呼ばれたでござるよ。リュウ殿、久し振りでござる、火モグラのコーネツ、御前に罷り越しました。』
『おお、コーネツかぁ……。久し振りだなぁ火モグラ族の中でも最年少だったのになぁ。』
リュウが想転移使っていました。
いや、彼も俺なんですが何となく違和感が。
『でも、あるじ様。病気とか怪我にはご注意くだされ。守護者でも出来る事と出来ない事がござるでござる。』
『ああ、分かっているよ。……守護者だがな、竜種、犬神族、森林全般、つい最近、海の守護者になったな。そっかぁ……、ジュゲムか。それに加えて……。』
ちょっと、遠い目になったのも仕方の無い事であろう?
そんな会話をしていましたら
「殺してしまったものは仕方ないわ。復活させましょう。…呼んで!」
そう、穏やかな笑顔を顔に貼り付けたまま、そう言うティアの言葉に俺はリュウ共々、従うしかありませんでした。
「ハ、ハイ、分かりました。」
だって、…怖いんだもの……orz
「捜転移、コヨミ召喚。」
呼んでしまいましたが、召喚された本人を見て血が逆流しそうでした。俺の鼻も強くなったものだ。で、堪能していましたら、涙目になっているコヨミに気が付いて後ろを向きました。
ですが、チヅルさんはひどく冷静で。
「セトラくん、リュウくん、メッだからね。」
コヨミの顔で、ひどく蠱惑的な微笑みが。
俺の中のリュウはひどく震えていましたけど……、まさかね。
「コヨミ……、素敵だよ。凄い可愛い!」
素直な感想が俺の口からポロリ。
コヨミの照れてはいるけど嬉しそうな笑顔が、また良かったです。
それにしても、スカート丈の短いメイド服に生着替えしている最中って。
何がどうなっているのでしょうか、というか向こうに残っている人たちもそうなんですか? みんなメイド服? だとしたら、なんで?
「全ての処置は後よ。今はやる事やってしまいましょう! 出て来なさい、フェニックたち!」
コヨミの口から出てくる神獣の名前に、驚く。
ええっ、不死鳥は?
コヨミ=チヅルの左手の人差し指の先端に、ぽっと小さな火が点る。急激に大きくなった火から朱い小さな小鳥たちがポロポロと零れてくる。
アーサの体に取り付いていき、その炎を輝かせる。
「フェニック、アーシィとアーサを生き返らせなさい!」
その言葉に反応して一瞬後。
「あちちちっ!」
アーサが目覚めました。その第一声は……。
「あれ? お花畑が消えちゃった……。」
でした。……てか、マジで死んでいたんですかい!
ほぅと胸をなで下ろした瞬間、コヨミの爆弾発言。
「良かったね……、ご……。」
ご?
「ご主人様♡」
「……、なんですとぉぉぉぉぉぉぉ?」
不思議な言葉が聞こえました。
俺の脳がやられたんでしょうか、理解が追いついていませんでした。




