海のあるじ、立つ! ~⑧~
「あ~アクィオ、こちらはアレディアに友好及び通商条約を締結に来られた使節の方だ。このアレディアの海上を北東方向に五日から七日ほど風任せに進んだところにある大陸創ディアーク大陸統一国のティーニアの第一皇帝位継承者……、アーサ・リドロ・ヴォー氏だ。」
俺がアクィオとアーサを対面させた際の紹介の言葉。
「アーサ殿、こちらがあなたの探していたアクィオ・マヤチグです。海の獣の加護を持っているのはご存知ですよね。」
俺と使節の方との会議になんで自分が同席しなければならなかったのかはアクィオの顔を見ていても、この期に及んでも分かっていなかったらしい。
こちらを突いては小声で問い掛けてくる。
「セトラ、セトラってば、なんで俺がこんな所に同席しなきゃなんないんだよ? それに海の獣ってトッタの事か? アイツは俺のダチなんだから譲る気はねえぞ。」
それを見て見ない振りしていたアーサもまた、気のいいヤツだという事は分かった。
「いや…、アクィオ君その心配は要らない。私は私だけの相棒を探すから。大丈夫だよ。でも、君は知らないだろうが私の父はティーニアの皇帝だが、そのまた父…、つまり祖父に君は良く似ている。」
アーサはアクィオに安心するように話した直後に、特大の爆弾を落とした。
「え…、良く分からないのですが…………………。あなたのおじいちゃんに俺……、僕が似ているという事なんですか? …………えっ、もしかして……、僕とあなたって、ひょっとして、もしかして、………いとこ…なんですか? 本当にマジで?」
ようやく思い至った結論に事の重大さに絶句していた。
いとこの時点で、アーサは頷いていたから明確になった事柄と同席していた理由にようやく気が付いたらしい。
「……いとこかぁ。うん僕たちは、いとこだね。いいなぁ、いとこって…そんな関係なんだなぁ…僕たちって。」
自分の加護を願える獣を探しに来たというのに、なぜか和んでしまっているアーサは自分の心の変化に気付いた。あんなに焦っていたのに。国のために加護の獣を見つけるんだって思っていたのに。
アーサは自分が微笑んでいる事に気付いていなかった。
彼のその何かから解放されたかのような笑みは知らずヒトを温かい気持ちにする。
「……なぁ、セトラ。俺は皇帝なんかなりたくないから、コイツに力を貸してやろうぜ。」
「皇帝ですよ、皇帝。それに成れるかも知れないのに、彼の力になると言うんですか?」
ちょっと、ビックリした。あのアクィオが……と。
「今……なんか失礼な事考えていなかったか?」
ジト目で睨んでくるのを感じて目を逸らした。
「え……、別に。あのアクィオが皇帝なんて美味しい立場を放棄するなんて言っているんですよ。これが驚かないでいられるというものですか……あ。」
ちょっと、失言。
「セトラ、おまえなぁ。俺を見くびるんじゃないぜ。ク・ビッシの魔法士隊に所属になっていた時に上司になっていたのはクソ貴族の息子たちでよ。自分の親が偉いとかで、威張り散らしていたんだぜ。あいつら自身にそんな力なんてなかったのにな。王も年若くて宰相の言いなりよ。あいつらに比べりゃ、コイツは年の離れた俺にもそれなりの対応をしてくれる。そこんところがなんとも良いって感じているんだよ。確かに皇帝だか、王だか成れるって聞いて浮き立たないヤツは居ないな。……だけどよ、おまえ、王になってどのくらいの案件を処理してきた? おまえを見ていたら、俺はなりたくないし、なって数え切れない責任被るくらいなら冒険者のままで良いと、思ってしまうんだ。自分自身に対しての責任なら被れるからな。」
ふうん、考えていたんですねぇ。
「熱いな、アクィオ。」
そう言ったのは、今の言葉を近くで盗み聞きしていたアーサでした。
「本当に、昔から変わんないねぇ。」
そういう俺の言葉に、赤面状態になったアクィオでした。
「大丈夫だよ、アクィオ。アーサにはきちんと加護を持つ獣には縁があるから。」
「え……、マジ。」
そう答えたのはアーサでした。
「アーサの中のヒトが鍵ですよ。………そうでしょう、アーシィ。俺がリュウだというのなら、あなたはアーシィなんですよ。そう、彼女たちもそう言うでしょうね。」
前世の記憶を取り戻す鍵の言葉を放った。
「彼女たち……、セトラ、そんな事言っていたら、殺されないか? 彼女たちに。」
「た、たぶん、大丈夫です。……ええ、たぶん。」
アクィオの言葉についビビりました。不用意な事をしなければ、たぶん大丈夫。
絶対とは言い切れないのが、俺の心を揺らしますが………orz
そして、好奇心に負けたのでしょう……アーサがぽつり。
「僕の中のヒト……、アーシィさま? 本当に?」
「ええ、そうですよ、アーサ。居ますよね、アーシィ。ティアとチヅルが………。」
ティアの名を出した瞬間、アーサの放つ雰囲気が変わった。
「随分若返ったじゃないかよ、リュウ。そっかティアも一緒か? ん、トリケラがいねぇな。どこ行ったんだ、アイツ。」
やっぱり、この人のご執心はティアだったようです。
「あ、アーシィさま? ぼ、僕、アーサです。アーサ・リドロ・ヴォーです。」
アーシィの口からアーサが挨拶する……少しややこやしい関係だ。
「俺はアーシィ・チ・ロヴォアだ。説明しなくても分かっているから良い。おまえの一番の悩みもな。トリケラが居れば直ぐに解決するさ。」
「オーケー。じゃあ、トリケラを捕まえにいこうか?」
「その前にティアを呼んでくれ。長年の決着をつけてやる。今度こそ、な。」
「えっ、今かい。……分かった。えっ、リュウ? ちょっと待って! 捜転移、アトリ」
俺の中のリュウが、しゃべり出すものだから、戸惑っているうちにアトリを呼び出しちゃいました………。これは覚悟を決めなくてはなりません。そういうことです。
恨むぞ、リュウ!
でも、これでダンジョン二十五階攻略の目途が立ちました。




