海のあるじ、立つ! ~⑦~
若干、短いですが……。
「アクィオ・マヤチグ、君は皇帝になりたいか?」
超直球で聞いてみました。
後ろの壁で隔絶はされているものの、音声の透る場所に居る人物がずっコケる音が遠くで聞こえた。
「はぁ? 頭は大丈夫か? セトラ、医者呼ぶか?」
アクィオ、おまえに言われたくないわ。
ここはパレットリア新国のゴーレムハウスの工房。
切り出されたパーツに魔力を注いでは組み立てていく。
簡単そうに見えていて、実は大変な仕事である。
何しろ、内部にはミスリル糸が神経の如く張り巡らされているが、パーツの接着面に出ているミスリル糸の端子を取り違えるとゴーレムは起動しないのである。
もちろん「工事屋」の複数人がグループになって一体のゴーレムハウスを作っていく訳なのだが、こと魔力操作の長けているマヒト族やタダビト族が担当している。
オットトドのトッタを従魔にしたお陰で、アクィオの魔力操作の細やかさに変化が生じ、彼はいま主に外装の接続を担当している。
トッタはメス一頭とその子供たち二頭の簡易ハーレムのボス。本ハーレムは、十二階に置いてきてある。頭の良い連中で、アクィオの拙い技術を補完していた。
とはいえ、実情はこんなものですが。
『アオッ、アオアオアオアオ、アオゥ…、アオアオ…? アオオゥ? アオゥアオウァオウ、アオゥッ!』
おやつは偉大ですねぇ………orz
何故、ここでそんな話をしているかといえば、拿捕したアーサ麾下の船団の食糧確保と拘束場所の両方をクリアするためにゴーレムハウスを設置したのですよ、もちろん王族御用達バージョンで。アーサの現在の格を重視しての事ですが……。
数日間貸与するゴーレムハウスに興味を持ち、ゴーレムハウス内の調度品やらを確認したあとに、予算を聞いてきたのでひとまず歓待しようかと思い、アーサのみを連れて来た訳だったのだが。
そしたら、今日の「工事屋」の当番にアクィオの名前があったという訳だ。
ひとまず、聞くのが筋だろう? 皇帝の血筋だって言うんだからさ。
「だって、アクィオおまえさ、オヤジかお袋がこの大陸の出身者じゃないだろう? サッツシ同様にその風体が物語っているよ。おまえ自身がそうだという自覚は無くても、親とかはどうなんだ?」
俺が話している傍から顔色を無くしていくアクィオに気が付いた。
「どしたの?」
「お袋が祖母ちゃんに手紙を出したって言っていたんだけど、俺……祖母ちゃん居るのって知らなかったんだ。オヤジは手紙なんか出さなくていいって言っていたんだけど。これは吉兆かも知れないって、お袋が強引に出したんだ。なんか、返事が来たと思ったら、直ぐに祖母ちゃんの所に行くってお袋が言い出すものだから、「俺、工事やらなきゃ」と言って無理矢理、出て来たんだ。俺の「工事」で、確かにオヤジたちも潤っているからそれを止める事は出来ないみたいで、な。これから、どーすっかなぁって思っていたんだ。」
アクィオ君、しゃべるしゃべる。余程溜めていたようですなぁ……。
「ふ~ん、そうだったんだぁ~……。」
内容聞いて頷いていたら、アクィオがキレた。
「……セトラ、テメェ何を知ってやがる! この大陸に皇帝なんてレディアンのサッツシのとこくらいじゃねーか。「皇帝になりたいか?」って聞いてきたのに、何が「そうなんだ~」なんて、しら切っているんだよ!」
遠くから想転移で繋がっているアーサの呆れた声が、聞こえました。
「………国民が王を呼び捨てにしている。何という豪気な国だ……。」
アーサ君、それ違うと思うよ。
俺はキレたアクィオに胸ぐら掴まれて揺さぶられながら、そう思っていました。




