海のあるじ、立つ! ~⑤~
「ギャゴ? ギャオギャオォ? ギャオギャゴォギャゴォギャゴ? ギャオオオオオオオオオッ!」
青い鱗を煌めかせて海面から顔を突き出してきた海竜が吠え声を上げたら、白い羽毛のドラ吉がずいと出て一言の元に海竜を全否定されました。
傍目から見たら、怪獣大戦争さながらなんですけどね。
「ギャオウ?ギャオ? ギャゴギャゴ」
「誰に向かって口聞いているだか、タツ雄? あるじ様を知らないとか、どこの田舎者なんだすか?」
怒りを込めた静かな声が降ります。人化したドラ子でした。
「た、た、た、タツ雄~?」
目の前で繰り広げられる怪獣大舌戦に、周りに居るヒト族の目が点状態。
『ギ、ギィオ、……ギュイ? ギョオウギュ……ギャオ? ギャゴ? …………ギ、ギャゴォ?』
なんかドラ吉とドラ子に食ってかかっていたタツ雄という海竜が、何じゃコイツと言わんばかりに俺の方を見て、きっかり一分後にその場で腹出して海面に浮かんでおりました。
涙目でした。
『海竜の降参です。どうやら、ゲンブ殿に跳ね飛ばされて怪我したのを今まで掛かって治していたために現状に疎くなってしまったようです。』
ドラ吉の解説が、何かもの悲しく聞こえました。
『ああ、ゲンブ急浮上の時に何匹か跳ね飛ばしていたっけ……。あの時の関係者か……。なら仕方ないな、今回の言葉は忘れる事にしよう。』
想転移しておく。
海竜から安堵の波動が伝わってくる。
『しばらくは、海の中で考えていろ、ドラ吉やドラ子たちのようなスキルを手にしたいかどうかを、さ。』
『ありがとうございます、あるじ様。考えさせて頂きます。ひょっとして、他の竜たちの事、ご存知でしょうか? 最近、出会わなくなっておりますので……。』
『ああ、知っているぞ。長老共々パレットリア新国を中心としてそれぞれにいい場所が与えられている。俺の嫁たちによって、な………orz』
しばらく、涙目でマイッタしている海竜を眺めていたのだが、周りのヒト族たちの興味津々の視線が俺に突き刺さって来ていたので、海中に控えさせました。
今後の身の振り方も考えさせながら。
ですが、俺の取った行動をつぶさに見ていたラドロ氏の視線の強さには参りました。
「あなたは一体何者です?」
そう言われた時、心の奥底で『オレもあなたに問いたい。』と、呟いた方が居りました。彼がそう言うのなら、やはり何らかの関わりがあるのだろう。
「そうですね。その疑問は当たり前の事ですが、あなたたちの事は秘密で俺の事の逐一を、詮索されるというのは好きではありません。先ほどの行為にしても一切の説明も無しでは、お互いに友好関係など築けるものでもありませんよね。」
そうクギを刺すと、ガレー帆船に乗っていた親衛隊士たちがこちらを睨んできていた。
ア・ラドロ・ヴォー氏に対する言動が彼らの琴線をどうやら強烈に刺激するようで、物陰から、人の影からとこちらを常に意識していた。
「そうだな。わたしも立場を明らかにしなければならないか。」
その言葉に嫌な予感を覚えて、火モグラたちに風貝の録音を開始させる。
陸地が繋がってしまえば、彼らに入れないところはないからな。
「創ディアーク大陸第一皇帝位継承者……、アーサ・リドロ・ヴォーと、申す者。先ほどの行為は神獣への祈りとして、我が大陸で行われている祈りだ。」
ラドロ氏改め、リドロ氏の自己紹介であった。
「わたしはパレットリア新国の王、エト・セトラ・エドッコォ・パレットリアではありますが、わたしの魂の奥底から先ほどから言葉がなぜか浮かび上がってくるのですよ。あなたを見ていますと、ね。失礼を承知で申し上げますが、ロヴォアという姓に聞き覚えは有りませぬか?」
俺がそれを問うた瞬間のアーサ・リドロ・ヴォー氏の顔が、驚きに彩られていた。
「わたしの家に伝わる、古き名を何故あなたが………。」
「アーシィ、オレだよ。リュウジュだ。」




