海のあるじ、立つ! ~③~
竜カゴに乗って浮かれていたア・ラドロ・ヴォー氏は、わずかな飛行ののちに到着した眼下の海で繰り広げられているガレー帆船の所業に真っ青になっていた。
「さてさて、これはどういう事でしょうか? わたしの従魔たちを一斉に捕獲するお積もりですか?」
俺は、到着した旨を眼下のフラムンたちに想転移しておく。
「あなたの従魔だと仰るのか? あの輝きが全部……。そんなばかな……。」
あり得ないという気持ちがだだ漏れしていたが、事実は事実だ。
「これは大陸間の国際的な賠償問題に発展する事、必至ですね。あの従魔たちがわたしのものだという事は冒険者ギルドに確認すれば一目瞭然。あなたはこれをどうご説明戴けますか?」
眼下に広がる従魔たちの持つ証票に付いている魔石が発する障壁の紅い光は、船の上だけでなく、さらにその下の海を埋め尽くし始めていた。
極小サイズの魔石が有り余っていたから出来た事だけど、フラムンのヤツどこまで配ったんだ?
海の魔物のボスだからと配下に配るとは言っていたが…………なに? 空気が美味い。
普通に鼻から入る空気は普通のニオイだが、これは………、どういう事だ?
ふと気になって鑑定を発動し、気になる項目を確認してみました。そして、そこに増えていた数文字に脱力しました。
…………何故か海の守護者になっていました……orz
……海って一体どこまで広がっているんでしょうか?
という事は、この空気が美味いという感想は耳の裏側の髪の生え際に変化があった様であるという事らしい。
エラってこと? ……マジかよ?
……まさかとは思うが、イカイガとか擬人化されないよな?
などと思っていたら、ラドロ氏の反論が。
「……大陸間の国際的な賠償問題ですと? この大陸を統べる者はおられないと聞いております。我が大陸は統一されておりますが、これが同等の格を持つとは到底思えないのですが。それに我らには……。」
ア・ラドロ・ヴォー氏は、眼下の状況に釈明を求められながらも大陸間同志の話にはしたくないと考えているようであった。……筒抜けだけど。
「そうですね、この大陸を統一する者はまだ立っていません。『ディノ、リフトアップ開始してくれ。船団を囲むようにだ。』 ですが、あなた方のお陰で同盟が先頃成立致しました。ですから、この大陸の盟主が立った事になります。ゆえに、既にこの開港及び漁業通商条約でしたか? これは、二つの大陸間での取り決めへと変化しております。それにしても…資源の採掘というよりも現状では盗掘とでも言えそうですな。しかも問題になりそうな行動。ドラ吉、着地用意。降りるぞ。」
『グオゥ、グォラララァ!』
ドラゴンが吠えた事に眼下の人々は非常に狼狽えていた。
「ちゃ、着地ですと?」
そんな馬鹿なと、カゴから身を乗り出していたラドロ氏はその規模を見て絶句していました。
底引き網を仕掛けていた船団を囲むように、陸地が出来ていく事に……。
「盟主が立った事で魔王の国にも応援要請が出せたようだ。あの指輪型の陸地の台座部分に魔人ディノが立っているはずです。連絡は来ていますので。」
今日は魔人としてディノ自身のお披露目という事もあり、気合いの入った格好であった。
黒いドレスは風になびき、「イヌミミは≠ネコミミ?カチューシャ」でヒトミミに偽装していた。
肩に同じような黒のドレスのガリィが乗っていた。そのガリィの術で赤い輝きが少なくなっていく。陸地が底上げをしているようで、その底から赤い輝きが海底に戻って行っていた。
妖精種の魔法は初めて見たが、俺たちに引けを取らない高レベルさだ。
「ま、魔人? それにアレは絶滅したはずの妖精種? そんな馬鹿な!」
馬鹿なとは言われていたが、現状はそうなのだからどうしようもないのだけど。
ドラ吉はその魔人の傍に降り立った。
竜カゴを降ろすと、そのまま待機に入る。いつでも戦闘に入れるように。
「君たちは、ここで何をしているのかな?」
俺が問う。
その言葉遣いにラドロ氏が、疑念を持ったようで振り向いてくる。
ドラ子が飛来し、人化して、俺の脇に控えた。その両目は爛々と赤く輝いている。
「りゅ、竜人?」
ドラ子の横に、魔人ディノが来る。そのままドラ子の逆側に立って控えた。
「魔人まで、あなたの傍に……、あなたは一体何者なのでしょうか?」
その敬語に船団の者たちがどよめく。
「わたしの名はエト・セトラ・エドッコォ・パレットリア。パレットリア新国の王にして、このレディアーク大陸の盟主である。では、君たちに問おう。ここで君たちは何をしていたのか、明確に答えてもらう必要がある。なぜなら、君たちが手にしているその赤い輝きはわたしの従魔である証だからだ。」
盟主である事を告げたあと、彼らの責任の所在を……問うた。
地獄のような静けさだけが周囲を漂っていた。ラドロ氏を含めた全員が……である。
既に盟主は立った。
そして、俺は守護者になった………orz
あとは、どう手仕舞いするかだけだ。
そして、俺たちは海に降り立ったのである。




