海のあるじ、立つ! ~②~
「ア・クラツ王より、今回の裁定に加わる事になりましたエト・セトラ・E・パレットリアと申す者。以後、お見知りおきを。」
「あ…、ああ。よ、よろしくお願いする。……パレットリア? あなたはパレットリア新国の関係者なのですか?」
いきなり交渉者が変わったのだ、戸惑いも大きい様である。
しかし、情報弱者では無さそうだな。しっかり、パレットリアを認識しているのだから。
だが、なんと言っても、俺の見た目はまだまだ小僧だしな。
「ええ、この国とも親密にお付き合いさせて戴いている関係者になります。」
笑顔で、そう言うと彼の目つきが険しくなった。
そこを上手く躱して、料理に取りかかった。
うん、教えた甲斐がある。雲泥の上達具合だった。
こちらに来る前にアレディア帝国の東岸壁に寄って、フラムンたちの様子を確認してきていた。
その時には、陸上より離れたところで船団は沖に流されないように錨を海底に打って泊まっていた。
フラムンたちの要請もあったが、その状況を見て風たちを呼んだのだ。
『風よ、疾く来よ! 波を荒くし、彼らをここに近づけるな! 颯転移!』と。
その上空には、呼んだ風の力も利用した雲の塊を颯転移していた。
もくもくと盛り上がる雲の塊に、船団が慌てて沖に向かったものだ。
これで大丈夫だろうと思っていたら、船団の方でしびれを切らしたようだ。
ルゥがコソッと、フラムンからのその後の情報を伝えてくる。
「あるじセトラ。フラムン殿から緊急の知らせが来ております。」
「ありがとう、ルゥ。ちょっと繋いでみる……窓転移。」
従魔たちから、送られてきた映像はひどいものだった。
錘付きの網を海底まで届かせるや、そのまま引き摺って沖へ戻るというガレー帆船の特長を生かした荒技をやっていた。資源の発掘などでは無く、資源の枯渇を狙っているかのようであった。
『あるじ様、これでは……。我らは無事でも、住む環境が……。』
フラムンの言葉が、聞こえていた。
『先ほどお寄りになった際に、与えてくださった障壁でみな頑張っております。お早く……。』
窓転移で映っていたものは、見ていて顔を顰めたくなるようなものばかりで今現在アレディア教主国の執り行われているこの歓迎の式典は何なのかと、怒りすら覚えるものでした。
「ですが、条約を締結する前に、一方的に漁場を荒らそうとするのは、あなたの国の不義理を示すものとなります。」
俺の言葉に唖然としたのはア・クラツ王、アキィムを含むこの国の重鎮たち。
「まさか、これが本当ならば直ぐにでも賠償金を請求させて戴きますぞ?」
「そんなばかな。そんな事は私は指示していないぞ。すぐに確認に迎うぞ!」
随伴の者たちと急ぎ出て行く。
ア・ラドロ・ヴォーの慌て振りは演技には見えなかったが、彼だけを行かせて逃げられても些か問題がある。
「セトラ王、お願い致します。」
ア・クラツ王とアキィムの兄弟が、真摯な顔つきで俺を見ていた。
「ああ、分かっている。ドラ吉、カゴを用意しておけよ!」
『アイアイサー』
ルゥと一緒にア・ラドロ・ヴォー殿を追い掛ける。
こちらは勝手知ったる城であっても、彼らはそうではない。
城の出口を探してあっちにウロウロこっちにウロウロしていた。
「ア・ラドロ・ヴォー殿、竜カゴを用意してあります。こちらへ。」
そう呼び掛けた。
「す、済まない。しかし、これほどの竜をどうやって……、躾けられたのか?」
この期に及んで、そんな言葉が出るというのかと、ほとほと呆れた。
「だが、あなた方の技術も大したもの、この荒れた海の代表格の中でこれほどの操船が出来るとは。素直に感心致します。」
「これは我が国に軍師が誕生したお陰でしょう。まさかガレー船と帆船を組み合わせようとは思いもしなかったですからな。おっと、これ以上は……。」
そう言いながらも内心浮かれまくっていて、心の声はダダ漏れでした。
厄介な事が、お陰で判明した。
『前世持ちが現れたという事だろう、な。』
俺たちだけじゃないという事か、それともまさかの知り合いか。
早急に、現地に行って確認を取る必要が出て来たか?




