153, ダンジョンで、……攻略は、二十四階へ ⑦
今回のお話はさきに『魔法の花冠』を読むといいかも。コラボしています。
「え? え……、ええええええええっ。マ、マスターぁぁぁぁぁ? 「チャァ」のマスターって………、あの方が?」
「ルゥ」の驚きの声が炸裂した。
「いまさら……、何を言ってるのだ? ルゥよ、わたしたちのあるじ様だぞ、何があっても不思議では無いわ!」
ゲンブが偉そうに語っている。
「わたした…ちのあるじさ……ま? えええぇー、ままま………まさか? セトラさまが? そんな…、う…、うそを……。でもこの感じは……。ひょっとして本当にマスターなの?」
絶句している「ルゥ」が居ました。
「どうした? 緊急発進でもするのか? ルゥ?」
あの時の合体を思い出したのか、ルゥが固まった。
「あ…あああ、マスタ……。マスターぁぁぁぁ、………うえぇぇぇん……。」
いきなり泣くなんて子供か? お前はっ! とは思ったものの、オレも涙がこみあげていたよ。
アトリとチャァ、オレとルゥが落ち着いてきた時のそのタイミングで夢の中で請われて渡したはずのゴーレムボックスに、彼かもしれない人物? から入金がありました。
ただ入金された硬貨を見て、思わず懐かしさがこみあげてきました。
オレのじいさんからの遺産とも言うべきもの。
でも俺のじいさまでは無い人のもの。
五〇〇ギェン硬貨……、懐かしいという思いとともに蘇ってきたあの頃のドタバタ。
オレとアトリがいるのだから、他のメンバーも居るのかもしれないなとは思った。
鑑定のメニューを開くとそこに並ぶ数字は「二十七個」の文字。
あの時の個数を送りました。一文を添えて。
……懐かしすぎですよ、まったく。
と、「ルゥ」が遠くに見えるゴーレムハウスが歩いて近付いてきている事に警戒感を持ち始めたようで、左の腕の羽毛を変化させて長弓と矢に変えていた。
お前はライジーンかよ。ああ、そう言えばアレも飛んだっけ……。
だが、万が一にでもゴーレムハウスに当たると、ゴーレムハウスの方が自動で反撃してしまう可能性があるため、オレは「ルゥ」に声を掛けた。
「「ルゥ」、アレは敵じゃ無いよ。というかオレの持ち物だ、手を出すなよ。痛い目を見るからな。それよりも、アレと同じ技術で作ったコレの方が気にならないか?」
「ルゥ」の目の前に取り出したのは、使い込まれたゴーレムボックスでした。
「そ、それは……。プリンの箱!」
プリンが雪崩れ出て来た光景が心に焼き付いていたようで、何故かトラウマっていました。まあ、あの時のショックはデカかったはずではあるからな。
「いま思い返しても私にとってもそれは懐かしい光景だね、セトラ君。」
そう言ったのはコヨミではあったのだが、その物言いは……、誰ですか?
コヨミが懐かしいという光景って、アトリに「チャァ」が引っ付いていて、俺と「ルゥ」が話している今のコレのことだとするならば、それを見たのはいつのことになる?
まさか?
「な、懐かしいってコヨミもそんなとし……、いえ、何でも無いです。というか、誰ですか? コヨミの話し方では無いですよ、それ……。」
俺の言葉を聞いて、アトリの顔が強ばっている。オレだって強ばっていたはずだ。
「チャァ」と遅ればせながら人化した「ルゥ」もだ。
「久し振りだね、まさか私がリュ…ととと、セトラ君の嫁になるとは思わなかったよ。とはいえ、今更だけど一番を譲る気にはなれない。それはわたしがいやだから。それにこの庫炉里でまた彼らに会えるんだ。ほら……、聞こえるでしょう?」
コヨミの話し方と、チヅさんの話し方がコロコロと入れ替わる中、庫炉里の奥で、重々しい扉が開く地響きと音がした。
セトラとしての仲間たちは、その展開にボー然としていた。
そして、何かが飛んでくる気配。懐かしい気配が周囲を席巻しようとしていた。
文字通り、宙を翔んでくる彼らの後ろから溢れる黒の冷気が、この階のボスを形作っていく。
この庫炉里を護るミッションが、始まった瞬間だった。




