151, ダンジョンで、……攻略は、二十四階へ ⑤
奥の方からカッ飛んできて、今まで話を聞いていた俺たちの目の前で『ルゥ』が掻き消えた。話していた【ヒトの秘密】という文言から鳳凰の片割れの『チャァ』であると想像がいったが、過激の行動が伴っていた。
「あんたらかい? あの亀の関係者っていうのは?」
どこかで見たな、これ……。つい、そういう感想を持った出来事でした。
流れるような銀の髪が肩先まで伸びており、いまは意思あるものの如くサワサワとさざめいていた。一六〇セチくらいの背丈に女性型らしい繊細な造形を誇り、動きやすさを重視した短ブレザーと膝丈のスカートを着用していた。足元は当時の彼女たちの履いていた足首までの可愛い編み上げシューズ。
『ああ、あの頃の彼女を彷彿とさせるな……』
そう、俺は思っていた。その躍動感、動きのキレと蹴りの凶悪さも。
そして、つい口からポロリ。
「似てる…。」
「本当ね。」
まさかの独り言への返事があるとは思っても居なかった俺は、焦って振り向いた。
そこに立っていたのが……。
「アトリ……、え……、ど、どういうこと?」
そこに立っていたアトリの表情が、なんというか心惹かれるもので、本人も面映ゆそうにしていた。
「シノブ姉ぇの言っていた通りになっちゃったなぁ。……どうして、セトラ様が気になっていたのか、ようやく理解できたのに……。どうして、一番じゃなかったのかなぁ……。」
そう呟いていた。視線を向けてみると、テレテレーと照れ笑いをしてくるので、普段の行動とは逆の行動にドキリと鼓動が跳ねた。
「本来、こういう記憶が蘇る事はあり得ない事だからな。」
ヒリュキが……、いやヒリュキ・サト・スクーワトルアではなく、ヒリュキ・サトーが横に来ていた。
「……あんたたち、なんか不思議な会話しているけど、こちらの話って聞いてる?」
つんぼ桟敷に置かれていた『チャァ』が怒りに目を吊り上げてこちらに迫ってきた。
「『あ…、いや済まない。ゲンブ…、ここに居たと思われる亀の現在のあるじです。超々深海から引き上げて従魔にしたんだけど。ここから出奔したとか知らなくて、ご免ね?』」
現世での関係を盾に乗り切ろうとしたのですが……。
「ハン、現在のあるじがあんたか? じゃあ、あの亀ここに呼びな! アイツに言いたい事があるからさ。」
「言いたい事? 言わせたい事ではなくて、言いたい事?」
その言葉に、こちらが謝罪するとか言う話では無さそうな……、とか思っていると「チャァ」の表情が朱に染まる。
「い、いいじゃないか、そんなの。さっさと呼びな!」
口を尖らせて言うその姿になんだか、カワイイとか思ってしまった。
「セトラ君、何しているの?」
コヨミの声の冷たさにギクとか背筋が震えた。ここは誤魔化すしかない、それのみ!
「ゲンブを召喚、捜転移!」
対象物の詳細を知っていれば別に何を召喚とか言わなくてもいいけど、今回の場合はレディアン城近くで湾を封鎖しているデカい本体は海上封鎖のための障害物として置いておく必要があった。
ゲンブの現在の様子を探るべく窓転移をこっそりと使用してみたら、彼の視界にはレディアンに面している海に帆船が集結しつつあったからだ。
なんとも、きな臭くなってきていた。
で、もしかしたらとか思って東のアレディアにも似てはいるが少々形の異なる奴隷の漕ぐガレー船に帆柱を立てたものが近付いていた。
こちらはとび鯛のフラムンが警戒していた。少々大きめのサメたちが回遊する事で、上陸を阻止しているようでした。
あの静かな浅瀬があったところにはダルマオクトパスのダルマンが詰めていました。
「『あるじ様……海が!』」
ゲンブが俺の両手に出現した。その手のひらサイズの大きさに『チャァ』が驚く。
「ゲンブ、お久し振りね。」のあとに、『……ゲンブ、オカエリナサイ。』
と、なぜかそこだけ魔物の言語でした……なんで?
「『? ゲ、……チャァ? あるじ様これは?』」
「『いや、積もる話もあるかと思って……』」
『な、無いです!』
「だそうだよ?」
「ありますよ。たくさん積もっていますから、たっぷり聞いてもらいましょうか?」
『チャァ』のイイ笑顔が、そこにありました。