147, ダンジョンで、……攻略は、二十四階へ ①
「だけどさ~、何でヒリュキもセトラもそんなに若いんだい? 俺なんか、もう働いているって言うのにー。ズルいぞー。」
ヒリュキも居るぞって話したら、くだ巻いてしまったハーフエルフの王子様がおりました。友達のほとんど王族って、どんなだよ……。あ、今は俺もか………orz
だけど何をどうやったら、あんなに薄っぺらな存在がこんなに立体的に戻るものなんですかね?
さすが、異世界。
ヒリュキと俺とシャイナーは七歳になったところだけど、マーサヒにとっては既に十何年か経っている訳だしな。そういう思いになるのは仕方ないと思うけど、他の方々でもっと年の差ある人たちも居る訳ですし、俺のせいじゃないけどゴメンナサイというしか出来ないよ。
「むぅぅぅ………。ちょっと悔しいけどしょうないか。それにしても、この餃子の香りだけでも起き上がってくる人たちが居るなんて、どんな食材を使ったんだい?」
マーサヒはようやく納得してくれたけど、今度は料理に関心が移ったようである。
あ、俺たちがマァス・アサヒ・サトゥーの事をマーサヒと呼んでいるのは、前世からの馴れ合いだよ。だって、読みにくいんだもの。彼も前世の後半は、小説家としてデビューしてマーサヒって使っていました。
「別に大した材料は使っていないよ? カウエルとポロッグの合い挽き肉に、ニリ、ショウガラ、キャベジ、隠し味に入れた塩、こしょう、味噌、自家製の小麦粉とデンプンの餃子の皮、癒やしの雨の白湯、これまた自家製の醤油、酢、ラー油だけ。ああ、白米はパレットリア新国のダンジョン製。」
俺は指折り数えながら、マーサヒに説明していた。
説明していくうちに、頭抱えて座り込んでしまったマーサヒ君が居ました。
「どしたの?」
俺がびっくりして聞いてみると、マーサヒ君がプルプルと震えていました。
「何で、気が付いていないんだ? 全部、現時点のこの大陸においては超高級食材ばかりだというのに………orz」
マーサヒ君、打ち拉がれておりました。
「いつからだ? 確か私が閉じ込められる一年から半年ほど前にはもうこんな状態だったはず、そしてなぜか五,六年前からこの国は雨が少なくなっていたから、今では野菜どころか草さえも生えることすらない。カラカラに乾いた熱風が時折り、突風のように国を通り過ぎていた……。カウエルとポロッグだってぇ…、草を主食にするヤツらだし、水だってガブ飲みする。ニリやショウガラに至っては、薬草として栽培していたし…、キャベジなんて見たのさえ、いつ以来だ…?」
ぶつぶつと自分に問い掛けているマーサヒの姿が、なんとも言えないものだったりするんだよなぁ。
その姿を見て思い出したのが、かつてのタクラム・チューでの結界破りの事。
一番に効力をもたらしたのはコヨミの癒やしの雨だった。
だとしたら、やっぱり結界を張る時に乾燥させてしまうという事をやらかすんだろうな。
というより『五,六年前から』とか、『熱風が突風として』とか、どうにもこうにも、この大陸もひょっとして被害者だったんじゃなかろうか………。
俺がしでかした事では無いのだけど、なんとも胸の痛い事よ。
俺がそう思いながら、ルナに目を向けると青い顔をしていました。
「あ……」
ルナが何か言いかけたので、とっさに目配せして止める。いま言っても仕方の無い話だし、大陸の壁を通り越して魔法の効果がここまで届いていたとか、想像も付かないでしょうから。
「セトラ、代金なら、あとで用意するから。いまは結界の効果から抜け出て来ている者たちに栄養のあるものを摂らせたい。屋台みたいなものは無いか?」
さすがに王族だけの事はある。
「分かった。こいつを置いておこう。」
マーサヒのその言葉に、ゴーレム交番付きのゴーレムハウスを一つ置いておく事にする。
屋台では済まされないほどに飢えた人々が殺到するかもしれないからだ。
もう一つは独り占めしようとする者がいる可能性。
こういった時に冗談では済まされない悪事を働くものが出る可能性が、捨てきれないために「風貝」と、スクーリンをゴーレムハウスの一室に仕掛けておく。
ダミーの部屋に入ったものの会話や映像を残しておくためだ。その部屋の真ん中には、耐魔法耐スキルのケースに入れた金塊を飾ってある。
何もない事が一番いいのだけど、この混乱の時には……。
「暴れる事があったら、姿を現して威嚇してもいいからね。」
数個の一メル直径の岩に擬態したそれらに、声を掛けておく。
可愛いハサミが揺れていた。
窓転移が発動できるように最近ようやくなった。