イヌミミは≠ネコミミ?
俺が『守護者』になった事で、発覚した『守護者の眷属』というスキル。
これは前回レディアン皇国の騒動の時に、五人の嫁たちのステータスに与えてしまったスキルである。
しかもそのあとに、みんなで突貫工事したゴーレムハウス完成の打ち上げで、食べたドラゴンステーキが原因で五人の嫁たちの魔力量が劇的に増加した。
その結果、コヨミとアトリは狼耳が、リウスとリメラは逆にヒト耳という一つ目の眷属スキルが発動したのです。
この事が今、ちょっとした問題となっています。
何が問題かというと、リウスとリメラの両親であるレビン王子夫妻と、その親であるコロナ王に対して嫁取りの挨拶とともに、今後の日程などのご相談にスクーワトルア国に戻ったときのことである。
「よく戻ったな。久し振りだな。リウスもリメラも…? ………なにぃっ!」
レビン王子への挨拶として、リウスとリメラがドレスの裾を捌き、姫としての拝礼をしていたときに成長した我が子の姿に違和感を感じて、ついガン見していたときに気付いてしまった。
その違和感の正体に………気付いたレビン王子の受けた、その衝撃は計り知れないものがあったようで絶句していました。
彼の愛している娘たちに耳が無かった……。
ではなく、いつもの場所に鎮座しているはずのネコミミが無かった。
そして、それを為した者は絶対に彼の者に違いないと、レビン王子は確信してしまったのである。
なぜなら、コロナ王と談笑している彼の横には嫁たちが三人いて、なんとイヌミミが彼女たちの頭の上に付いていた……からである。
「いいわねぇ、私も体験してみたいわぁ……!」
レビン王子の隣から、不穏な言葉が憧憬の感慨を持って紡がれる。
妻のアクアの言葉に、ひとりレビン王子は震撼する。
イヌミミではなく、ヒトミミへの憧れであろう事は確かだ。
だが、それを為し得るのは今のところ、ただ一人。
彼、すなわちレビンの娘たちを欲しているムコ殿だけ。
何とも忌々しい、そう思っていた。
だが、顔には出せない。
なんといってもあのムコ殿は、現時点でも彼の父親と同格の王という位置にいる。
王子であるレビンが即位して、ようやく対等の立場になれるのだ。
その立場の違いもあって、何とも素直になれないでいる。
しかも、目の前で下げていた頭を上げた二人の娘たちの顔に宿っていたものは、悪戯が成功した時に見せる会心の笑顔であった。
その事もレビン王子の心にヤサグレ感を醸し出す土壌となっていた。
とはいえ、「床暖房」に続き、レビン王子専用を含めると四体ものゴーレムハウスをスクーワトルア国に納入してもらう相手に無理も言えないという、その心情は俺と一緒にいるヒリュキには、お見通しであった。
というか俺も把握していたけど。
だって想転移に含み笑いが伝わってくるんだよな。
レビン王子は仕方が無いので、王であり娘たちの祖父としての立場を豪語するコロナ王(つまりは親父どの?)に、話を振るように目配せする。こちらを微笑ましく見ていたコロナ王は、その目配せに反応すると学院での出来事などを聞き出していた会話から近況に変更してきた。
「ほうほう…、なるほどなぁ、だから大陸の端から礼状が届くという珍事が起きたという訳だったのか。…ときにセトラ王、可愛くなった孫娘たちの姿が変わっているようだが、何が原因か掴んでいるかね?」
コロナ王のいきなりの話題転換に、やはり来たかと俺は思考を組み立てていたのだが説明しきれるかは不透明なところだ。
少しはこちらの実情も話さなければならないかもしれないと、覚悟だけはしておこうか。
なんと言ってもレビン王子とその妃アクア様の視線が痛い。
「そのレディアン国での祝宴の際に、ふとした事がきっかけで……スキルが発動したようです。」
ちょっと苦しい説明になってしまったのは仕方ないかもしれん、そう思った。
「ふとした事? スキル?」
もちろん、コロナ王の追及は続く。そりゃそうだよね。
「コロナ王は、魔物たちに対してどのようなお考えをお持ちでしょうか?」
と言いながら小型化したドラ吉を招き寄せた。